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大事な物は……(末っ子8)  作者: 夏目 碧央


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2/11

女優との噂

 ある日、突然降ってきた。災難が。カズキ兄さんの上に。

 ある女優さんがSNSに、カズキ兄さんを撮った動画をアップした。女優さんがカズキ兄さんの家を訪れたというシチュエーション。確かにあの玄関はカズキ兄さんの家だ。会話はどう考えても付き合っている男女のもの。どうしてあの女優さんはそれを公開したのだろうか。これから大事な時だというのに。わざと?俺たちを困らせる為に?

 会社でも大騒ぎになった。カズキ兄さんは社長室に呼ばれて行き、マネージャー始め会社の職員と対応を話し合っているようだった。カズキ兄さんが社長室から戻ってきた時、メンバーは皆立ち上がった。

「カズキ、本当なのか?あの女優さんと付き合っていたというのは。」

リーダーのタケル兄さんが聞いた。

「でも、最近は会ってなかったよな?そんな暇ないもんな?活動休止前にもそんな暇なかったよな?」

マサト兄さんが質問攻めのような口調で、でも質問ではなく同意を求めているような事を言った。

「あー、はい。えーと、ごめんなさい。」

カズキ兄さんが深く頭を下げた。

「あの女優さんと一時、付き合ってました。でも、とっくに別れました。」

カズキ兄さんは照れ隠しなのか、勢いよく言った。メンバーはそれを聞き、ああ、とかはあ、とか、それぞれ大きなため息をついて座った。ウソであって欲しかったと、皆思っていた。だが、ウソだとしたらあの動画がフェイク動画という事になる。そうは見えなかった。やはりそうか、という感じだ。

 俺はその後、カズキ兄さんと二人になった時を狙って、尋ねた。

「カズキ兄さん、本当なの?女性と付き合ってたって。だって、シゲル兄さんと付き合ってるって言ってたし、その……カズキ兄さんは男性が好きなんじゃなかったの?」

いくら周りに人がいないと言っても、念のために小声で言った。すると、カズキ兄さんが苦笑いのような、小さな笑い方をした。

「そうだよ。だからまあ……本当にちょっと付き合っただけなんだ。俺は好きだったわけじゃない。」

「え、そうなの……」

二の句が継げなかった。そんなちょっとだけ、の事でこんな大事になってしまったのか。その俺を見て、気まずそうな顔をしたカズキ兄さん。

「ほんと、会社にもメンバーにも悪かったと思ってるよ。なんかさ、一生懸命に告白してくれたからさ、ちょっと付き合ってみような、と思っちゃって。あ、それにな、あんまり誰とも付き合ってないと、ゲイなのかって思われるんじゃないかって考えちゃったんだ。それで、ちょっと女性と付き合った事があったりすれば、その疑いも持たれないし、いいかなって、その時は思っちゃったんだよ。」

俺がまだ何も言わないでいると、

「でも、実際はそうじゃなかったな。本当にオオゴトになってる。ファンを裏切ったみたいになってるし。そんなつもりじゃなかったんだ。まさか、あんな風に動画を公開するなんて思ってもみなかったよ。話くらいだったら、ウソかホントか分からない感じで済んだのに。」

「だけどさ、シゲル兄さんと付き合ってたでしょ?それで別れたって言って、元気なかったでしょ?一体いつ彼女と付き合ったわけ?」

俺が疑問を口にすると、

「シゲル兄さんと別れる前。」

という。ん?付き合う前じゃなくて?

「それって、つまり…シゲル兄さんと付き合ってるのに、彼女と付き合ったの?」

俺が目を丸くして言うと、カズキ兄さんは更に気まずそうに視線をそらし、

「そう。まあ、それもあってシゲル兄さんと別れたって言うか。」

と言う。何という事だ。それで元気のないカズキ兄さんの面倒を見ていたら、俺の事が好きになったなんて言い出して、テツヤに変な現場を見られて、大変な事になったのだ。

「はあ。」

俺が盛大なため息をつくと、カズキ兄さんは、

「だからごめんって。」

掌を合わせて言った。


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