44.心を入れ替えた男
これ以上の暴挙は、流石に目に余る。
クラスの女子たちを喰い漁る?
男というだけで俺に落ちない女子を嫉妬で狂わせたい?
笑わせる。それは夢の世界だからできる芸当だ。
ここが現実世界なのだとすれば、俺の末路は一つだけ。刺されて死んでしまう。
だから、俺は今日から心を入れ替える。
男しての運命を受け入れ、美桜と月ノ原の二人と生きていく。
これ以上は彼女も作らない。
それが、平和な人生を送る、たった一つの方法——
(——なんてのは、臆病者の考え方だ)
ここで退くなんて、そんなはずがない。
せっっっっっかく前の世界から解放されたんだぞ?
年々上がっていく保険料、働いても働いても自由に使える時間は減る一方で、未来なんてとっくに色を失っているのだ。
それに比べてどうだ、今の俺は。
何をするにも思いのままだし、将来働く必要だってない。
男は労働せずとも望むものが手に入る、根本からして違うのだ。
それに、俺には美桜がいる。
ヒモなんて生易しいものじゃない。
家でゴロゴロしていれば金が入るだなんてぬる過ぎる。
俺は、何をしていても金が増えていく状態なのだ。
都内の一軒家を買ったところで、海外旅行三昧だって、御厨の資産はそれを上回る勢いで増えていく。
もはや俺はヒモではなく——バンジーだ。
もう一つ言えば、俺が自らのことを神だと思い込んでいたのは仕方がない。
だって、全てが上手くいき過ぎているのだから。
前世でロクな恋愛経験のない俺ですら——明晰夢で数十周の人生を過ごしていても——無双できる初心者モード。
勘違いだってするだろう。
むしろ、早いこと間違いを指摘してくれなかった神サイドの落ち度だろう。
俺がこんな最高な世界に転生したのに偶然もクソもない。
明らかに何者かの介入が見えているのだから。
まぁ、ここまで何のコンタクトもないということは、神は俺をバグった世界にブチ込んで、ペラペラ捲る週刊連載の漫画程度の気持ちで眺めているのだろう。今後も関わる機会はなさそうだ。
ということで、俺はこれからも暴れまくってやる。
今さら引き返せないところまで来ているし、月ノ原はおそらく教室で激おこだし。
しかし、そんなことは些細な問題。
(……俺はアポロだ。アポロ十一号。だって、月を踏破したのだから)
もっと上を目指したっていい。
イツキ十七号は宇宙を踏破する。
御厨と月ノ原だけじゃない。
吉崎だって九重だって手中に収めてみせるし、保健室の園田も、そして叔母の理子さんも落とした上で、未だ見ぬ猛者女子を狂わせる。
俺は心を入れ替えた。
暴れる男から、大暴れする男へと。
そうなれば、今から俺がやることは一つ。
より狡猾な立ち回りである。
「……ねぇ美桜! 今日の放課後は! 二人で本屋さんに行くじゃん!?」
「はいっ! どこの書店にしましょうか! 樹さんの行きつけがあれば、ぜひ知りたいです!」
「僕の行きつけは! 東京駅の近くにある! 角善かなっ!」
「あそこなら私も行ったことがあります! 道のりはお任せくださいっ!」
文節で区切らなくて良かったが、それでも十分喧しい声量での会話。
もちろん俺がキャラを変えたわけではなく、理由がある。
「————って————ね?」
「——たぶん————」
廊下の後方、曲がり角から吉崎と九重が様子を伺っているのだ。
彼女たちは俺を独占されまいと、自分達にも付け入る隙はないかと狙っている。
であれば、俺を利用できるように利用させ、無理やりにでも彼女たちとのイベントを起こす。
あ、美桜の元気がいい理由はわからない。
たぶん俺に合わせているだけだ。
「……ふぅ、飲み物は何にしようか。美桜は紅茶かな?」
「どうして私の好みをご存知なのですか!? やはり樹さんは規格外の方です……!」
お嬢様なんて紅茶以外飲まないだろ。
これでイベントの種も撒けたわけだし、放課後まで時を飛ばそう。
……え? 月ノ原は放置でいいのかって?
そんな質問をした君はまだまだだね。放置がいいんだよ。
再び始まるぜぇ!変態の進撃がよォ!
他に書く作品もあって一章よりは一話ごとの分量が減りますが、紳士の皆さんは理解してくれると信じています。
評価ポイントをいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!
作品作りにご協力いただけると幸いです!




