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大事な物は……(末っ子8)  作者: 夏目 碧央


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10/11

ハイタッチとハンドシェイク

 数時間後、いよいよライブ本番となった。話し合ったフォーメーション通り出来るだろうか。いや、大丈夫だ。俺たち何年この仕事をやってきたと思ってるんだ。13年だぞ。ちょっと4年のブランクはあるけれど、きっと大丈夫。きっと。

 それに……楽屋にはテツヤがいる。みんな思い思いに行き来している中、あの麗しい顔の、ちょっとポヤポヤした性格の、俺の恋人がいるのだ。癒されると同時にやる気がみなぎるというものだ。

 そして、ライブが始まった。俺たちの復活を、多くの人が観に来てくれた。大きな混乱もなく、俺たちの方でも大きな失敗はなく、タケル兄さんは椅子に座り、俺たちは動き、踊り、時にタケル兄さんを囲み。何とか練習通りのフォーメーションを披露する事が出来たのだった。


 テレビ出演でも、歌を披露する時にはタケル兄さんが椅子に座る。数日間、タケル兄さんは杖を突いて移動した。楽屋でも、冷やしたり湿布を貼ったりして頑張って治そうとしていた。それを痛々しく見ていると、

「レイジ、また新しいサイン、考えようよ。新たなコンサートツアーの為にさ。」

テツヤが俺にそう言った。ああ、なんてイケメンなんだ。

 そう、俺たちには昔から二人だけのハンドサインがあった。最初はハイタッチにちょっとアレンジを加えただけのものだったが、だんだん凝るようになって、コンサートやテレビ出演の際にさりげなく披露していた。ファンもそうだが、メンバーもそれを見てよく笑っていた。呆れていたというか。何を一生懸命に練習してるんだよ、という感じで。

 俺は、とにかくテツヤ兄さんと特別な関係になれる気がして嬉しかったのだ。他にサインに付き合ってくれる人がいなくて、唯一年下の俺だけが付き合わされている、という構図だったが、俺は心底喜んでいた。

 もっと複雑な物を、と考えたテツヤは、色々と海外の動画を調べたりしてサインを考えていた。そのネタ元は、どうやら恋人同士のハンドサインのようだった。俺も良く知らない。テツヤがやって見せて、教えてくれる通りにやっているのだ。だが、指でアイラブユーを表すサインだとか、そのくらいは分かってやっている。これを公然とやっている事に、会社は何も言わない。意味が分かっている人がいないだけなのか、それともただの仲良しだと思って見逃がしてくれているのか。まあ、ここ最近は新しく作っていないし、披露する場面もなかったわけで、これから先は許されるのかどうか、分からないが。

「今回は、これを基に作ろうぜ。」

と、テツヤが動画を見せてきた。

「え……これ?」

いきなり結婚式の新郎新婦の映像を魅せられて、俺は動揺した。しかも、最後にキ、キスシーンが。

「本当に……?」

俺がテツヤを見つめると、テツヤは破顔した。

「いや、流石に最後のこれはしないけどな。何か代わりに……投げキッスをするとか、どうだ?」

俺も表情を崩した。テツヤは俺と恋人同士になって以来、その関係を公にしたくてうずうずしている。けっこう分かるようにSNSで投稿しているのに、世間が騒いでくれないのが歯がゆいみたいだ。バレたらどうなるのか、俺はドキドキしてしまって、できれば世間には知らせないでおきたいのだが、テツヤがしたい事は全部やらせてあげたいのも本心だ。だから、やれと言われた事は全部やるのだ。

 楽屋で空き時間があると、二人で練習した。その様子を会社のカメラが撮っていた。後々、ビハインド映像の一部としてその練習の様子が流れた事には驚いた。だって、会社は以前、俺たちが隣同士にならないように気にしていたのだ。どうしたのだ?しばらく活動休止していたから、みんな忘れちゃったのか?それとも、この2~3年の間にスタッフが入れ替わったり異動したりして、その辺の引継ぎが出来ていないとか?


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