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大事な物は……(末っ子8)  作者: 夏目 碧央


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幽霊を見た話

 アメリカから帰国した俺たちは、再出発に向けて歌とダンスの練習にいそしんでいた。少しずつレコーディングも行っている。

 俺たちは7人組の男性ボーカルグループである。2年半の活動休止期間を終えて楽曲作成の為にアメリカに渡り、今はそれも終えて新曲発表に向けて準備をしているところだ。俺はグループの最年少だが、もう28歳になった。アイドルとしてデビューしてから13年が過ぎようとしている。だから、メンバーはもう、家族のようなもの。俺はメンバーの事を兄さんと呼んでいるのだ。一人を除いて。

 その一人とは、2つ年上のテツヤだ。テツヤは俺の憧れの人だったが、4年ほど前から恋人になった。もちろん内緒なのだが、メンバーにはほとんどバレている。暗黙の了解、というやつか。陰ながら応援してくれていると思っている。

「レイジ、何考えてるの?」

ふいにテツヤが俺に言った。すぐ目の前に顔があって焦った。すごく綺麗だ。

「綺麗だな……て。」

思わずつぶやいたら、

「何言ってるんだよー。」

と言って、テツヤは顔をくしゃくしゃにして笑った。それでもものすごくイケメンだ。それは俺だけでなく、世界中の老若男女が同意してくれるだろう。テツヤは世界のハンサムランキングで度々一位を取っているのだ。


 コンサートを数ヶ月後に控えた今、その練習にも余念がない。だが一方で、新曲の発売を前にしてプロモーションも頑張らなければならない。メンバーそれぞれが色々な番組に出演していた。

 活動休止前には、なかなか俺とテツヤが二人で出演する事を許してもらえなかった。一時俺たちの仲が良すぎると噂になった事があり、会社が警戒していたのだ。だが、最近なぜか一緒に組ませてもらえる事がある。ある番組に呼ばれてテツヤと一緒に出演した。

「テツヤさんは怖がりだと伺ったのですが、どんな物が怖いですか?」

MCに言われたテツヤ。テツヤは幽霊やホラー映画、蜘蛛などと怖い物を並べたが、

「幽霊見た事ありますか?」

と聞かれて、ありますと答えた。そして、

「練習生の頃、メンバーと一緒に寝ていたら、部屋の隅のところに幽霊がいて……」

と、語り始めた。ああ、あの時の事か。

 14年ほど前の事。まだ一部屋に7人で雑魚寝をしていた頃の事だ。俺とテツヤは一つの布団で一緒に寝ていた。ある晩、夜中にテツヤが俺を揺り起こした。

「レイジ、レイジ起きろ、レイジ!」

小声で俺を呼びながら、体をゆする。俺が目を開けると、テツヤは俺の顔を見た後、あらぬ方を見て指をさす。俺が眠い目をこすりながら肘をついて起き上がり、テツヤが指さす方を見ると、確かに変な物が見えた。

「幽霊?あれ、幽霊か?」

上半身が折れ曲がった人だ。俺も流石にびっくりしたが、

「怖いよ、レイジ!」

それよりも、テツヤが怯えて俺にしがみついて来た事に、正直舞い上がっていた。幽霊には少し感謝している。

「大丈夫、俺が守るから。」

テツヤは聞いていたかどうか分からない。俺の体にしがみつき、顔を伏せていたから。でも、俺は小声でそう言って、テツヤの頭をそっと撫でた。そして、肘をついていたのを辞めて布団に横になり、まだ俺の胸に顔を伏せているテツヤの背中をさすりながら、いつの間にか俺もテツヤも眠ったのだ。朝になって目が覚めた時、まだ折り重なるようにして眠っていた俺とテツヤ。テツヤが目を覚ますまで、しばらくそうして幸せを噛み締めていたらいつの間にか二度寝して、いつものようにマネージャーさんの、

「レイジ、起きろって何回言わせるんだ!もう出かけるぞ!」

という怒鳴り声で目を覚まし、引きずられるようにして家を出たのだった。


 「だよな?」

テツヤが幽霊の話をして、俺に同意を求めた。

「はい、見ました。上半身が折れ曲がっていて……」

ジェスチャー交じりに話したら、会場内がざわついた。テツヤも同じように手で幽霊の真似をして笑っていた。収録が終わった時、

「レイジも覚えてたんだな、あの幽霊。」

テツヤが笑いながら言った。

「そりゃあね、インパクトが強かったから。」

俺はそう答えたが、幽霊のインパクトではなく、俺にしがみつくテツヤのインパクトだという事は、もちろん言わなかった。


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