60.襲来
「樹せーんぱーい、可愛い可愛い後輩がお迎えに来ましたよぉ。デートしに行こぉ〜?」
ざわついたとか、どよめいたとか、騒然としたとか。
この場を表す表現はいくつか思いついたが、ドンピシャで表しているのは——揺れた、だ。
ホームルームが終わって宮木先生が教室を出て行った瞬間に凪がinして、全員に聞こえるように言ったのだ。
「な、なにあの子……可愛すぎる……ッ!」
「今年の一年って、あんなに可愛い子がいるの!?」
「あの胸で一年生は無理でしょ」
十人十色の反応と思おうとしたが、十人三色ぐらいだな。
一つ、凪に対する「可愛い」の反応。
二つ、凪の胸に対する欲情。
三つ——新たなる敵に対する警戒。
——樹さんったら、本当に罪な方ですね?
——これは、真似できないわね。
——うう、凪ちゃんも胸が大きい……。
——ま、またいっくんを狙うライバルが……。
彼女たちが直接口に出しているわけではないが、表情を見ればなんとなく理解はできる。
美桜は、自分の恋人がモテているのを誇っている反面、少しばかり嫉妬もしている。
ミラは嫉妬の感情よりも、凪の度胸に感心すらしているようだ。
吉崎は、先日の理子さんと園田先生の件を引きずっているな。
そして九重に関しては……これでいい。もっと焦ってくれ。
(……にしてもだ。昼休みの失点を取り返しに来てるな)
昼休みの俺は、彼女に追わせる状況を作り出す事によって優位に立っていた。
この法則には揺るがない強さがあるが……何事にも例外はある。
俺がミラに対して行ったのと同じで、突き抜けたアタックは「駆け引き」のフィールドを破壊し、追う追われるの関係を有耶無耶にする。
凪が採用した作戦というのが教室中の女子——特に俺の周りを固める四人に対する宣戦布告だ。
今、横島樹が邪な気持ちを抱いているのは自分ですよ。
これから二人っきりでデートに行きますよ。
私は樹先輩から小さくない気持ちを向けられていますよ。
たとえ凪が追っている立場だとしても、傍観者からは比率が分からない。
七十%で凪が攻めているのか、五十%でお互いにアプローチをかける段階なのか、九十%で俺が口説いているのか。
男女比が終わっている世界で、その世界ならではの常識が構築されていても、判断は人による。
俺が男として異質だから尚更だ。
凪はそれすら計算に入れている可能性もある。考察終わり。
俺は席を立ち、これが矢であれば武蔵坊弁慶を彷彿とさせるのではないかという程の視線を背中に浴びながら、入り口に立つ凪の元へと歩を進める。
「早かったね、凪ちゃん。廊下は走っちゃダメだよ?」
「もう、そないなこと言わんといて?」
彼女は口を尖らせる。
それより尖っているのは制服の胸の部分であり、俺の——。
「樹先輩に会いたくて会いたくて、飛んで来てしもたんですからぁ」
ぶりぶりのあざとさだが、日頃から研究を重ねているのか下品に感じない。
「それじゃあ行こっか。ただ、目的地は決めてなかったよね」
「それやったら、ウチが考えときましたよぉ? 樹先輩に気に入ってもらえたらええなぁ思て、午後の授業中、ずっと考えてたんやから」
自分のために時間を使って考えてくれるとか、男はそういう行動に弱い。
本当に、こんな世界でよく技術を身につけられたものだ。
「嬉しいよ。自分のことを考えてくれるのって、すごく幸せなことだよね」
「せやねぇ。ウチのことも、たぁくさん考えてほしいわぁ」
この俺の言葉は目の前の相手に向けたものというより、観察している彼女らに向けたものだ。
「初めての二人きりのデートやしぃ、ええ思い出にしましょね?」
もはやデフォルトと言わんばかりに、凪は腕を絡めてくる。
いつまでも腕を埋まらせていたい感触。
しかし、背中に刺さる矢が数本、槍に変化しているのを感じて、一度だけ振り返ってみる。
——私も樹さんにくっつきたいです! 今度試してみましょう!
——取り入れられるところ……家まで押しかけてみようかしら。
——負けられない! 私、ファイトー!
——ぎゃ、ギャルはネガティブになったら負けっしょ……いっくんの次の彼女はアタシ!
やる気がありそうだし良しとしよう。
凪の作戦は、戦いという視点では俺を不利にするかもしれないが、他の女子たちとの関係性という面では有効に働いてくれている。
ちょっと最近pvが怪しい感じなので、評価ポイントや宣伝などでモチベ維持していただけると嬉しいです!




