86.普通のデート
店を出て、俺たちは並んで歩きだす。
「調べてみたら、この近くで飴細工の体験ができるらしいんだよね。そこに行こうと思ってる」
「ええなぁ。なんやえらいデートらしいですねぇ〜?」
茶化すような凪。
対する俺は、酷く真面目な顔を作る。
「デートじゃないの?」
彼女は黙り込み、前を向いてしまう。
ここで普通の男子なら「失敗しちゃったかな?」と不安になることだろうが、俺は違う。凪との密着度合いを強めた。
そして、俺はスマホのマップアプリを眺めながら、凪を目的地まで連れて行った……のだが。
「…………休みやね?」
「…………休みだね」
俺が産まれる前——に加えて前世の俺が産まれるより早く誕生した店だろう。
外観から風情や歴史が漂いまくっていたが、戸の前には「本日定休日」と書かれた紙が貼られている。
これは失策。俺としたことが、商売には休みが必要だということを忘れてしまっていたみたいだ。いやぁ、困ったなぁ。
「樹先輩にも、こういう一面ってあるんやねぇ」
「そうだね。僕もビックリだよ」
「その割には、なんや楽しそうな顔しとるけど?」
「飴細工ができなかったのは残念だけど、僕のヘマのお陰で凪ちゃんが嬉しそうだから」
「……変な人やね」
「初めて言われたよ、ありがとう」
凪の笑顔が見れたとはいえ、このままではやることがなくなってしまう。
浅草と言えば食べ歩き。ということで、俺たちは浅草寺に向かうことにした。
雷門をくぐって仲見世に入ると、目に入るものが一気に食べ物ばかりになる。
焼きたての煎餅に人形焼、揚げ饅頭。
少し進めば抹茶の菓子や団子まで並んでいる。
「すごい賑わいだね」
「せやねぇ。大体は観光客やろか」
凪の言う通り、通りは観光客で埋まっていた。
店の前には短い列がいくつもできていて、手に紙袋や小さなカップを持っている人も多く、それを見ていると腹が減ってくる。
「何か食べようかな。凪ちゃんは?」
「せやったら、先輩と同じのにするわ」
俺は少し迷った末に、メンチカツを食べることにした。
二人分の料金を払い、片方を凪に渡す。
揚げたてのメンチカツに齧りつくと、薄い衣がザクッと音を立てた。
熱い肉汁と玉ネギの甘みが口の中に広がる。
ソースがなくても味が濃く、食べる手が止まらない。
「美味しいね」
「何個でも食べれてまいそうですねぇ〜」
よっぽど口にあったのか、凪はこれまで見せたことのないような等身大の女の子の顔をして頬張っている。
「凪ちゃんって、そんな顔もできるんだね」
「どんな顔してるん?」
「楽しそうな顔だよ」
彼女には自覚がないのだろうが、それならそれで良い。
ただ、これを知れたことに意味がある。
俺たちはそれからも食べ歩きを楽しみ、夕方ごろまで浅草周辺をぶらぶらしていた。
そして、陽が落ち始めると着物を返しに行き、私服姿で集合する。
「はぁ〜、着物もええけど、ウチはこっちの方が楽でええわ」
先ほども見たはずの凪の私服姿だったが、何度見てもギンギンになるほどの破壊力。
真っ白な谷間に血管が走っていなければ、AIで作ったんじゃないかと勘違いしてしまいそうなほどだ。
「今からどうします? ウチはもう少し一緒にいたいんやけど、先輩が疲れとるなら解散でもええよ?」
「ううん、僕も凪ちゃんと一緒にいたい。この後はスカイツリーに行かない? 夜景を見るっていうのはベタかな」
「ええなぁ! ウチ、京都タワーは登ったことあるけどスカイツリーはないんよ」
「良かった。今日は凪ちゃんといっぱい思い出が作れるね」
俺が彼女の手を握ると、しっかりと力が返ってくる。
もう、凪は俺の猛烈なアタックを受け入れ始めているのだ。
俺は胸を揉みしだくことも、尻を力一杯鷲掴みにすることもなく、ただ凪の手のひらの柔らかさだけを感じていた。
浅草からスカイツリーまでは約二キロほどあったが、俺たちは歩くことにした。
陽が落ち、街灯に照らされる彼女の横顔が妙に艶やかに見える。
なんか急に健全なことしててワロタ
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