61.池袋って迷うんすよね
改札を出た瞬間、音が塊のように顔にぶつかってくる。
正面にそびえる巨大ビジョンが、誰も見ていないであろう広告を大音量で流し、その下を流れる人は川のようだ。
「平日やのに人が多くて、ちょっと嫌になってまうなぁ」
そう言って、凪は俺に抱きつく。
居酒屋の呼び込み、スーツケースの車輪がタイルを鳴らし、パチンコ屋の自動ドアが開くたびに漏れる騒々しさ。
夕方の池袋は、放課後というにはあまりにも大人にまみれていて、男がいなくても同じような人種が多い。
「どこに行こうとしてるの?」
「んー? それは着いてからのお楽しみぃ〜」
教える気はないらしい。
サンシャイン通りに入ると、視界がいっそう騒がしくなる。
ゲームセンター、ドラッグストア、チェーンの居酒屋など、二階三階まで縦に積み上がった看板が、それぞれ光を放っている。
「凪ちゃんは池袋、けっこう来るの?」
「せやねぇ……月に一回くらいやね」
あんまりじゃねぇか。
「そういえば、出身はどこなのか聞いていい?」
「ウチは京都やねぇ」
「最近出てきた……わけじゃないんだよね」
陸上かなんかで吉崎と知り合いだったわけだし、大きな大会で知り合った可能性もあるにはあるが、前から東京に住んでいたと考えるのがしっくりくる。
「中学上がるときに引っ越して来たんですよ。街の作りも全然違うしぃ、最初は結構苦労したなぁ」
一般的に上京してきた人間は、一年も経つ頃には方言が抜けてしまい、地元に帰った時くらいしか出てこないと聞く。
それを踏まえると……この子、本当になんてエセ京都弁なわけ?
謎は一向に解ける気配がないが、俺たちの歩みは確実に進んでいく。
足元は平らに見えて、実はゆるやかに上っているようだ。
数メートルごとに空気の味が変わり、店から漏れる別々の音楽と人々の笑い声が混ざっていく。
「こっちやねぇ」
大通りを抜けきる手前で、西急レッグスの建物の脇に、地下へ降りていくエスカレーターがあった。
サンシャインシティが目的地なのか。
エスカレーターを降りきると、蛍光灯の白い光が通路をまっすぐ照らしている。
壁には、やはりサンシャインシティの方角を矢印で示すサインがあり、その下を人々が、一心不乱に歩いている。
「樹先輩は、池袋ってよく来るん〜?」
「いや、初めて……ではないけど、来る機会はほとんどないかな」
この世界で訪れるのは初めてだが、前世ではアニメグッズを買いに行ったりで、それなりの知識はある。
こういう時、なんと言えば良いのか分からなくなるな。
「そもそも、凪ちゃんって普段なにして遊ぶの? 友達とかと」
「ん〜」
凪は考える素振りを見せるが、どうにもわざとらしい。
「一人でおるんが好きやから、ぶらぶらしてることが多いかなぁ。あとは、コンカフェでバイトしたりぃ?」
「あー、確かにバイトしてると、あんまり遊びに行く時間もないよね」
ミラの家は苦労していたそうだが、凪家はどうなのだろう。
補助金を得るために俺に近付こうとしている可能性もあるかも。
……いや、それにしては回りくどすぎるアプローチだ。
彼女の背後には、もっと切実な願いが隠されているような気がする。
通路の突き当たりがサンシャインシティの入り口だ。
細長い道を、周囲からの甘ったるい視線に興奮しながら進んでいくと、天井が頭上へ大きく退いていく。
見上げてみると、フロアが幾層にも積み重なって上へ抜けている。
エスカレーターがいくつも交差しながら人を上下へ運ぶ。
(ここまで来たら、目的地はだいたい予想できるな)
まずはサンシャイン水族館。
サンシャインシティといえばこれ、という感じだが、前回ミラと行った品川と被る。
俺が神様であれば、間違っても同じイベントは起こさないが……残念ながら貴重な一般人であるようだし、月二で水族館になるかもしれない。
次に思いつくのはパキモンセンターだ。
池袋のパキセンは規模が大きく、目的地の一つとしての強度はある。
とはいえ、パキセンに行きたいだけなら渋谷にも、外人に支配されて買い物どころではない店舗があるし、そもそも凪がパキモン好きという情報は入ってきていない。
最後は……展望台とかか?
こちらもパキセンと同じく、渋谷でもできてしまう事だ。
だが、たとえば水族館との合わせ技であれば話は違ってくる。
渋谷に水族館はないし、同じ施設内で済ませられるのは魅力だ。
(……水族館かぁ)
包み隠さずに言ってしまうと、水族館は好きだが、こう短い間隔で行くのは退屈だ。
こういう時は、意識を別の部分に向けるに限る。
凪の胸の揺れとか、乳のたわわ具合とか、乳房の反発とか。
ひとまず、どこに行くかだけ確定させておくか。
「サンシャインまで来たってことは、水族館に行くの?」
タイトルが中身に関係ないシリーズ、第二弾
どこ行くと思います?
評価ポイントをいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!
作品作りにご協力いただけると幸いです!




