68.そういうことっ!
赤煉瓦前の広場では、よく分からんイベントが開催されていた。
「これ、なんだろうね?」
「集まってる人の年齢的に、アルコールがメインかもしれないね」
「なるほどねぇ……じゃあアタシたちにはまだ早いか」
「お酒っていくつからだっけ?」
「二十だよー!」
飲酒は二十からか。俺が生きていた頃は成人も二十歳で、成人式も同じくだったが、今は違うらしい。
だんだんと世界は色を変えていき、反対に俺たちは歳をとることでくすんでいく。
少なくともこの世界では、しばらくの間は俺も鮮やかにならなければ。
「それならあと三年ぐらいかぁ。みんなで一緒に来れたらいいね」
「そうだねっ! でも、アタシはいっくんと二人でも来たいよ?」
「二人だったら、夜景を見ながらご飯とかも良さそうだね。観覧車をバックにした九重さんは、すごく綺麗だと思う」
「い、いっくん褒め上手過ぎだって! その時までにオトナの女になっとかないと!」
顔を真っ赤にしながら気合いを入れてくれる九重。
彼女の顔にはまだ幼さが残っているが、これがもう二、三年経つとどうなるだろう。
九重の持つ素材が熟成され、努力と合わさって爆発的な作品が生まれるはずだ。
こんなの、前世なら男たちが放っておかない。
輩が存在しない世界に転生できたことに、心からの感謝を。
九重が教えてくれたカフェは、二号館の三階にあった。
「へぇ、本当に寝れる……っていうか、寝れ過ぎるね」
受付を済ませると、好きな席を選んでいいと通される。
店内の中央スペースには普通の、テーブルと椅子というシンプルな席もあるにはあったが、目を惹くのはそれ以外の全て。
壁際に沿うように、無数のベッドが並んでいる。
変態ラブホ部屋に設置されている、スイッチを入れると回転する丸いベッドじゃなく、長方形のやつだ。
掛け布団とクッションに近い枕も完備。
真ん中には円形で平べったい木製のお盆が置かれている。
「ど、どこにする……?」
予想以上にベッドベッドしていたからか、九重も緊張しているようだ。
俺たちは考えた末に、一番端の目立たないベッドを使うことにした。
男ということで気を遣ってくれたのか、俺たちの席を照らす照明が、あからさまに暗くなった。
これでは物が食べられないのではないかと思うくらいに。
靴を脱いで腰を下ろすと、九重も同じようにする。
彼女は控えめに胡座をかき、短いスカートが頑張って隠している部分がどうにも気になるが、どうにか気にしないように意識を逸らす。
周りの客を観察してみると、学校帰りのJKたちが駄弁っていたり、友達以上の関係になっていそうな二人組がいたり、客層は様々。
(……この世界では百合が盛んなのか?)
ずっと思考から漏れていたが、男女比が終わっているのだから、女子同士のカップルは多いと思っていた。
しかし、俺の知る限りでは、二年生内にカップルはいない。
上手く隠しているだけかもしれないし、そんなことを決めるまでもなく横行している可能性もあるか。
メニューを見てみると、提供しているものは一般的なカフェと変わらない。
定食があり、デザートがあり、ドリンクもある。
ただ、座って食べるとなると違和感があるな。
「いっくんお腹空いてる?」
「あんまりかな。軽く飲み物とデザートにしようかなって」
「アタシもそうしよーっと。確かガトーショコラがオススメだったはず」
ガトーショコラなんて、どこの店で食べてもハズレはないだろう。
とりあえずに選ぶにはもってこいの一品だ。
ドリンクは……コーラかレモネードがいいな。
「アタシはガトーショコラとコーラにする!」
「僕も同じのにしようと思ってたんだよね」
「マジ、すごくない!?」
片手を口に当てて大袈裟な反応をする九重。
「アタシたち、頼むものまで同じなんて運命じゃないかな……?」
「もし違うものを頼んでたら?」
「パズルのピースって、お互いの足りない部分を補い合うわけじゃん? そういうことっ!」
素晴らしく都合の良い解釈だな。嫌いじゃない。
後書きを読み始めたから次の話に到達する前に食事は終わりました
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