56.まさかの組み合わせ
カフェでエネルギーを補充した俺たちは、そのまま上野公園へと向かった。
「おおー! 大きいねえ!」
吉崎が大きく伸びをした。今日の彼女はノースリーブのシャツを着ていて、シミ一つない腋が顕になる。
そんな夢のような場所を探索せんと試みる侵入者がいた。
——汗だ。
まだ夏には早いが、それでも直射日光がガンガンに当たる今日だ。汗をかかない人もいるだろうが、少なくとも吉崎は例外。
その、少しばかりの汗が腋という貴重なリスポーン地点を引き当て、つつ……と垂れ落ちてくる。
汗は汚いものじゃない。
いや、おっさんの汗は泥水かもしれないが、吉崎の身体から発せられるそれは、間違いなくレンズだ。
彼女の小麦色の肌の滑らかな質感、そして一般的に「恥ずかしい場所」とされる腋の存在感をこれでもかと強調する。
これをレンズと呼ばず、なんと呼ぶ?
やはり、俺は彼女の汗を、なんなら全身を舐め回さなければならない宿命にある。それはさておき——
「吉崎さんは来たことない?」
「ないわけじゃない……と思うけど、小さい時の事で忘れちゃったなぁ。広いってのと、動物園があるのは知ってるよ!」
「あとは……上野の森美術館に東京都美術館、国立西洋美術館に——」
「そ、そんなに美術館が密集してるんだ……」
彼女が驚くのも無理はないだろう。
ちなみに、国立西洋美術館の前には、かの有名なヘラクレスの像があるぞう。像だけに。
「他にも国立科学博物館とか……中でもすごいのが東京藝術大学だけどね」
「藝大! 聞いたことあるかも!」
美大生の東大とも言える存在が東京藝大だ。
とてつもない倍率を突破した猛者たちが集う場所。
かくいう俺も……ぜんぜん目指したとかそういうことはないが、尊敬の念を抱いている。
だって、美大生って変わった人間が多いっていうだろう?
その中に、未だ見ぬターゲットが潜んでいる可能性が高いじゃないか。
流石に高校生で忍び込むのはバレるだろうが、いつか潜入したいものだ。
「で、これから僕たちが行こうとしてるのは東京都美術館だね。丸いオブジェが置いてあるやつ」
「丸いオブジェ……?」
いまいち信用しきれていないというか、丸いオブジェがどんなものが想像ついていなさそうな吉崎。
実際に美術館に到着してみると、彼女は口を開けたまま頷いた。
「ま、丸いオブジェだね……」
この丸さはこの世界でも健在である。良かった。
鏡のように映る俺たちを横目に見ながら館内へ入り、展示会場へと進む。
今回の特別展は「弾け飛べ! 世界のエグい生き物!」だ。
一体なにが弾け飛ぶのか、そしてどうエグいのかは分からないが、面白そうだろう?
「横島くんって、こういうのにも興味あるんだね」
「こういうの?」
「うん。俗物的……っていうのかな? なんか、横島くんには手の届かない王子様みたいなイメージがあってさ。テレビとかも見てるイメージないし」
「はは、僕もテレビぐらい見るよ。お笑い番組とか好きだよ」
「そうなの!? な、なら今度一緒に見ようよ! 私もたまに見るんだよね」
「楽しみにしてる。でも、まずは展示を楽しまないとね」
そんな風に思っていたのだが……色々と違う意味で俺は理解させてられてしまうことになる。
まず、展示自体は良さそうだった。
危険を感じると爆発するナマコとか、実際に爆裂している映像とか、かなり動物園よりだが楽しめる。
しかし、エグみのある生き物を何種類か見た後、聞き覚えのある声が耳に入ったのだ。
「切った尻尾が四方八方に飛び散るトカゲがいるとは……世界はまだまだ興味深いじゃない」
「そうねぇ。時代が時代なら、武器に使われていたかもねぇ」
数は二人。どちらかの声を聞いたことがあるのではなく、どちらの声も聞いたことがある。
(う、嘘だろ……? こんな組み合わせがあるのか!?)
すぐに現実だと飲み込むことができない。
俺の予想が正しければ……片方の女性は破壊的なスタイルを持ち、エロゲーの女教師のようなセクシーの権化。
もう片方の女性は暴力的なスタイルを誇り、前世に存在していたら彼女を巡って保健室が戦場と化す癒しの化身。
「あ、あの……」
思わず声をかけてしまう。
すると、二人はこちらへ振り返り——
「樹くんじゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね」
「あ、あらあらぁ〜? どうして横島くんがぁ?」
俺の叔母であり、二つの爆弾をぶら下げている理子さんと、俺の通う学校の保健室の先生であり、同じく二つの爆弾を保持している園田先生だった。
この二人に挟まれたら頭も埋まりそうです
評価ポイントをいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!
作品作りにご協力いただけると幸いです!




