81.僕、部屋では靴下を脱ぎたくなるんだよね
「よ、横島くん? エアコン切ったら暑くない!?」
「あれ、そうかな? 僕はちょっと寒いと思っんだけど……吉崎さんが寒いなら——」
「あ、いやいや大丈夫! ぜんぜん涼しいよ!」
ブンブンと手を振って主張する吉崎。
先ほどまで全力ダッシュしていた彼女はもちろん、俺も汗をかきそうなほど暑さを感じていたが、そんなことはどうでもいい。
汗だ、汗をかかせるのだ。
吉崎に汗をかかせて、俺はそれを舐める。舐め回す。
今日の全ては、吉崎汁の一点に向かっている。
「とりあえず、飲み物と漫画を取りに行こうか」
「う、うん……そうだね!」
吉崎が部屋に荷物を置くのを確認して、俺たちは受付の方へ戻る。
まずは漫画を選ぼう。
俺は三時間パックを選択したが、そのうち二時間くらいは吉崎タイムのつもりである。
そのため、漫画を読む時間はほとんどなく、多くても二冊が限界だろう。
肝心なのは、どんな作品を選ぶかだ。
先に言っておくと、この世界の漫画は、何故か前世とラインナップがほとんど同じだった。不思議だろう、少年漫画が多いのだ。
これも神の慈悲なのだろうか?
俺の好きな『ミョミョの微妙な冒険』や『極斗の麺』なんかも存在している。作者は女性になっているが。
「どれがいいかなぁ〜」
「吉崎さんは漫画、読むんだっけ」
「割と読むかな! スポーツ物か恋愛物が多いかも!」
「じゃあこの『激烈・泣き虫白子のピンポンメダリスト』も知ってる?」
「え! めちゃくちゃ好きだよ! アニメも全部見たし!」
「僕も好きなんだよね。特に第三部の日の丸監獄編とか」
「わかる〜! 主人公がボールを伸ばして家建てるところとか、感動したなぁ。話してたら読みたくなっちゃったし、私はこれにしよーっと!」
日の丸監獄編はいい。俺はフランスからかつてのライバルが帰国して仲間になるものの、あまりに強すぎて毎回負傷するところが好きだ。
だが、俺が選ぶのは極斗の麺である。
第一部終盤の二冊を選び、続いて飲み物を取りに向かう。
「私はコーラ……お茶とかにしようかな」
「なら、ルイボスティーはどう? 僕、最近ハマってるんだよね。一緒に飲もうよ」
二人でチープなルイボスティーを手に、部屋に戻る。
「ふぅ〜! ようやくリラックスタイムだねー!」
吉崎はドカっと胡座をかくと、まずは一口、飲み物を口にした。
彼女の女の子らしくないところというか、スカートの短さなど気にしないところには大変お世話になっている。
今だって見てみろ。部屋のマットの茶色と同じくらい焼けた健康的な足が、俺の方へ一直線に向いているのだ。
「あ、ごめんね横島くん」
彼女は俺に失礼だと思ったのか、足の先がこちらへ向かないように移動する。
「——ひゃっ!?」
俺は何も言わず、ただ吉崎の履いていた白いソックスを脱がせ、その辺に放り投げた。
「ど、どうしたの……?」
「僕、部屋では靴下を脱ぎたくなるんだよね」
「そうなんだ……?」
困惑してくれて結構。
だが、俺はソックスを履いていてほしくない。
これが数度目の何かしらで、ニーハイとかであれば一考の余地はあるが、今回は履かせない。異論は認めん。
「まぁ、自分の家だと思ってくつろいでよ」
「横島くんがそう言ってくれるなら……」
吉崎が告げた次の瞬間、俺は目を疑うことになる。
彼女はうつ伏せに寝転がって漫画を読み始めたのだ。
(————エッッッッッ!?)
この世界にカートゥーンの空気が漂っていれば、俺の目玉はメンダコのような形になっていただろう。
いやもう、なんなんだよこれは。
俺はこれまで、専門科目は「太もも(表)」だと思っていた。
その自負があった。
太ももの表に比べれば、裏など取るに足らないと。
しかし……これは大きな間違いである。
表があるから裏があり、裏があるから表がある。
表裏一体なのだ。
表が「見せるためのエロさ」だとするならば、裏は「見せないエロさ」だ。
尻から繋がる流線は、ともすれば秘部を見てしまっているのではないかと、こちら側の恥じらいを呼び覚まそうとしてくる。
なぁみんな、ついにこの時がきたよ…俺は泣きそうだ…
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