82.三人目の彼女
(も、もう我慢できねぇ……!)
部屋の暑さで、吉崎の身体は湿っている。
制服のシャツは小麦色の肌に張り付いてさえいた。
俺は、吉崎の脚に手を伸ばした。
「…………っ」
ぴくりと反応する吉崎だったが、あくまで気付いていないフリをして、漫画を読み続けている。
普通、湿っているのなら、それに触れる手のひらの動きというのは阻害されてしまう。
しかし、彼女の太もも(裏)をさする俺の手には全く、これっぽっちも引っかかりがない。
「ねぇ吉崎さん」
「……んー? 横島くん、どうしたの?」
俺の邪魔はしないと暗に示している……が、俺が言葉を続けないことに違和感を覚えたのか、こちらへ振り返る。
俺は彼女の顔をじっと見つめ、当然のことのように言った。
「吉崎さん——僕の彼女になってほしい」
こういう時、一般的な女子はどう思うのだろう。
——満喫で告白とかあり得なくない!?
——お前、千翼ちゃんの身体目当てだろ!
まぁ、こんな感じだろう。
しかし、この世界では常識がぶっ壊れている。
吉崎は石像のように動かなくなったと思うと、小刻みに震え始めた。
「よ、よよよよよこここしまくん……どどどどういいいうこと?」
もはや何を言っているか聞き取れないが、言いたいことは分かる。
俺は、彼女の両肩を力強く掴み、最高の告白を始める。
「吉崎さん……いや、千翼ちゃん」
「千翼ちゃん!?」
「僕は千翼ちゃんの脚が好きだ」
「わ、私の足なんて——」
「努力の結晶だよ。もしかすると、才能もあるのかもしれない。けど、それを上回る努力をしたから、こんなに美しい脚になったんだ」
吉崎は何も言えず、ただ頷く。
「そして、そんな努力家の千翼ちゃんも好きだ。僕のために原宿まで走ってくれるところも好きなんだ。君が思うよりもずっと、君は魅力的なんだよ」
これは事実だ。確かに、彼女が危惧している通り、吉崎は女の子らしくはないかもしれない。
九重のように流行に敏感ではないし、美桜のように所作が丁寧でもない。
ミラのようなずば抜けた美しさでもない。
しかし、それがなんだというのだ?
彼女には彼女の良さがある。
身体能力の高さだってそうだし、思い切りの良さだって、他の子にはない長所なのだ。
「僕は、今付き合ってる彼女たちを愛しているし、幸せするつもりだ。そして、その中に、千翼ちゃんにも入ってほしいんだ…………だめかな?」
問いかけると、少しずつ彼女の緊張がほぐれていく。
ふと、彼女が開いていた漫画のページが目に入った。
俺の世界で言うところの少女漫画だ。
詳しくは分からないが、主人公が男に告白されているシーンのようだ。
彼女も心の奥底では、こんな恋愛を望んでいるのかもしれない。
「……私」
吉崎が、ぽつりと漏らすように声を発する。
「ずっと、意地張ってたの。私みたいなのが選ばれるはずないって、良くて友達止まりだろうって思ってて。だから、横島くんに、それ以上を求めないようにしないとって」
俺としては、転入して一週間が過ぎる頃には落ちていた気がするが、彼女は頑張って耐えていたつもりのようだ。
「でも…………良いってことだよね? これ、勘違いじゃないんだよね?」
希望に満ちた明るい表情で俺を見つめる吉崎。
俺は力強く「うん」と頷くと、彼女を抱きしめた。
「もう、これからは遠慮しなくていいんだよ。千翼ちゃんは僕の彼女になったんだから」
「うん……うん。ありがとう、樹くん!」
こうして、俺に三人目の彼女ができた。
美桜、ミラ、千翼。素晴らしく、凄まじい布陣である。
しかし、俺にはまだ二人の彼女候補がいるのだ。
九重と凪という、落とす価値のある女子たちが。
ここで満足して歩みを止めるわけにはいかない。
ただ……今日ばかりは忘れても良いだろう。
なぜなら、俺はこれから……ついに天国へと旅立つからである。
次回、果たして運営にシバかれないように書けるのか
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