48.「翌日」
翌日……というには情報力が多すぎる。
月ノ原の打ちひしがれた表情を見るという本懐を遂げた翌日でもあり、俺が明晰夢ではなく転生しているという衝撃の事実に気付いた翌日でもあるし、これからも大暴れしていく決意を固めた翌日でもあるし、彼女が二人できた事を吉崎と九重に知らしめた翌日でもあるし、今後の作戦を話し合った翌日でもある。
一日に詰め込めるだけ詰め込んでいる人生だ。
ただ、今回の「翌日」が何を意味するかというと——お分かりだろう。
食堂に到着して辺りを見回すが、やはり慣れない。
俺が高校に通っていた頃とは設備の質が違いすぎる。
逆に、俺という存在が都市伝説でなかった事に狂喜乱舞する女子や、全身を舐め回すような視線には慣れてしまった。
「ねぇ、どこの席がいいと思う?」
そう問いかけると、俺の横に立っている女子——月ノ原ミラは、長い銀髪をなびかせる。
「そうね……一番端の方の、あまり目立たない席がいいんじゃないかしら。横島くんに向けられる視線は私にさえ分かるし、落ち着いて食べれないんじゃない?」
「心配してくれてありがとう。そうしようか」
本音を言えば、端っこに座るとターゲット選別ができないし、俺に気が付かない女子も出てくるだろうから断るべきなのだが、月ノ原には知りようがないことだ。
それに、今日の昼は彼女のメンケアに費やすと元から決めていた。
俺たちは食券を買い、いつも通り他の生徒に比べて大盛りのそれを受け取ると、馬鹿でかい柱と柱に挟まれた僻地へ向かった。
席について確認する。ジャンバラヤを頼んだ俺に対し、月ノ原は豆腐ハンバーグ定食にしたようだ。
「月ノ原さんってスタイル良いけど、やっぱり食事にも気を付けてるの?」
「あんまり……してないわね。たまにランニングしてみるとか、間食をしないようにするとか、それくらいかしら」
彼女の美しさの秘訣は、彼女自身に流れている血という事だろう。ハーフって流石ですね。
「……御厨さんと、その……付き合ったのは、いつ頃のことなの?」
例に漏れず食リポをカットして端を進めていると、ふと、彼女がそんな質問をしてきた。
「月ノ原さんと付き合った日から数日前だよ」
「……そうなのね。私の……ためよね?」
罪悪感や嫉妬心がこもった目だ。
当然とも言えるが、彼女も察していたようである。
月ノ原にはもともと、山下だか山本だかという婚約者がいたのだが、あんな低俗な男に美女を渡せないということで、奪う事にしたのだ。
しかし、相手は腐っても男。
母親が議員らしく、ステゴロで相手をするのは面倒だと思い、美桜という最強の武器を用意するために付き合った。回想終わり。
「まぁ、そういう面もあるかもしれないね。もちろん、僕自身が美桜の事を好きだと思ったから付き合ったのは確かだよ」
「そんな事を言わなくても、私は横島くんの事を理解しているつもり。あなたが、興味がある相手に突っ込んでいくのは、身をもって体験しているし」
好感度がマイナスだったところから、アタックにアタックを重ねて交際に至ったわけだしな。
「それに、御厨さんには欠点なんてないじゃない? 横島くんが好きになるのも納得できるし、仮にまだ気持ちが無かったとしても、好きになるのは時間の問題だったはず」
家柄も申し分ないし、と彼女は付け足す。
「月ノ原さんが気にする事じゃない……っていうか、僕がやりたくて頼んだ事だからさ。僕は美桜とも一緒にいたいけど、月ノ原さんとも一緒にいたいし」
「そう言ってくれるのは……嬉しいけど」
月ノ原は俯いて考え込んでしまう。
はたから見たら、初めて豆腐ハンバーグを食べて感動している人だ。
彼女は真面目に捉えてしまう性分だし、良い感じにフォローする必要があるか——と思っていたら、彼女が弾き出した答えは予想外のものだった。
しっかりメンケアをする男はモテますね
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