水を得た魚
ワールドツアーが始まった。国内を皮切りに、アジア、アメリカ、南米、ヨーロッパと続く。こんなに長くツアーをするのは初めてだ。そういった意味でも、俺たちのグループは新たなフェーズに入ったのだ。
長くツアーを続けるという事で、かつてのスケジュールとは違って日程がゆったりだった。コンサートは一日に1公演だし、三日以上は連続しないなどの配慮があった。休みの日には出かける事も可能だ。せっかくのワールドツアーだから、観光したり名物料理を食べたり、楽しみたいと思っている。
「レイジは出かけないでいっつも一人で運動してるよな。しかも、動画観たりとかもしないで、ひたすらランニングマシーンで走ってるんだぜ。」
だがしかし、テツヤがメンバーの前でそう愚痴をこぼす事態になっている。だって、体を整える為には運動が必要なのだ。日中は体を休め、公演のある夜の時間帯に運動をすると良いのだ。
「明日、兄さんたちとピックルボールしに行くんだよ。レイジも行くだろ?」
テツヤが期待を込めた顔で俺を見上げるものの、やっぱり運動が……。
久しぶりの7人でのコンサートは、想像以上に楽しかった。何せ、テツヤが楽しそうなのだ。最近はすっかり大人らしくなって、ライブ放送をみんなでしていても、テツヤは黙って座っている事が多いのに、コンサートとなるとアドリブをかましまくり、メンバーに、というより俺にちょっかいを出してきて、やはりここでも仲良しアピールをするのだ。例のハンドサインも急に挟んでくる。俺、慌てて合わせようとして間違えてしまった事も。それでもテツヤは笑って許してくれる。そしてまた最初からやるのだ。
「あはははは、レイジ、もう一回だぞ!」
すごく楽しそうだ。まさに水を得た魚のようだ。テツヤが楽しいと、俺も楽しい。
アメリカのラスベガスでのコンサートが終わり、翌日は休みという日。メンバーみんなで食事をしに出掛けた。美味い肉を食べ、少しだけワインを飲み、気分は最高潮に。幸せだ。
「タケルの足もだいぶ良くなって、良かったな。」
ユウキ兄さんが言い、
「そうだな。バッチリ踊れてる。」
シン兄さんが優しい顔でタケル兄さんを見ながら言う。
「まだちょっと痛くて。バッチリ踊れてるかどうか。」
タケル兄さんが照れながら言う。
「でも、7人全員でまたコンサートが出来て、嬉しいです。」
テツヤが目をキラキラさせて言う。なんて……可愛いんだ!
ふと気づけば、横からカズキ兄さんがニヤニヤしながら俺を見ていた。何か言いたい事でも?
ホテルに帰ってきて、みんな思い思いに部屋へ戻る。
「お休み~。」
「お休みなさい。」
お互いにそう言いつつ、あくびなんかをしつつ、部屋へと戻る。部屋は必ずしも並びではなく、階が違うメンバーもいた。なんと、俺とテツヤの階も違うのだった。
「じゃあ、お休み。」
テツヤが俺とカズキ兄さんにそう言って、手を軽く上げた。俺とカズキ兄さんの部屋は隣で、テツヤの部屋の1つ上の階だった。
「おう、お休み。」
カズキ兄さんがそう言った。エレベーターがテツヤの部屋のある15階で止まった。扉が開き、テツヤが降りた。俺は一瞬迷ったが、閉まりかけた扉をこじ開け、エレベーターを降りた。
「カズキ兄さん、お休み!」
「おう、頑張れよ~。」
カズキ兄さんの間の抜けた言葉を背に、俺はテツヤを追いかけた。テツヤが角を曲がったので、俺は急ぎ足になってその角を曲がった。テツヤがカードキーをドアに押し当てている。静かに、だけど大股になって近づく。テツヤがドアを開けて入るところで、俺はそのドアに手をかけた。
「おわっ、びっくりした。」
テツヤが言った。
「明日、休み、だし。」
ちょっと息が上がっていた。
「いいよね?」
だが、すぐに息を整えて言った。するとテツヤは、
「え、でも疲れてない?」
と言う。俺はすかさず、
「疲れてない!」
と言い切った。するとテツヤはふっと笑った。そして、部屋に入れてくれた。
「公演中、煽ってたでしょ。」
俺が言うと、パッと目を見開くテツヤ。
「え、何の事?」
「俺の目の前で腰、振ってたじゃん。」
すごく、エロかった。
「お前だって、俺の首、生肌触ってきたじゃん。」
と、テツヤ。
「感じた?」
「レイジ!お前なあ。」
だが、それ以上は言わせないように、口をふさいだ。コンサート中に首のところを撫でたのは本当だ。ほんの出来心で。テツヤが流し目で見て来たり、腰を振ったり、お腹をチラ見せしたりするからだ。
「俺、アドレナリンが出まくってて……どうせ眠れないよ……」
キスの合間にそう言うと、
「あ……うん、俺も……」
テツヤも言った。
「シャワー浴びる?汗かいたし……」
「うん、そうだね……」
そう言い合ったのに、キスが止まらない。キスをしながらお互いの服を脱がす。シャワーは……一回燃え上ってからになりそうだ。




