表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】悪役令嬢ですが、監禁エンドだけは回避したい  作者: ayami


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

第13話「優しすぎる独占」

私の“半幽閉生活”は、思っていたよりも――


ずっと、ずっと快適だった。


……悔しいことに。


朝になれば。


必ず、好きな香りの紅茶が用意されている。


焼きたてのパン。


温かいスープ。


季節の果物。


「……完全に飼育環境……」


小さく呟きながらも、全部美味しく食べてしまう自分が悲しい。


昼には、専属の料理人による栄養満点ランチ。


夜は、静かな音楽と読書時間。


そして。


どの時間帯にも。


必ず、エドワード様がいる。


例外なし。


朝も。


昼も。


夜も。


まるで――


影のように。


午後。


私は、ソファに腰掛け、本を読んでいた。


……ふりをして。


内容は、三ページ前から進んでいない。


なぜなら。


「……殿下、近いです」


隣。


いや、ほぼ密着。


「そう?」


肩が触れる距離で、首をかしげる。


距離感、ゼロ。


「……普通、この距離は“近い”って言います」


「恋人同士なら普通だよ」


さらっと。


呼吸するみたいに言う。


(待って)


(恋人認定、いつから……?)


「……私、承諾してませんけど」


「心はしてる」


即断。


一切の迷いなし。


(怖い……)


(でも……)


声は、驚くほど優しい。


私は、ため息をついた。


「……殿下。私、一人の時間も欲しいです」


その瞬間。


彼の動きが、止まった。


「……嫌?」


不安そうな瞳。


揺れる視線。


……反則。


完全に反則。


「い、嫌じゃないです!」


慌てて否定する。


「ただ……」


「ただ?」


「……ずっと一緒だと、考える時間がなくて……」


沈黙。


部屋に、時計の音だけが響く。


彼は、ゆっくり視線を落とした。


「……考えたら、離れてしまう?」


その声は。


王太子のものじゃなかった。


ただの。


怖がりな、青年の声だった。


胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「……違います」


私は、そっと彼の手を握った。


「考えたいのは……殿下と、どう一緒に生きるか、です」


一瞬。


彼の目が、大きく見開かれた。


「……本当?」


「本当です」


逃げない。


誤魔化さない。


私は、決めた。


ここからは。


正面突破。


「……でも」


私は、続ける。


「閉じ込められるのは、嫌です」


「選べない人生も、嫌です」


はっきり。


逃げずに。


彼は、苦しそうに眉を寄せた。


「……怖いんだ」


低い声。


「君が、いなくなるのが」


「……私も、怖かったです」


静かに答える。


「だから、逃げました」


彼は、唇を噛みしめた。


「……ごめん」


小さな声。


初めての、謝罪。


その一言で。


胸の奥が、じんわり熱くなった。


「……殿下」


「なに?」


「……鍵、外してくれませんか」


沈黙。


長く。


深い。


沈黙。


彼は、しばらく動かなかった。


やがて。


ゆっくり立ち上がる。


机の前へ。


引き出しを開ける。


……鍵束。


重なり合った金属の音。


私は、息を呑んだ。


彼は、それを見つめたまま言う。


「……約束して」


「なにを?」


「……黙って、消えないって」


震える声。


私は、まっすぐ彼を見る。


「約束します」


「逃げたいと思ったら、ちゃんと話します」


「泣いても、喧嘩しても……話します」


彼は、目を閉じた。


深く、息を吸って。


――カチャリ。


小さな音。


でも。


世界が変わる音。


鍵が、外れた。


「……ありがとう」


声が、震えた。


涙が、滲んだ。


彼は、そっと私を抱きしめる。


強くない。


でも、離さない。


「……それでも」


耳元で、囁く。


「独占は、やめないけどね」


「……そこはやめてください」


「無理」


即答。


私は、思わず吹き出した。


「もう……」


「可愛いから」


「それやめてください!」


小さく言い合いながら。


私は思った。


これは。


檻じゃない。


まだ不器用で。


まだ危うくて。


でも。


“手を繋ぐための檻”だったんだ。


――優しすぎる独占。


それは。


支配から、選択へ。


監禁から、信頼へ。


変わり始めた証。


私と彼の関係は。


ここから、本当に始まる。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ