74.トップの女
「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」
「はい、なんで——男!?」
残念ながら立っているのは凪ではなかったが、とりあえず魔改造メイドに声をかける。
やはりエロティックな衣装ではあるが、彼女は胸のボリュームが圧倒的に足りていない。こんなんじゃ興奮できないぜ。
そして、彼女は俺の性別に恐れ慄き、小刻みに震え始めた。
「な、ななななんですか……?」
「お姉さんのお店に行きたいんですけど、連れて行ってほしくて」
「私のお店に男性が!?」
「えっと……もしかして男はダメでしたか? なら——」
「いえ、いけますッ! いかせてくださいッ!」
どこにだよ。嬢の様子はともかく、俺は彼女に連れられて店に行くことになる。
エウリアン側の大通り、さらに一本裏にある店だ。
ボロいビルの三階という、いかにもヤのつく職業が背後にいそうな店である。
「いらっしゃいませ〜」
エレベーターで三階へ向かい、店に入ると、俺を男ではなく見知らぬ客と認識したキャストたちが声をかけてきた。
その中には、もちろん凪の姿もある。
「……あれぇ? おにーさん、どうしてこんなとこおるん?」
ようやく俺に気付いた凪が駆け寄ってくる。
一歩のたびに「ぶるん」と音が鳴りそうなほど胸が揺れ、俺の魂は歓喜の雄叫びをあげる。あと、普通に困惑した顔だ。
「凪ちゃ——ここではなんて呼んだらいい?」
「ナギでやっとるから、そのままでええよぉ」
「分かった。凪ちゃんに会いたくて来ちゃった。迷惑だったかな?」
「あらあらぁ……えらい可愛いですねぇ? 迷惑なわけあらへんよ〜」
相変わらず、人を小馬鹿にしたように笑う凪だったが、強ばかりはどうでもいい。俺は乳を楽しみに来たのだから。
この時点でもかなり満たされていて、もはや帰ってもいいかもしれないと思い始めていたが、一杯ぐらいは飲んでいくことにした。
「まだお客さん誰もいいひんから、どこでも好きなところでええですよ〜」
一番奥の席に腰掛けると、凪は他のキャストに耳打ちする。
すると、全員が外に出て行ってしまい、店内には俺と凪しかいなくなった。
「静かな方がええかなーって思て」
「わざわざありがとう。ゆっくりさせてもらうね。最初は……コーラでももらおうかな」
まだ酒は飲めない。ミルクにするか迷ったが、致死量の砂糖を摂りたい気分だった。
凪は「分かった」と言ってグラスの用意を始める。
俺はその間に店を眺めることにした。
といっても、なんの変哲もないガルバ崩れの店だ。
内装やメニューに大したコンセプトもなく、エロ売りしているだけ。
そんな中で、カウンターに立てられている小さな黒板が目に入る。
黒板には「今月の売り上げTOP5』と書かれており、一位には見覚えのある名前がとチェキが。
「凪ちゃん、一番人気なんだ」
「そうやねぇ。しかも、ウチが入ってからずっとなんよ?」
マジか。大手じゃないとはいえ、どの店にも一人二人は人気のあるキャストがいる。
凪の下……二位や三位のチェキを見てみるが、容姿のレベル自体はかなり高い。
それこそ、凪よりも人気が出てもおかしくないほどに。
それでも首位を死守しているというのは、才能以上の努力があるのだろう。
「すごいね。頑張り屋さんだ」
「上手くやれへんかったら、やる意味がないですからねぇ」
笑みを浮かべる凪だが、彼女の言葉に引っ掛かりを感じる。
飄々としている彼女らしくないというか。
「ウチ、樹先輩の一番にもなりたいなぁ?」
「なれると思うよ」
「ホンマにぃ〜?」
「僕、頑張ってる子が好きなんだよね。凪ちゃんって裏で努力するタイプでしょ?」
一瞬だけ凪の表情が固まったが、すぐにいつもの様子に戻る。
「どうしてそう思うん〜?」
「売り上げを立てるのだって、適当にやってちゃ限界があるし、確か陸上もやってたんだよね。吉崎さんと張り合えるぐらいだから、かなり練習したんじゃないかなって」
「もぅ〜、先輩は褒めるのが上手やねぇ。ウチ、照れてしまったわ」
少しだけ頬を赤らめる凪。だが——
「やけど、やっぱりウチは一位じゃなきゃ嫌なんよ。先輩も覚えといてな?」
その目は笑っていなかった。
いつかのアキバは死にました。
今は侵略されたのです。
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