91.軍師の策 決着の章
俺が幾度となく、口を酸っぱくして言ってきた事だが、性において同性は異性に勝つことは出来ない。
比較される男女の「格」に差があるのなら分からないが、少なくとも、この世界で俺を比較対象として勝てる女は存在しない。
凪が俺を陥れようとしていることに気付いたのは——何を隠そう一回目の刺客が来た時である。
名前は……なんだったか忘れてしまったが、彼女は俺をランチに誘いに来ていた。
だが、よく考えてほしい。
普通に考えて、あんなに大人しそうな女子が、自分の意思で俺の教室に訪れることなど不可能である。
もちろん、彼女が死ぬほど勇気を出した線もある。
だから俺は、彼女に聞いてみることにした。
昼飯を食い終わったあと、彼女は俺と「休憩」したいと言い、人気のない女子トイレまで連れ出した。その瞬間にピンと来たね。
——誰か、俺を嵌めようとしている奴がいる。
トイレに入る直前、まだ廊下だというのに、俺は彼女にキスをした。まさか、今さら不同意だとか抜かすアホはいないだろう。
彼女の顔はみるみるうちに敵から味方へと変わり、伝家の宝刀・壁ドンで聞いたら、簡単に吐いてくれた。
俺は凪の隠しカメラをそのまま、逆に指示を出した。
「とりあえず、今は凪ちゃんの言うことに従っておいてよ」
・
「——合計で三人。かなり手が込んでて、良い作戦だったと思うよ。ただ——」
俺の解説を聞いて、信じられないという顔をしている凪に言葉を続ける。
「穴も大きかったよね。俺が許せないのは……凪ちゃんが大人しそうな子ばかり狙ったことだよ」
冷静さを保とうとするが、身体の中で沸々と怒りが湧き上がってくるのを抑えられない。
「もちろん彼女たちを選んだ理由は分かる。異性はおろか、同性との関わりも少なそうだし、快感への耐性もない。一度甘やかしてしまえば、後はどうとでもなるからね。でも、それが気に入らない……行けそうだから選ぶ? 簡単に攻略できるから? そんなの、ぜんっぜん楽しくないだろうがッ!」
俺の叫びは突風を呼び寄せ、凪の髪を背後に強く靡かせる。
「変態の風上にもおけねぇ……俺がッ! そんなやつにッ! 負けるわけがねぇんだよッ!」
そこまで言って、俺は自分を落ち着かせるために息を整える。
変態としての矜持が俺を熱くさせてしまった。
でも、仕方がないだろう。
彼女がとった方法は、俺のこの世界での生き方と真逆なのだから。
それに、仮に彼女が刺客のタイプを毎回変えてたり、もっと強敵を送り込んでいれば、俺は真相を知ることができなかったかもしれない。
「……で、でも…………あの写真は、確かに本物やろ? あんなん見られて、どうして——」
「あぁ、アレか。全部すり替えておいたよ——凪ちゃんが女の子を襲ってる写真にね」
瞬間、凪の顔が真っ青に染まった。
「最初の子の後に、凪ちゃんが使いそうな場所全てに隠しカメラを設置しておいた。もっと“上手く”隠してね」
「…………嘘や。だとしたら、どうしてみんな、樹先輩のことを——」
俺は口の端を吊り上げる。
「全員サクラだよ」
「…………は?」
「凪ちゃんは手の込んだ仕掛けをしたけど、俺はさらに大きなイベントを起こしたってことだよ。たとえば——」
・
同時刻、体育館。
ファッションや流行りに敏感な女子たちは、眼前を歩く二人の女子に釘付けになっていた。
「綾香ちゃーん! こっちに目線ちょうだい!」
「つ、月ノ原さんスタイル良すぎる……」
「マジでヤバいんだけど! tiktakの配信、同説二万人だって!」
九重綾香と月ノ原ミラは、突発のファッションショーを行っていた。
「いっくん、こんなキラキラした企画を考えてくれるなんて、マジヤバい!」
「あなた、すごく綺麗だわ」
「ミラミラの方が綺麗だよ! なんかもう、お姫様って感じ!」
「ふふっ、ありがとう。この服を選んでくれた樹に感謝しないと」
さらに同時刻。
グラウンドを囲むように生徒たちが連なり、黄色い声援を送っている。
「キャー! 千翼ちゃんカッコいいー!」
「抱いて! 私を激しく抱いて!」
「彼女、ウチの部にも助っ人で来てくれないかしら……」
「何言ってるんですか先輩。ウチはカルタ部ですよ」
吉崎千翼はトラックを爆走していた。
「よぉーし絶好調!」
既に二位に周回の差をつけている。
まだまだ続く同時刻。
園田は職員室にて熱弁していた。
「つまりぃ〜、男性の尿意が活発になった時の、お手洗いまでの導線はぁ〜」
真剣な顔で頷く教師たち。
その時、職員室の扉が開かれた。
「すみません、遅れてしまいました!」
御厨美桜だ。彼女は分厚いプリントの束を抱えていて、それを教師たちに配り始めた。
「こちら、男性用お手洗いの間取り図になります。入り口に顔認証システムを採用し、中にはシャワーと浴槽、サウナを——」
・
「——そして、ホワイトボードの前」
俺は声を張り上げる。
「皆さんOKです! ありがとうございました!」
その声を聞いて、わちゃわちゃと動いていた生徒たちが一斉に動きを止めたと思うと、瞬きの間に姿勢を正し、統率の取れた動きでこちらへ振り返った。
「ミッション完了です。横島様、この度はお声がけいただきありがとうございました」
深く頭を下げたのは鴨川——美桜の黒服の一人だ。
「…………はぇ?」
凪は状況を飲み込めていない。
「彼女たちは美桜の使用人なんだよ。まさか、ここまでJKが上手いとは思わなかったけど」
仕事が終わり、帰っていく鴨川たち。
素晴らしい。妙齢の女性の制服姿でしか摂取できない栄養分がある。
「凪ちゃんの失敗はまだあるよ。致命的なやつがね」
「…………」
もはや凪は何も言い返すことができない。
「自分でも分かってるでしょ? 俺はあえて、浅草に行く日を日曜日にしたんだ。もし、凪ちゃんの中に少しでも俺への気持ちがあるのなら、こっちを優先するだろうから」
彼女たち——鬼瓦って子がいたな——によれば、写真の作成から掲載まで、全てを任せっきりにしていたらしい。
仮に、凪の中に俺への好意が微塵もなければ、デートの日程などズラして自分で確認してたはず。
彼女はとっくに詰んでいたのだ。
相手を貶める点でも、恋愛という点でも。
今作は彼の一人称がほとんどです。
信頼できない語り手というやつかも。
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