66.三角か四角か
「失礼します……あの、横島樹くんはいますか?」
翌日になり、「今日の昼飯はスパイシーにいきたいな」なんて考えていたところに女子生徒がやってきた。
知らない女子だったが、リボンの色を見る限り三年生だ。
「僕が横島ですけど……」
言いながら彼女の元へ歩いていく。
まだ昼休みは始まったばかり。なかなかに気合が入ったお客さんだ。
しかし、こういうことが起きたのは一度や二度ではなく、美桜やミラは「またか」と言わんばかりの顔で先輩を眺めていた。
「どうしたんですか?」
「あの……」
俺を呼びに来ておいて、先輩は怖気付いているようだ。
「お名前を聞いてもいいですか?」
「あっ、私は鈴木愛です」
鈴木愛……佐藤と同じくありふれた苗字で、幸子よりは愛の方が少ない……のか?
彼女は肩まで伸ばした茶髪で、おとなしそうな顔をしている。
俺との会話に緊張を見せているし、性格も落ち着いているのだろう。
ほとんどが想定の範囲内。
一つだけ分からないことがあるとすれば——
「も、もしよかったら、これから一緒にお昼ご飯とかどう……ですか?」
この勇気はどこから出てきているのか。蛮勇とも言える。
「もちろんです。ちょうど食堂に行こうと思ってたんで」
つまみ食いには丁度いいか。食堂で飯を食って、その後に空き教室にでも侵入して……というプランだ。
(…………なんか、この前も同じこと考えてなかったか?)
デジャヴというやつだ。
「また先を越された……」
「ウチらはさぁ、なまじ同じクラスだから、心の中で満足しちゃってるのかもね」
「あー確かに。いつだって横島くんの事を視か……見る事だってできるし、話しかける機会だって多いもんね」
「その上で、横島くんって優しいじゃん? 笑顔で対応してくれるだけで、欲求が満たされちゃうのよね」
「それすぎる。横島くんってホント優しいよね」
「優しいエピソードってもう百五十超えたんでしょ?」
クラスの女子たちは前回とは違う反応をしている。
……俺の優しいエピソード、一日に三十個ぐらい増えてない?
「じゃあ行きましょうか」
教室を出る直前に、俺の彼女&彼女候補たちの様子を見ておく。
今回はみんな慣れているのか、かなり余裕そうだ。
主が不在の俺の席を囲むように、四人が集まっていた。
「人の好みはそれぞれですが、本当に価値がある方というのは、好みを問わずに人を惹き寄せるものですよねぇ」
「たとえ好みじゃなかったとしても、優れているのを認めないのは嘘になるしね。そんな樹に大切にしてもらってるんだから、私たちはとてつもない幸運だわ」
「全くもって、その通りだと思います! 千翼さんもそう思いませんか!?」
「…………育てるには……でも、そうすると…………えっ!? ごめん御厨さん聞いてなかった!」
「チッヒ、なんか最近上の空っていうか……どうしたの?」
「いや、その……特に何もないよ!?」
「ふぅん……? それより良いこと思いついたんだけど、いっくん目覚まし時計ってどう?」
「目覚まし時計……ですか?」
「ほら、目覚まし時計ってアラーム機能があるじゃん? あの部分をいっくんに録音してもらって、いっくんの声で起きれるの!」
「まぁ……まぁまぁ! なんという発想なのでしょう。さすが綾香さん!」
「でしょ!? 今度みんなで頼んでみようよ!」
「私も賛成せざるを得ないわね。QOLが限界を超えそうよ」
美桜とミラに関しては、数日に一回の割合で通話をしてケアはバッチリだし、吉崎は育乳で頭がいっぱい。
九重も、放課後に会えるということで上機嫌だ。
急もないし、宣言通りパックを使ったのか、いつも以上に顔がツヤツヤしている。
俺と目が合うと、九重はギャルピースを送ってくれた。えっちだぜ。
(楽しもうな、九重……!)
俺は心の中でエールを送りながら、一品足された食堂に向かうのだった。
平凡そうな名前のストックがもうないです助けて
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