59.追わせる戦い
「凪ちゃんの作る料理、食べてみたいなぁ」
「せやったら今度、ウチ来ますぅ?」
「え、いいの?」
かかったな——と思っているのはお互い様だろう。
俺は彼女の化けの皮を剥がして、敗北に打ちひしがれる顔が見たい。
おそらく凪は、俺という「男」を落としてトロフィーにしたい。
考えているのは同じようなことだから、進むべき道のりも同様なのだ。
ただ、俺たちには確固たる違いがあった。経験の差だ。
夢の中で何百何千という美少女を落としてきた俺と、せいぜいMetubeで偽のノウハウを得ている凪とでは、天と地の差がある。
今だってそうだ。俺は敢えて——イベントを破壊する。
「でも、やっぱりやめておこうかな」
「……へ?」
間の抜けた返事。俺から「家に行きたい」というフリをしておいて、前言を撤回したのだから、彼女からすれば意味がわからない。
「本当は嬉しいお誘いなんだけど、僕たちってまだ知り合ったばかりだし……もっと仲良くなってからがいいかなって」
「確かに……そうやねぇ。ほんなら、ウチらもっと仲良うなりましょか。他の子らも追いつけへんくらい深く……な?」
そう言うと、凪は抱きつくようにして俺と腕を組む。
若さという弾力と爆発力に支えられた感触が腕を包み込み、もう一人の俺がピクリと反応する。
そう、サイズでは理子さんや園田先生に劣る凪だが、総合点で考えれば同率一位……または超える可能性すらあるのだ。
まだ実物を見たわけではないが、彼女の乳房は理想的な形をしているはず。
年齢によって多少のタレや色の劣化は避けられない。
対して凪のそれは、乳そのものが意志を持っているかのような弾力で、俺の腕を抱きしめてくる。罪深いぞ、この胸は。
爆乳の感触に舌鼓……いや腕鼓を打ったところで、今回のキモの解説だ。
俺は別に、この感触を味わいたいから遠回りをしているわけではない。
恋愛とは、追うのではなく追わせなければならないのだ。
凪の作る料理が食べたいと言い出したのは俺であり、俺が彼女と仲良くなりたいという構図になっている。
これでは——男という存在そのものの優位性はあるものの——凪が追われる側として有利なフィールドにってしまう。
そこで、俺が敢えて引きの姿勢を見せることで、彼女の方から仲良くなろうと腕を組むことになり、俺が追われる側へと回ることができたのだ。
俺にその気があるとは思わないだろうが、当然のことながら、凪も自らの不利に気が付いている。
だからと言って、今の段階ではどうすることもできない。
ここからのデート等のイベントで巻き返しを図ることはできても、今この時は俺の断固たる勝利なのだ。
こういう「不利の押し付け合い」こそが勝利への近道であり、俺の基本戦術。
「樹先輩、今日の放課後って空いてはりますぅ? どっか遊びに行きたいなぁ、二人っきりで」
「今日は予定もないし、夜まで空いてるよ」
「せやったら決まりやねぇ。ウチが迎えいくから、樹先輩は教室で待っててなぁ?」
凪は妖艶に笑って見せると、マーキングするように身体を擦り付け、去っていった。
教室の扉を開くと、クラス中の視線が一斉に集まってくる。
「横島くん、大丈夫だった!? 変なこととかされてない!?」
「もし何かあったら、私たちみんなが味方だからね!」
「そうだよ! 私も横島きゅん吸いたいいぃぃぃい!」
「は、はは……心配ないよ。ありがとう」
変なことをしたのは俺の方だとは言えないし、雑に相槌を打って済ませる。
自分の席に戻ると、いつもの四人がそそくさと集まってきた。
「いっくんおかえりー! 寂しかったよぉ〜」
九重が俺の足に絡みついてくる。
「あらあら、綾香さんのように気持ちを出せる方は素敵ですよね……ということで私も試しても良いですか?」
反対側の足に美桜が。
「いやいや……御厨さん、それは取り入れなくていい技だと思うよ。月ノ原さんもそう思わない?」
「私は………………少し羨ましいわね」
この前の食堂以降、ミラは少しだけ積極的になった。
俺だけが彼女に影響を及ぼすのではなく、友人との会話や対決を経て成長するのもまた、青春の醍醐味というやつだな。
「でも、足にまでいく勇気はまだないから……今日のところは、肩で我慢しておこうかしら」
「ええ、月ノ原さんまで……じゃ、じゃあ私は左肩もらうね!?」
という具合で、俺の四肢はそれぞれ違う体温で温められるのであった。
樹の初体験のシチュエーションはもう決めてるんですよね。当ててみたまえ
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