85.こんなもん裸と同じだ
俺がこちらの世界に来て一番驚いたことは何かと問われれば、案外悩むことなく答を出すことができる。
それは、男がほとんどいないという、ありきたりなものではない。
同じような理由で、他の男が弱いことも驚愕には値しない。
もっと社会的というか、ずる賢い部分である。
そう、この世界の法律は——ガバガバなのだ。
どっかのバカが鉛筆を転がして決めたんじゃないかと思うくらいには雑で、前世とは世界の成り立ちや人の醜さが根本的に違うのだろう。
で、どうして俺がこんな話を始めたのかというと、待ち合わせ場所に現れた凪の姿が、それはもうとんでもないものだったからだ。
あまりに表現が難しい服を着ているから、ざっと説明させてもらう。
少し暑くなってきたのをいいことに、うっすい生地のトップス。
デコルテや胸の辺りはほぼ露出。
一時期流行った、股でボタンを止めるタイプのエロ服だ。
こんなもん裸と同じだ。えっちな服と頼んだのは俺だが、公然わいせつ罪でしょっ引かれてもおかしくない。
横島樹の人生は、今のところR17.9くらいで耐えていたのに、今日ばかりはR18である。
だが、天地がひっくり返るくらい似合ってもいる。
凪はメスガキ系ということで童顔だ。
それを深い寒色のメイクでアダルトな印象に寄せている。
何より評価したいのは、下半身を「捨てた」ことだ。
上半身の攻め具合とは反対に、パンツは極めて普通のものを着用している。
エロい服装と聞くと、ただ露出すればいいと勘違いする風情のない人間がいるが、それでは全体のバランスが取れず滑稽に見えてしまう。
それに、背の低い凪は脚を見ることも難しく、むちっともしていない。
これはこれで魅力的なものの、千翼ほどの突破力はないのだ。
凪の強みは乳のデカさ。
それを最大限に活かすコーディネートに脱帽だ。
「……気に入ってもらえたみたいやねぇ」
しばらく黙り込んでしまった俺を見て、凪は満足そうだ。
今日はドエロ記念日。では、次は私の番だ。
「凪ちゃん、めちゃくちゃ可愛いね!」
「せやろ? いーっぱい樹先輩のこと考えて選んだんよ〜?」
彼女は俺の手を取ると、自分の胸に押し付けようとする。
しかし、俺はその手をぐいっと自分の方へ動かし、恋人繋ぎをする。
「本当に嬉しいよ! 凪ちゃんって、僕の考えてること読み取ってくれるよね」
「あ、相性が良いんかもしれませんねぇ?」
「僕もそう思う。運命かもね」
お互いの手はそのままに、俺はさらに身体を密着させる。
凪は一瞬、俺の顔を見上げた。戸惑っているのだろう。
「じゃあ行こうか」
「先輩は行きたいところあるん? ウチはぶらぶらするのも歓迎やけど〜」
「今日のプランは任せてよ。まずは……せっかく可愛い服を着て来てくれたところ悪いんだけど、浅草と言えば着物だと思って。二人で着付けに行こう」
「えらい気合いが入っとるんやねぇ」
くすくす笑う凪。どうしても俺の上に立ちたいようだが、今日の俺はそもそも戦いの舞台に立っていない。
戦おうとすればするほど彼女は拍子抜けすることになり、俺は優位に立つことができる。
待ち合わせ場所から着物をレンタルできる店までは近く、俺たちは互いに相手に着せたい一着を選ぶことに。
そして着付けが終わり、先に終わった俺が待っていると、凪の声がした。
「お待たせしました〜」
目を向けた先にいたのは、一輪の花だった。
俺が選んだのは白い着物。彼女の髪の色に合わせてピンクや赤にしようかとも思ったが、今日の凪のメイクと合うのは白だ。
今の彼女はメスガキではなく、京都の街を歩く雅な女性なのだ。
「うん、僕の見立てに間違いはなかったね。綺麗だよ」
「……褒めすぎやない?」
「そんなことないよ」
「ウチ、子供っぽい見た目やろ? こんな色、似合うやろか」
着物の袖や帯を見ながら、不安そうに彼女が言う。
「凪ちゃんはどんな色でも似合うよ」
「でも、もっと良いのも——」
「一番良いのを選ぶことだけが楽しみじゃないと思うよ。たとえ失敗しても、それはそれで思い出になるし」
「…………そうやね」
納得してくれた……のかは分からないが、俺の言葉は伝わったらしい。
凪は俺から顔を逸らし、見えないように微笑んでいた。
個人的に神絵師に描いてほしいヒロイン第一位のメスガキ
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