84.これしかねぇだろうがッ!
帰り道、過去トップクラスの達成感で身体を満たしながら、俺はスマホを取り出してMINEを開く。
あまり多いとは言えない連絡先をスクロールし、連絡を取るべき相手を見つける。
その人物のアカウント名は「n」である。
前世での常識で言うなら、MINEの名前が英語一文字だったり絵文字のやつは、マッチングアプリをやっているか夜職をしている。
要は避けるべき相手ということだ。
そして、この世界でも法則は有効なのかもしれない。
nというのはコンカフェで働いている凪なのだから。
「凪ちゃん、教えてくれてありがとう」
「横島樹だよ」
チェキの裏に書かれていたIDを読み込んだのは先ほど、千翼がガチャガチャをしに原宿まで走っていた時だ。
今は夜の八時。返信は来るだろうか。
『追加してくれてありがとうございます〜』
さっそく送ってくれた。
「いま平気なの?」
「お仕事中かなって思ってた」
『仕事中やけど平気ですよ〜』
『今日は暇なんよ』
バックヤードでキャストと話しながら返事しているのか、はたまた路上で客引きをしながら下を見ているのか。
『もし仕事中でも先輩には返しちゃいますけど』
普段の俺なら「可愛いやつだ」と思うところだが、彼女は俺をターゲットにしているから即レスを心がけているのだ。
もちろん、俺もである。
単純接触効果というのがあるように、連絡は取れば取るだけ良い。
MINEは減点方式という考え方もあるものの、幸いなことに、この世界では男とのメッセージ自体が貴重。
比べる相手もいないなら減点されることもない。
「嬉しい」
「あのさ、突然なんだけど今週末って空いてる?」
『空いてますよぉ』
『土曜はどうやろ』
俺はしばし考える。
土曜日にするべきか、それとも——
「ごめん、土曜は外せない用事があるんだ」
「日曜日は厳しい?」
『うーん』
反対に、彼女は日曜に用事があるのかもしれない。
「じゃあ、また別の日にしようか」
『いや、日曜にしましょか』
「平気なの?」
『もちろんやよ〜』
『樹先輩は行きたいところあるん?』
もちろん、ある。
ただ、今回のデートは最近のとはワケが違う。
直近のデートを振り返ってみると、漫画喫茶でエロいことをしたり、コンカフェでエロいことをしたり、赤煉瓦でエロいことをしたり、プラネタリウムでエロいことをしたりしている。
びっくりするぐらいエロいことしかしていないし、ほとんどは「エロいことをする」というのが目的になっていた。
今回のデートは月ノ原とのそれと同じ、相手を落とすためのデートだ。
相手がどんなことを考えるのか、俺がどんな人間なのかを伝えるのが目的である。
「浅草はどう?」
『浅草?』
『ええなぁ』
反応は悪くない。
「今さらだけど、凪ちゃんって京都出身なの?」
『そうですよぉ』
『中学からはこっちやけど』
「そうだったんだ」
初耳のフリをしてみたが、千翼と中学の陸上部が一緒だったのだから、そりゃあそうだという感じではある。
「凪ちゃんは京都、好き?」
『どうやろ』
『たまに懐かしくはなるかもなぁ』
「ほら、浅草と京都ってちょっと似てない?」
「四条のあたりと」
『言われてみれば』
『近いかもしれませんねぇ』
『それが理由ですか?』
「そうだけど」
少し返事の間隔があく。
『樹先輩ってほんとおもろいなぁ』
これはあれだ、乙女ゲーのイケメンが使う「おもしれー女」と同じやつだ。
とりあえず「ありがとう」と送った。
「それじゃあ十二時に浅草にしようか」
「仕事中にごめんね」
『あ、ちょっと待ってください』
『初めて私服で会うことになるわけやけど』
『どんな服が好きなん?』
どんな服、か……。
俺が何も言わなくても、凪は自分に合った服を着てくるだろう。
今までの傾向から考えてもそうだ。
美桜を始めとして、全員が「キャラ通り」の格好をしている。
「えっちなやつがいいかな」
「僕が目を逸らしちゃうぐらい本気のやつ」
これしかねぇだろうがッ!
服装を聞かれて「えっちなやつ」と答えないやつは逃げだ。
恋からも愛からも逃げている。
『正直で可愛いなぁ』
『難しいけど頑張りますねぇ?』
当たり前だ。頑張ってもらわないと困る。
これで日曜の予定は決まった。
凪がどんなコーデを選ぶのか楽しみにしていよう。
まじでデートで行く場所の候補がなくなってきました。ヤバイ
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