貞操逆転世界の楽しみ方、ステージ2
こちらへ向けられる視線の数が急激に増える。
同接約四十人。初配信でこれなら未来は明るい。
くだらない事を考えながらも、黒板に名前を書くという転入生にしかできないムーブのために教卓向かって歩く。
足を進めるたびに自身の足音が耳に届き、夜の墓場にでもいるのかと錯覚しそうになる。
彼女たちは俺の一挙手一投足に注目しているのか、それとも目を開けたまま気を失っているのか。
宮木先生の元へ辿り着くと、俺の意図を察してくれた彼女によってチョークが差し出される。
しかし、その色が黄色であったり、手が連写コンくらい震えていたり、内心を読み取るのは容易だった。
振動で粉砕されそうなチョークを受け取ると、そのまま黒板の方へ向いて大きく名前を書く。
「――横島樹です。これまで女性と関わったことがないので変な子を言ってしまうかもしれませんが、仲良くしてくれると嬉しいです」
振り返り、名前を読み上げながら会心の笑顔。
自慢じゃないが、この世界の俺の容姿は良い。
身長は百七十とそこそこだし、顔は前世での芸能人と言っても通用する可愛い系。
きっと、俺の亡き母と人類の繁栄に力を注いだ父が、相当なハイスペックだったのだ。
ハイブリッドである俺が、毎日のように練習してきた笑顔をブチ込んだのだ。
クラスメイト達の目が、俺と黒板に書かれた名前を反復横跳びしていることからも効果を実感できる。
俺の顔と名前を絶対に忘れないように、彼女達の本能が肉体を動かしているのだ。
「な、なんなのこの、可愛さは……」
「男子ってみんな性格が悪くて、臆病で、外見も良くないって、Mntubeに……」
「それはアタシも、聞いたことある……」
親に餌を食べさせてもらおうと口をパクパクさせている雛鳥のような光景。
なんなら、口の動きと声が合っていない腹話術状態である。
大スターになった気分。
こういう美味しい思いができるのも明晰夢の醍醐味の一つなのだ。
今は漫才でいうところの笑い待ち。
向こうが俺を観察している間、俺もクラスメイトをチェックしてみる。
視線と視線のコミュニケーションだ。
まず、彼女達は全員が全員、前世でのクラス一番の美少女レベルの顔面を持っていた。
髪色や制服の着こなしは各々自由。
スカートの長さも十人十色。使い方は間違っているが一長一短だ。
この中で特に目につくのが……ポニテの運動部の彼女。彼女はチョロそうである。
次に、教室後方に座っている金髪ボブのギャル。
彼女はツッコミを入れていた子だろう。
俺と目が合うと頬を染めているし、既に芽が出ているな。
他にも育ちの良さそうな子や図書委員っぽい子など、夢の世界ならではの属性盛り盛りクラスとなっているが……ここで一人、周りと違う生徒に気が付く。
廊下側の席に座っている銀髪ロングの子。ハーフだろうか。
あの子だけは、こちらに一瞥もくれず、窓の外を退屈そうに眺めているのだ。
全身から「男に興味ないんですけど?」というオーラが立ち昇っている。
(……この子だ)
心の中の聖剣が輝きを放ちだす。
もちろん、ポニテの汗はいただく。
なんなら鍛えられた太ももに挟まれて圧死するつもりだ。
ここまで没入感のある明晰夢なんて、俺ほどの猛者であっても見ることは稀だ。
差し出されるものは喜んでいただく所存。
しかし、それだけで俺は満足なのか?
簡単なゲームばかりクリアしていてゲーマーを名乗れるか?
俺より強いやつに会いに行かず、格下の相手ばかり倒していて最強を名乗れるか?
答えは否である。
男女比がぶっ壊れ、男の価値がどれだけ高くなろうと簡単には靡かない強固な金庫を持つ女子達。
彼女達を落とし、そして俺に狂わせて余裕をなくした顔を愉しむ。
これも醍醐味の一つだろう。
『でもよぉ、それって元の世界でもできるんじゃねぇの?』
ここで、俺の脳内に住まう善か悪か分からない存在が疑問を投げかけてきた。
愚問が過ぎる。
確かに、男が多かろうが少なかろうが、落ちない女子は落ちない。
どんな世界でも変わらない事実である。
だが、通常の倫理観を持つ世界で女子を弄ぶのは難しい。
基本的に、一人の男が添い遂げるのは一人の女という「常識」があるからだ。
その考えが浸透しているならば、たとえハーフを落としたとしても「あの人は他の子を選んだ」と失望されて終わり。
この世界はどうだろうか? 重婚という制度がある。
貴重な男が多くの女に行き渡る方が、生物としての寿命が伸びる。
男は「浮気」をするのが当たり前という認識。
つまり、俺がハーフを落とした後に他の子に手を出しても「自分のアプローチ不足」だったり「嫉妬」を強く抱かせることができるのだ。
これが貞操逆転世界の楽しみ方、ステージ2。
ハーフの彼女は、俺がそんな事を考えているなんて微塵にも思わないだろう。
ただ澄ました顔で「男から話しかけてくる事なんてないし、無関心を貫くだけでいい」と考えいるはず。
その予想を打ち砕き、頭から俺のことが離れなくなった顔を見るのが楽しみだ。
(……そろそろ展開が進む頃かな)
思考をやめて、目の前の光景に意識を戻す。
「――――」
だが、いまだにクラスメイト達は茫然自失の状態にあった。
笑い待ち長くない?
みんなは誰が好き?俺はポニテ!
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作品作りにご協力いただけると幸いです!




