強制力
席について十五分ほどが経ち、俺たちはスプーンをトレイの上に置いた。
「はぁ〜食べた食べた〜……って言うにはもう少し欲しかった気もするなぁ」
「さすが千翼さん、太ることを恐れない姿勢に感服です」
「えへへ、そうかな?」
「お嬢様が言ってるから皮肉か判断しにくいわけね」
食べ終わるスピードは吉崎が明らかに早く、俺と同じくらい。
朝の時点で汗をかいていたのなら朝練でもしていたのだろう。
そりゃあ腹も減るはずだ。自分としては、彼女にはどんどん飯を食って運動してほしい。
その努力が魅力的な身体を作り出すのだから。
「っていうか、いっくんも予想以上に食べるんだね」
「私も驚きました。レストランのメンズランチは分量が控えめと聞いたことがありますし」
「なんかアレだよね、逞しさがあるよね」
三人は口を揃えて驚いている。
「そうかな? 僕も吉崎さんと同じで運動が好きだから、自然と食べる量が増えるのかも」
「わ、私と同じ……そっかぁ」
「アタシだって食べるし! 炊飯器三つ分くらい食べるよ!?」
「炊飯器が三つあっても、一つでしか炊かないのでは?」
トンチみたいな返しだ。なんともお嬢様らしい。
とはいえ、個人的には味といい量といい大満足だった。
量に関してはサービスしてもらった結果だから、普段は少し物足りないくらいか?
「お二人とも惚けるのは後にして、そろそろ教室に戻りませんか?」
「男子を初日から遅れさせたりしたら、アタシたち終わりだしね」
「いざとなったら私が横島くんを担いで走ってくけど」
「いっくんに触りたいだけでしょ、それ」
この世界では女性がリーダーシップをとることが常なため、俺が黙っていてもドンドン話が進んでいく。
しかも、こちらの立場や利を最優先で考えてくれるから楽だ。
基本的には彼女たちに従って損はないし、自分の狙う状況を作り出したい時だけコントロールできるようにアンテナを張っておく事にする。
・
男子と一緒にご飯というイベントに精神力を使い果たしたクラスメイトを数人ほど置いて行ったものの、行きと同じく大所帯で教室へ戻る。
扉を開けてくれた御厨に礼を言いながら入ると、十人ほどの生徒が目に入った。
その九割九分は俺を確認して恥ずかしそうに下を向く。
本当は男子と関わりたいが、そこまでの耐性や行動力を持たない子達。
では、残りの一分は?
あいも変わらず一切の関心を持たない月ノ原だった。
初雪のような目元は全てを見透すのではないかと思われたが、透視先が自分ではなく壁なのが残念でならない。
すぐにでもアプローチをかけたいところだが、今は我慢の時。
どうして我慢する必要があるのか。
答えは放課後に分かるだろう。
「それはそうと横島くん、登下校は誰かに送ってもらっているのですか?」
今日から俺のものになった席に座ると、御厨が何気なく問いかけてくる。
「いや、僕は一人で登下校するつもりだよ」
「お一人でですか!?」
「うん。家族には危ないって言われたけど、自分で自分の身を守る方法は学んでるからね」
「だとしても、徒党を組まれれば危険なのではないでしょうか……」
彼女の心配はもっともである。
貴重な男子が一人で、しかも俺のような美少年が歩いているのだ。
変な気を起こす女は噴水のように溢れ出てくる。
「なら、途中まででもみんなが一緒に帰ってくれると嬉しいな。仲良くなるきっかけにもなるし」
「も、もちろんです! 私は送り迎えがありますが、今日から徒歩に切り替えますわね!?」
「別にそこまで気を遣ってもらうことは――」
「いえ、いえ! 歩かねば筋力が落ちてしまいますから、これはトレーニングの一環なんです!」
「それならいいけど……」
押し切られる形を作り出してみたが、これも計画通り。
御厨は興奮した様子で言葉を続ける。
「では、放課後は寄り道などしてもよろしいのでしょうか?」
「そうだね。今までそういう経験がなかったから、色々連れて行ってくれると嬉しい」
「もちろん! ですよねみなさん!」
徐々に声のボリュームを上げていた御厨。
クラスメイトたちは頷いている。
「なら今日の放課後に、いっくんの歓迎会しようよ!」
九重が勢いよく手を挙げると、各地から「いいね」という声が漏れ出す。
「カラオケとかどうかな!?」
「前から行ってみたくて、ぜひ! みんなの歌が聴きたいです!」
「よ、横島くんに歌を聴いてもらえる……?」
「待って私ラブソングとか知らないんだけど」
「逆にヘビメタっぽい方が印象に残るかも」
「残るだろうね、ヤバい子っていう印象が」
やる気があるようで大変よろしい。
「僕としては、今日話せなかった人たちにも来てほしいんだけど……どうですか?」
食堂に着いて来れなかった女子たちに狙いを定めて目線を送ると、彼女たちは頬に肯定の意を含んでくれた。
ただ、月ノ原にだけはアイコンタクトはしない。
今の段階で意識しているとバレるのは悪手だし、歓迎会という名目でのカラオケは、単なる集まり以上の強制力を持っている。
自分は言われていないし、俺という男に興味もない。
だからといって一人だけバックれるような真似をすれば、今後の学生生活に支障が出る可能性がある。
同じクラスになってしまった以上、このカラオケは強制参加なのである。
「じゃあ、放課後はみんなでカラオケだー!」
「私が予約をとっておきますわね!」
楽しみに心を震わせるクラスメイトたち。
しかし、興奮しているのはむしろ俺の方だ。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
ヒトカラ派だぜ!
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