53.おさんぽの旅
何事もなく迎える事ができた土曜日、俺は吉崎を東京駅まで呼び出すと、二人で散歩の旅に出た。
この世界に転生してから、俺は歩くのが好きになった。
現実——という名の前世と違って仕事に追われることもなく、悩みがない分フラットな気持ちで世界を見る事ができるからだ。
明晰夢ではなく転生と理解してからはなおさら、将来の心配が皆無になったからな。
ただ、普通の女子を散歩に付き合わせるというのは、あたり褒められたものではないだろう。
美桜なんか喜んで着いてくるだろうが、きっと三キロも歩けば足が棒になってしまう。
その点、吉崎ならば心配はいらない。
自らを高めようとしない男が多いとはいえ、基本的に男女の肉体のポテンシャルは前世と同じにも関わらず、鍛えている俺よりも身体能力が高いのだから。
「どこまで行こうか。上野まで歩いてもいいし、ちょっと大人に高輪ゲートウェイまで行く?」
「うーん……どうし、んっ……よっ、かぁ……っ」
「神田に寄り道してカレーを食べるのもいいね。吉崎さんはカレー好き?」
「カレー……めちゃくちゃ……あっ、すき、だよ……」
俺と円滑なコミュニケーションが行えないのは、吉崎が悪いわけではない。
東京駅の丸の内口で待ち合わせをし、大手町までもう少しという具合だが、その間、俺がひたすら彼女の脚を撫で回しているからだった。
当然ながら、吉崎も最初は驚いた顔をしていた。
俺が流れるように、コンタクトデビューから三年後の朝のような澱みない手際で、彼女の至宝に吸い付いたわけだからな。
でも、すぐに受け入れてくれたし、言葉でツッコまれることはなかった。むしろ嬉しそうである。
言い訳をするつもりはないが、俺は彼女に服の指定をしていない。
前よりも少しばかりガーリーにまとめてきている吉崎が、それでも脚だけはモロで出してきているのだから、これはもうそう言うことだろう。
やっぱり吉崎が悪い。
「上野だったら公園もあるし、美術館に行ってもいいかもね」
「じゃ……上野に、しよっ、か……」
ということで、俺たちは秋葉原を経由するルートで上野まで行くことにした。
秋葉原の手前にはよく分からん小さい橋があり、これを渡ったあたりから明らかに空気感が変わってくる。
「ひょえ〜……秋葉原なんて初めてきたよ」
突如として生えてきた細長い、所狭しとひしめき合うビルを見て吉崎が漏らす。
「言い方は悪いけど、縁がなさそうな場所だもんね」
「まぁねぇ。多分だけど、私一人で見るお店もないだろうし」
なんて言いつつ、少しずつ秋葉原の本線に入り始める。
ちなみに、吉崎が流暢に会話できているのは、俺が脚を触っていないからだ。
決して、時代が時代なら秘宝として狙われることになるであろう脚の感触に慣れたわけではなく、横島樹の樹の部分が焦らしに焦らされて、限界を迎えかけていたからである。
初体験の相手として、吉崎はかなり高い位置をキープし続けているが、童貞を卒業するのは今日ではない。然るべきタイミングが来る。
意識を秋葉原に戻そう。
明日であれば歩行者天国だったのだが、土曜日の秋葉原は平常運転で、渋谷と同じく外国人の侵略を受けている。
「すごい人だねー。あ、そういえばメイドさんっているのかな? アキバといえばメイドさんだって、御厨さんが嬉しそうに言ってたし」
「多分、美桜が想像してるメイドさんは別物だろうけど……いるみたいだね」
視線の先、歩道の脇には——前世と変わらず——おびただしい数のコンカフェ嬢が並んでいた。
「わんわんっ! 私たちは犬だわんっ!」
「あ、そこのお姉さん! 男装カフェどうですかー?」
この世界、男装はめちゃくちゃモテそうだな。
「吉崎さんは男装ってどう思う?」
「カッコいいと思うよ、男の子みたいで。ただ……もう本物の男の子を知ってるから、どうしても劣っちゃうっていうか……」
それもそうか。歩いてみれば、普通のコンカフェ嬢はもとより、男装している子も女の目で俺を追いかけている。
「え、あれって本物の男の子じゃない?」
「嘘!? 秋葉原ってこんな夢のある場所なの!?」
嗚呼、男装カフェに連れて行けそうだった子達にも見つかってしまった。
俺がこの場に止まっていると、彼女たちの売り上げに悪影響がありそうだな。
「————あれ?」
その時、吉崎が何かを見つけたような声をあげた。
忘れないためにここに宣言しておきます。
この章で、彼女の汗を舐めるという念願を叶えましょう
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