76.一進一退の攻防★
「っていうか、二人でチェキって撮れなくない?」
彼女がインスタントカメラを手に帰ってきた時、俺は聞いてみる。
俺や凪の個人チェキ——俺のを撮る意味は分からないが——であれば、もう一人がカメラを構えれば良い。
しかし二人で撮るならば、別の誰かに頼むしかないのではないか。
「ん〜? そんなことないですよぉ?」
根拠は分からないが杞憂だったようだ。
凪は魔改造メイド服に忍ばせていた手鏡を取り出し、顔面の調子を確認し始め、続けてリップ、グロスと唇を彩った。
「さ、撮ろか」
彼女は片手でカメラを持つと、もう片方の手を俺の腰に回す。
「これから撮れるやろ?」
なるほどな。スマホで自撮りをするように使うのか。
最近の若者は俺の想像を超えてくる。俺もガワは若いが。
「この、横の銀色のところ見とってくださいね?」
レンズの横に小さなミラーがあり、これに上手く映るようにすれば事故らないということのようだ。
「撮りますよぉ」
物体として残る以上、盛れていないのは避けたい。
いくら今世の俺が甘いマスクの持ち主だといえど、事故画なんて簡単に量産できてしまう。
いつ撮るのだろうと息を止めて待機していると、彼女はシャッターを切らず——俺の耳を、ぬるりとした感触が這っていった。
(————ッ!?)
驚きで声を出しかけたのを、どうにか抑える。
(こいつ……ここで仕掛けてきやがった)
最初は耳輪に沿うように、徐々に内側へと生暖かい音が侵食していく。
「な、凪ちゃん……?」
「んむ、チェキ撮るんやから、動かないでくださいねぇ?」
凪の長い舌が動くたび、鼓膜に慣れない音が伝わってくる。
切断された指の断面を見ている時のような、胸の奥に火種が燻っているような音が。
舌先がチロチロと矛先を変えていき、俺は声を漏らしそうになる。
(このままだとヤバいぞ……反撃しないと)
有効打は何か考える。
そして考えた末に出した結論が——
「——んあぁっ!?」
凪側にある手を回し、胸を揉みしだくというシンプルな抵抗だった。
「え、えらい直接的なんやねぇ……?」
俺は何も答えず、手のひらに伝わる感触に集中することにした。
上には上がいても馬鹿でかい乳であることに変わりはなく、強い張りが俺を押し返そうとしてくる。
凪は片手でカメラを持っているため、もう片方の手ではどこにも、俺の股間にも届かない。
よって、彼女は引きづつき俺の耳を責めることしかできず、ダメージレース的に言えば、明らかに俺が有利だ。
「んっ……あ、あっ……」
彼女の口からは吐息だけでなく、快楽の粒が溢れ始める。その頻度が上がっていく。
よし、これで今回は俺の勝ち——
「——二名様で〜す!」
エレベーターの扉が開き声が聞こえた瞬間、凪の持っていたカメラが光を放ち、重力に従って落ちた。
俺たちは急いで距離を取り、凪は、チェキを吐き出し始めたカメラの無事を確認した。
入ってきた三人……一人のキャストも二人の客も、俺たちが何をしていかには気付かず、何なら俺が男ということも察することなく、接客が始まっていく。
「と、撮れたみたいやけど……」
カードサイズの写真を両手で温めた凪が、それを俺に見せる。
しかし、写っていたのは盛れた顔ではなく、ブレブレで、お互いの表情すら分からない有様だった。
「ま、まぁ……取り直すのは面倒だし、これで良いんじゃない?」
「えぇ……残念やなぁ」
凪は小さく言いながら、どこからともなく取り出したペンを写真に走らせていく。
表が書き終わったかと思うと、裏にまで突入した。
「……はい、おにーさん」
手渡された写真を見てみると『おにーさん、今日は来てくれてありがとう! 絶対また来てね〜!』という当たり障りのない言葉と、無駄に可愛い猫のイラストが。
胸も堪能したことだし、ササッと会計を済ませて出て行こうとすると、凪がバレないように耳打ちしてくる。
「……さっきのチェキ、ちゃんと裏も見てくださいね?」
俺は適当に手を挙げてエレベーターに入り、建物を出る。
深いため息を吐いてからチェキの裏を確認してみると、そこにはMINEのIDが書かれていた。
胸を揉み始めたあたりで「運営」という言葉が飛来してきました。
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作品作りにご協力いただけると幸いです!




