62.その手があったか
「プラネタリウムやね」
なるほどな。その手があったかという感じだ。
サンシャインシティにはプラネタリウムがあった。
一人行動が得意だった前世の俺でも、さすがに一人プラネタリウムの経験はなく、思考から漏れていたようだ。
「星が好きなの?」
「まぁ好きやねぇ。っていうか、星が嫌いな子なんていぃひんやない?」
空に浮かんでいるだけで、悪いことは何もしてこないからな。
案内板を頼りに建物の奥へ進み、プラネタリウム行きのエレベーターに乗り込む。
エレベーターの扉が閉じると、館内のざわめきが消えたように静かになる。
窓のない箱が、ランプの数字を一つずつ増やしながら昇っていく。
プラネタリウムのチケットを買ってドームの中に入ると、既に照明が絞られていた。
まだ真っ暗という程ではないが、すでに雰囲気が出ている。
ひやりとした空気が肌を撫で、夜の底へ足を踏み入れた心地だ。
「実は僕、プラネタリウムは初めてなんだよね」
「先輩の初めてもらえて嬉しいなぁ。これでウチが初めての女やね?」
いかがわしい表現だが、間違いではない。
靴を脱いで、シートに身を沈める。
寝転ぶと、視界のほとんどを天井が占める。
甘さのない草木の匂いがうっすら流れてきた。
ふと、真横に人の気配を感じる。
凪が真横に寝ているのだ。
本当は一人一人別のシートにしようと思ったのだが、彼女は大きめの、二人で寝そべることができるものを選択した。
それ自体は問題にはならないが、疑問は尽きない。
「ちょっと寒いから、そっち寄らせてもらいますねぇ?」
そう言って、凪は俺に抱きついてくる。
今回のは隣で歩いている時のような生易しいものではなく、足まで絡めてきた。
身長が身長だし、腕も足も本気で掴めば折れてしまいそうなほど細い。
しかし、俺の下半身をホールドする彼女の足には、かなりの力が込められている。
「はぁ〜、温いなぁ……」
「凪ちゃんの香水、いい匂いだね」
草木の匂いとは別に、甘い匂いが漂ってくる。
決して甘ったるさはなく、周囲の湿度のある香りと混じっても喧嘩しない。
「気付いてもらえて嬉しいわぁ。先輩が好きかなぁ思て選んだんですよ?」
男が喜びそうな言葉選び。
物を選ぶセンス。
自分のスタイルを生かした密着。
本当に、男女比偏重世界の存在とは思えない。
この世界の神は、実は凪も俺と同じ転生者だったとか、他の男と性的な関係があるとか、そういう企みを入れてくるタイプじゃない。
これは、俺がどれだけおかしな状況に陥ったとしても揺るがない事実だ。
だからこそ、男のツボを理解しているような動きに、異性と至近距離にいても動揺を見せない様子に、警戒せざるを得ない。
目的はなんなのだろうか。
それを考えている間に、プラネタリウムが始まるようだ。
壁のランタンが一つずつ消えていき、空間に闇が満ちる。
指の輪郭さえ見えなくなる。天井も床も、距離すらもなくなって、俺という肉体が輪郭を失ったのではないかと錯覚してしまった。
やがて、低い音楽が流れ出し、頭上に一つの星が灯る。
それを皮切りに無数の光が滲み出して、ドーム全体に夜空が広がった。
星がゆっくりと巡りはじめ、先ほどまで客の話し声で埋まっていたドームの中には、物音ひとつ立たなかった。
『今日は冬を先取りして、皆さんに冬の星座をお楽しみいただきます』
まだ梅雨も来ていないのに先取りしすぎだろ。
脳内でツッコミを入れつつも、楽しみにしている自分もいる。
冬といえばオリオン座だ。
星座に明るくない俺だが、オリオン座ぐらいは見つけることができる。
残業の後に見上げる星空は綺麗な事この上ない。
人間社会の醜さとは無縁だと言わんばかりに輝いているし、顔を合わせる機会が多ければ、それだけ好感度も上がっていく。
返報性の法則というやつだ。
だから、俺は旧友と再会するような感覚で空を眺めていたのだが……やはり平和にはいかないようだ。
凪がまさか、ここまでアクセル全開で来るとは思わなかった。
次回は、久々に運営にお祈りする回になります。
もちろん描写はカットしまくり、表現も控えまくりですが、ついに直接的なアレがアレかもしれません。
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