77.四角かバツか
「ねえねぇいっくん! これとこれ、どっちが良いと思う〜?」
昼休みが始まってすぐ、九重が俺の席まですっ飛んできて、そう聞いた。
彼女の手にはスマホが握られていて、その画面には……水着が写っている。
二種類の水着。片方は黒く大人っぽい印象を受け、もう片方はデニム生地の水着という、野郎には馴染みのないものだった。
二つの水着は共通点があった。
(——どっちも、えっちだぜ……!)
女子に言ってはいけない言葉だと思うが、どっちでもいい。
何を着たところで似合うのは確定しているし、トロッコ問題をふっかけられているようなものである。
とはいえ、この世界の俺はトロッコ問題への回答を持っている。
「どっちもすごく似合うと思うなぁ……できれば両方見たいかも」
「ほ、本当に!? えへへ……そこまで言われたらアタシに拒否権なんてないよね……指が勝手に動いちゃうよ」
背後に「にへら」という擬音が出そうなほど顔を綻ばせながら、指は機敏に動いている。
十秒も経たないうちに購入完了だ。
「前も服を選ばせてくれたよね」
「だってぇ、どうせ買うならいっくんの趣味に合う方がいいじゃん? アタシは可愛いから何でも似合うとしても、いっくんに似合ってるって思われなきゃ意味ないしっ!」
「これから選ぶけど、九重さんはどんな服でも似合うよ」
「はぁぁ……いっくん……しゅきぃ……」
本当のことを言ったまでだか、九重は天にも昇りそうな喜びようである。
「九重さん、今日は機嫌が良いのね」
「今日“は”ではなく、今日“から”の気がしますね」
「……どういうこと?」
「きっと、樹さんと進展があったのでしょう」
「なるほどねぇ。綾香、頑張ってたもんね」
美桜とミラは既に正妻のような風格を漂わせていて、相対的モブ女子が相手でもなければオーラを膨れ上がらせない。
吉崎も最近はグッと距離が縮まっているし、焦るほどの状況にいない。
俺の好感度稼ぎはなかなかの塩梅だ。
この前、九重とデートした時の閃きのお陰である。
さて、ここらで作戦のチェックといこう。
これまで幾度となく行ってきたフェーズだが、そろそろ終わりが近付いてきている。
この章での目標は、吉崎千翼と町出凪の攻略。
三段階目が最後だとして、吉崎は次で第三、凪は第二という現状だ。
途中に九重を挟みはしたが、中盤から終盤への過渡期。
ここからは吉崎第三、凪第二、凪第三と進むことにする。
要は彼女が一人、ないし二人増えるということだ。
お楽しみは今日の放課後だな。それまでは平和な時間を——
「あのぉ……横島さん、いらっしゃいますか……?」
またか。女子生徒がやってきた。
知らない女子だったが、リボンの色を見る限り一年生だ。
「僕が横島だけど……」
言いながら彼女の元へ歩いていく。
昼休みが始まって五分も経っていない。なかなかに気合が入ったお客さんだ。
しかし、こういうことが起きたのは一度や二度ではなく、美桜やミラは「またか」と言わんばかりの顔で後輩を眺めていた。
「どうしたの?」
「あ、ええと……」
上級生の教室だからか、彼女は不安そうな顔をしている。
「名前を聞いても良い?」
「わ、私は鬼瓦です」
「鬼瓦!?」
思わず聞き返してしまう。これまで俺に挑戦してきた女子たちの例に漏れず、彼女も物静かそうな子ではある。
あるのだが……佐藤とか鈴木と比べて、鬼瓦はインパクトがデカすぎる。
ピンク色のベストでも着せてやりたいぐらいだ。
(ま、まぁ……想定の範囲内か)
一つだけ分からないことがあるとすれば——
「お、お昼とか、空いてますかっ!」
他を考えるのが面倒だとしても、傾向が被りすぎだろう。
「もちろんです。ちょうど食堂に行こうと思ってたんで」
本番前のつまみ食いには丁度いいか。
食堂で飯を食って、その後に空き教室にでも侵入して……というお馴染みのプランだ。今回は体育倉庫にしようかな。
おいおい、ついに来るぜ。アレがよ…
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