金庫に入れろ
翌日、会社帰りにテツヤと帰宅した。
「ただいま。」
と言って入ると、
「おかえりなさい。」
「おかえり。」
と、おばさんとナオキの声がした。俺とテツヤがリビングに入っていくと、キッチンに立っていたおばさんが振り向き、椅子に座っていたナオキが立ち上がった。
「あ、知ってると思うけど、メンバーのテツヤ兄さん。」
俺がテツヤの事を紹介すると、
「まあ!」
と、おばさんは口を押さえ、
「シ、CGか……」
とナオキが言って、ヨロヨロと数歩あとずさった。
「それで、こちらが幼馴染のナオキと、ナオキのお母さん。」
今度はナオキたちをテツヤに紹介すると、テツヤが、
「初めまして。」
と言ってお辞儀をした。ナオキとおばさんも慌てて深々とお辞儀をした。そして頭を上げたナオキは、テツヤの顔をマジマジと見た。さっきはあとずさったのに、今度はジリジリとテツヤに近づいてきて、やはり顔をじっと見る。俺は思わず笑ってしまった。
「俺も未だにCGかと思う時あるよ。」
そう言うと、
「そうだよな。って、お前何年一緒にいるんだよ。未だにかよ。」
ナオキが突っ込みを入れる。
「何言ってるんだよ。レイジの方がハンサムだろ。」
テツヤが言うが、
「イヤイヤイヤ、そんな事ないです。レイジもイケメンだけど、まだ人間の顔ですよ。テツヤさんは人間離れというか、あり得ないですね。テレビで観るよりも本物は迫力が違います。」
ナオキが力説する。
「まあ、とにかく座りなよ。」
俺が言うと、
「私はそろそろ失礼するわね。お休みなさい。」
おばさんが部屋から出て行った。
「お休みなさい。」
俺が背中に向かって声をかけると、おばさんはちょっと振り向いて会釈した。
「あ、じゃあ、俺も……。」
ナオキが言いかけると、
「いや、俺は君と話しに来たんだから、もう少し付き合ってよ。」
と、テツヤが言った。なんか怖いんだけど。いつも人当たりのいいテツヤが、ちょっと違って見えるのは気のせいか。
「え、俺と話、ですか?なんでしょう。」
ナオキがビクビクしているのが分かる。とにかくリビングの椅子に三人で腰かけた。
「ナオキくんさ、東京で仕事を見つけたって聞いたけど、会社はどこなの?やっぱり家は職場の近くがいいよね?俺も探すのを手伝うよ。」
テツヤが言う。なるほど、テツヤはナオキを早く追い出そうとしているのか。
「えっと、仕事は……その……。」
ナオキは俺の顔をチラリと見る。なんだ?目くばせじゃないよな。俺は何も知らないぞ。
「もしかしてリモートワークなの?会社に通うわけじゃないとか?」
俺が発言すると、
「バーカ、それなら東京に来る必要もなかっただろ。東京で仕事を見つけたって言ってるんだから。」
テツヤに窘められた。けっこう機嫌が悪いみたいだ。
「あー、すみません。実は、まだ仕事を見つけられてないんです。」
「え!?」
俺が声をあげると、
「やっぱり。それなら、いつここを出ていけるのか、全く分からんね。」
テツヤがほら見た事か、と言わんばかりにそう発言した。俺は唖然とした。疑ってもいなかった。
「ナオキ……俺にウソをついたのか?」
思わず責めた。
「東京で仕事を見つけたから、って言ったじゃないか。」
「うん、ごめんレイジ。東京で見つけようとしているのは本当なんだ。」
ナオキが俺に拝むポーズをした。
「ご両親が離婚したっていうのは本当なんだろうね。」
どこまで信じたらいいのか。
「うん、それは本当。嘘だったのは仕事を見つけたって事だけだよ。実はさ、父ちゃんがキャバクラの若い女と再婚すると言い出したんだ。まあ、色々揉めたけど、結局母ちゃんも父ちゃんとはもう一緒に暮らせないと言って離婚する事になって。それで、何と言うか……そのキャバ嬢が妊娠しているとかで、父ちゃんは俺と母ちゃんを家から追い出したんだ。だから、もう地元の近くには住めないし、レイジしか頼る人もいなくてさ。」
ナオキが事情を語ると、
「うっ。」
なんと、テツヤが口を手で押さえて嗚咽を漏らした。
「な、泣いてるの?」
俺は、隣に座るテツヤの背中を撫でた。
「そうか……そんなご苦労があったんだね。」
そう言って一つ鼻をすすったテツヤ。そして、
「レイジも最近ストーカー被害に遭って、この家に来られたりしていたし、友達が一緒にいてくれたら心強いんじゃないかな。うん、ずっとここに住みなよ、ナオキくん。」
などと言う。
「ちょっと、それは……。」
俺が言いかけると、
「ありがとうございます!レイジ、ありがとう!」
ナオキが感激した様子で言う。
「レイジ、大事な物は金庫に入れておいてくれ。その方が安心だ。」
更にナオキが言う。それで、ちょっと考えた。俺の大事な物は……
「俺の大事な物は、ファンとメンバーだけだな。だから金庫は要らない。」
俺がそう言うと、
「かっこいい!そうだよな、ファンとメンバーがいれば、いくら盗まれたって、また稼げるもんな。」
と、ナオキが言う。
「え?お前、身も蓋もない事を言うなよ。」
と、突っ込んでおいたが、そういう事じゃないんだよな。
「あははは、確かにまた稼げるな。」
と、テツヤが言って笑っている。だから、そういう事じゃないんだけどな。そんで、一番大切なのはこの人で、金庫に閉じ込めておくのは勿体ないのだ。自由にさせておくのも心配ではあるが。




