87.J
「凪ちゃんのこと、もっと教えてよ」
スカイツリーまでの道すがら、俺は凪に色々と質問をしてみることにした。
もうじき俺たちの戦いも終わりを迎えるわけだし、勝てる確率は可能な限り上げる必要がある。
俺の中では、もう俺の勝ちは確定したようなものではあった。
それでも油断はできない。
最後にどんなどんでん返しがあるか、用心はするべきだ。
「ウチのことぉ? なんや恥ずかしいけど、先輩になら教えたげてもええよ?」
質問してほしいということか。
俺は少しばかり悩んだが、いくつか問いを思い浮かべた。
「前に陸上やってたって聞いたけど、他にも何かやってたの?」
「せやねぇ……水泳と体操と書道と、他にもやってたはずやけど、忘れてしもたわ」
「多才なんだね。羨ましいな」
「そないなことないですよぉ。結局、どれでも一番は取れへんかったし」
凪は肩をすくめる。
「胸の大きさは?」
「たぶんJやね」
「おお……」
ありがとう。この世に産まれてきてくれて、ありがとう。
彼女の身長で、水泳をやっていたのに肩幅も広くなくてJとは、とてつもない逸材である。国が傾くぞ。
そして、彼女がJなのであれば……理子さんや園田先生は一体なんなのだろう。Mぐらいあるんじゃないか?
そこまでいくと、人によっては受け付けないらしいが、俺はオールオッケーだ。乳はデカければデカいほど良い。
あの二人は容姿も優れているし、張りや形も整っているのだから、もう二次元なのだ。
「お母さんとは仲良いの?」
「良くないなぁ。ウチ、一人暮らししてるって言ったやろ? あれ、親から離れたかったからなんよね」
意図していないだろうが、母親の話をした時、初めて凪が寂しそうな顔をした。
「樹先輩はどうなん?」
「僕の父親は精子提供で、母親は僕を産んですぐ死んじゃったんだ。だから、写真の中でしか知らない」
「…………そうなんや」
「その代わり、叔母さんが面倒見てくれたんだよ。すごく優しくて、厳しくて、大きな人なんだ」
大きな人というのは人間の器の話をしている。
他意はないです、きっと。
「ええなぁ。それなら綺麗な思い出も多いやろ?」
「まぁ、そうなるかな」
自分はそうじゃないと、凪はそう言いたいのだろう。
家族の話はタブーだったか——とは思わない。
むしろ、他人にしないような個人的な話をする方が、人間は心を許すのだから。
「良くない思い出は、良い思い出で上書きできるよ」
「……それ、ウチのこと口説いてるんです?」
「もちろん」
ふふ、と凪が笑う。
「でも、樹先輩は人から拒否された事とか、ないんとちゃいます?」
「ないかもね。僕は基本的に、何でも上手くできるタイプだから」
前世の知識だってあるからな。
たとえ現実世界から異世界に転生するわけじゃなくても、記憶を持ち越せている時点で、かなりのアドバンテージを受けることができる。
具体的には「失敗の経験」だ。
人間は失敗しなければ学ばない生き物だ。
上手く行ったことですら失敗し、両手ですくったチャンスをことごとく取りこぼして、ようやく一粒を口に含めるのだ。それが人生。
だが、第二の生では学んだ状態からスタートできる。
両手にある機会をほとんど落とすこともなく、頬張ることができるのだ。
「なら、やっぱりウチの気持ちは分からへんかもよ?」
「どうかな。その答えが出るのは、もう少し先かもね」
俺の言葉の意図を汲み取れたか分からないが、凪は「せやね」と呟いた。自分に言い聞かせるようだった。
二人の手の温度が同じになる頃に、スカイツリーに到着した。
俺は男というアドバンテージを生かして爆速でチケット購入まで済ませ、二人で展望デッキまで上がって行った。
三百六十度の大きな窓があり、東京の夜景を一望することができる。
今作、いきなりシリアス展開が始まったり良い感じの表現出てきたりすると、自分で笑っちゃうんですよね。
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