58.四角か丸か
「あ、あのっ! 横島くんいますか!」
週が明け、「今日の昼飯は普通盛りでいいかな」なんて考えていたところにお客さんがやってきた。
知らない女子だったが、リボンの色を見る限り同学年だ。
「僕が横島だけど……」
言いながら彼女の元へ歩いていく。
まだ昼休みが始まったばかりで、美桜やミラはポカンとした顔で俺たちを眺めていた。
「どうしたの?」
「と、突然ごめんね? 私、隣のクラスの佐藤幸子っていいますっ!」
佐藤幸子か、めちゃくちゃ平凡な名前だな。
その平凡を体現するかのように、彼女は黒髪で平均的な顔立ちをしている。
俺との会話に若干の緊張を見せているし、性格も落ち着いているのだろう。
ほとんどが想定の範囲内。
一つだけ分からないことがあるとすれば——
「も、もしよかったら、これから一緒にお昼ご飯とかどう……かな?」
この勇気はどこから出てきているのか。蛮勇とも言える。
「もちろん、ちょうど食堂に行こうと思ってたんだ」
つまみ食いには丁度いいか。食堂で飯を食って、その後に空き教室にでも侵入して……というプランだ。
「あ、あのレベルでも一緒にご飯行ってくれるなんて……私も誘うべきだった……!」
「いやいや、よく考えなよ。横島くんは優しいから断れないんだよ」
「確かに、横島くん優しいエピソードってもう百超えたんでしょ?」
クラスの女子たちがざわついているが、俺の日頃の行いの賜物か、悪い印象はまったくない。
あと、俺の優しいエピソードってなに?
「じゃあ行こうか」
教室を出る直前に、俺の彼女&彼女候補たちの様子を見ておく。
美桜とミラに関しては、多少の嫉妬もあるだろうが表面には出さず、余裕そうな顔をしている。
毎日ハンバーグを食っている人間が、たまにラーメンを啜っているのを眺めているような。自分が負けるわけがないという確固たる自信。吉崎も同じくで、余裕な顔で俺に手を振っている。
九重は……割と焦っているようだな。
ともすれば、最も関係が進んでいないのは九重とも言える。
ヒロインとしての強さなら最強格なのに戦績が振るわないという感じだ。
だが、まだ彼女との関係は進めない。俺の潜在意識に潜む九重ファンには悪いが、彼女はまだまだ輝く余地を残しているのだ。
(頑張ろうな、九重……!)
俺は心の中でエールを送りながら、一品足された食堂に向かうのだった。
・
「——骨のある戦いだったぜ」
教室に戻りながら、そんなことを考えていた。
男というだけで全てをブチ壊せるのは快感だし、思いのほか得られるものが多い戦いだった。
今後も、同じように声をかけてくる女子は多いだろう。
「手札は大いに越したことはないからなぁ……って、あれは……」
前の方を歩いているのは……凪じゃないか?
あまり大きい声を出すのは嫌だったため、音を立てないように彼女の背後へ駆け寄る。
「凪ちゃん、元気?」
声をかけると、凪は驚いた様子もなく振り返る。
「誰かと思たら、樹先輩やったんですねぇ? こんなとこで会うなんて、ほんま奇遇やわぁ」
口元に手を当ててクスクスと笑う凪。
その手慣れた仕草、これが京都流の雅というやつだろうか。
「こんなところで何してたの?」
「ウチも食堂行った帰りなんです。今日はお弁当作るん、忘れてしもてねぇ」
「へぇ、普段は自分でお弁当作ってるんだね」
「珍しい思われるかもしれへんけど、ウチ一人暮らしなんです。せやから、普段はだいたい自炊してるんですよぉ」
京都メスガキに元運動部という属性がつくだけでも大変なのに、家庭的まで追加されてしまった。大渋滞だよ。
こうやって会話をしていても思うが、やはり彼女は一筋縄ではいかないタイプに思える。
俺に媚びているように感じることが多いが、人に取り入るというステータスに長けているのだろう。腹の底では何を考えているか分からない。
だが、こちらに全く好意を抱いていないわけでもない。
あくまで恋愛の駆け引きを仕掛けてきているのだ。
どんな背景があって、男女比偏重世界で満たしにくそうな欲を手にしてしまったのか。
気になることは多々あるが、俺がやるべきことは決まっている。
実は少しずつ伏線の種を蒔いているのですが、ここまで読んでくださっている方たちは鋭い方ばかりで、秒で当てられそうで怖いです
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