75.全てのチェキは遺影になる
凪がカウンターから出て、コーラを置いてくれた。
普通のコーラだ。ストローを使って飲んでみても、その感想は変わらない。
「フードメニューもあったりするの?」
「オムライスとかカレーとか、簡単に作れるのならありますよぉ」
簡単に、という言葉から、カレーはレトルトだと推測できる。
「オムライスは凪ちゃんが作ってくれるってこと?」
「せやねぇ。材料も少ないですし、あんまり期待しないでほしいですけどねぇ?」
以前、凪が一人暮らしをしていて、自炊するという情報を手に入れている。これは本当のようだ。
彼女の言葉は、何が嘘で何が本当か分からない。
それほど警戒する必要がある相手である。
ターゲットとしては申し分ない。
このくらい張り合いのある相手でなければ、自分が成長している気がしないからな。
考えていると、いつの間にか凪が自分のグラスを持ってきて、俺のコーラの隣に置いた。
「なぁ樹先輩? ウチ、一緒にチェキ撮りたいんやけど」
「チェキ?」
説明しておこう。チェキとは、撮影したその場でプリントされる、レトロな感じの写真である。
嬢は客と一緒に撮ったチェキにコメントを書いてくれる。もちろん有料だが。
「うーん……どうしようかな」
俺は敢えて渋る。俺の本音を言えば、チェキなんて全然欲しくない。
こんなもん人に見せれないエロ写真と同じカテゴリのものだし、自分が写っているなら尚更いらん。
しかも、コンカフェ嬢は簡単に飛ぶ。
インターネットが普及した弊害として挙げられるのが「人間関係の希薄化」である。
ミンスタグラムでもマッチングアプリでも何でもいいが、現代では男女が簡単に繋がれるようになった。
一般的な女子であれば、本来では相手にされない上位の男に文字通り「遊んでもらえる」ため、目が肥えてしまう。
目が肥えてしまい、挙げ句の果てには「私の価値は高いんだ」と勘違いするから、自分の適性レベルの異性を相手にしなくなる。
そんなこんなで、簡単に会える男がいるから簡単に切れるわけで、人間関係はペラッペラ。
同じく、職場に関しても逃げ癖が出てしまい、人生そのものの見通しが甘いコンカフェ嬢など、息を吸うように飛んでしまうのだ。
その結果、客が譲と撮ったチェキは遺影に様変わり。
こんなもん持ってて何になるのだという話である。
とはいえ、今回に限っては話が違う。
凪とは今後も「仲良く」するつもりだし、リアルでの繋がりがある分、切れるおそれはないのだ。
にも関わらず俺が渋っている理由は——
「え〜? ええやろ〜?」
俺たち以外に誰もいないのをいいことに、凪は俺を説得するフリをして胸をぎゅうぎゅうに押し付けてくる。
これだよ。一種のシチュエーションプレイというか、乳エーションプレイである。
「僕、チェキなんて撮ったことないんだよね」
「そうなんや。なら、ウチが初めてやねぇ?」
彼女はさらに俺に身体を寄せて、耳元で囁く。
「ぜーったい良い思い出にしたるから、一緒に撮ろ?」
ふーっと息を吹きかけられ、ゾクゾクとした快感が身体に走る。
「……一枚だけだよ」
「やったぁ! ふふっ……嬉しいなぁ」
「それじゃあ二枚分のお金出すからさ、僕と凪ちゃんで一枚ずつ、お揃いにしない?」
「ええの!?」
飛び上がって喜んでみせる凪。
先ほどよりも大きく揺れる果実に、視線だけでなく俺の頭も上下してしまった。
「ウチ、ずっと夢やったんよ。好きな人と二人でお揃いのもの持つん」
「好きな人って……僕のこと?」
俺は首を傾げる。
「当たり前ですよぉ? 先輩、まだ気付いてなかったん? 鈍感やわぁ」
「そんなこと言われたら、僕も好きになっちゃいそうだよ」
上部だけの言葉の応酬。
この「好き」には、お互いに一ミリの気持ちも入っていない。
しかし、これが試合序盤のボディブローのように、後半になって効いてくることを俺は知っている。
もうお分かりだと思いますが、樹の意見ですよ。
シバかれたくないですからね。
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