17.うっっっっっっっっそだろお前!!!!!
九重以外が俺に何かしてくるとは思わなかった。
俺の腕を引いたのは彼女ではなく、別の美少女。
歳は俺と同じか、一つ二つくらい下だろうか。
ピンク色の長い髪をツインテールにしている。少しだけ吊り上がった目、薄くてピンク色の唇。
どこからどう見てもメスガキである。
(このタイミングで新ヒロイン投入とは、今回の夢はサービス精神の塊だな)
まだまだ起きたいと思わせないぞという気概を感じる。
しかし、夢の神――俺かもしれないが――に一つ言っておきたい。
メスガキに変な味付けはいらない。
テンプレートでいい。気を衒わなくていい。
まだ世界はそこまで成熟していない。
記念すべき第一声は、俺を小馬鹿にしていないといけない。もちろん可愛い声で。
そこのところ、夢の神は理解しているのか?
さぁメスガキが口を開こうとしているぞ。
ゾーンに入ったスポーツ選手のように、俺はスローモーションで分析しつつ、彼女の言葉を一音たりとも取り逃がさないように集中する。
「――おにーさん、男の人がひとりでうろちょろしてはったら、危ないんと違いますー?」
「………………う」
「う……?」
うっっっっっっっっっっっっそだろお前!
メスガキ関西弁!? いや、どちらかというと京都弁か!?
いやまて、俺の意識を元に世界を作っているのならエセか!
ならエセ京都弁というか!? なんちゃって関西弁!?
どうなんだこれは! さすがにイロモノにし過ぎじゃないか!?
メスガキは煽るのが仕事だと、どっかの宗教の聖典にも書いてあった気がする。
それなのに、方言だなんて余計な色をつけやがって――待てよ?
俺は京都人に悪い感情は一切持っていないが、あくまで一般……0.3般論では京都人には煽りの要素が入っている。
皮肉の使い方が上手いらしい。
で、あるならば。むしろメスガキとのシナジーは大きいのではないか?
「聞いてはりますー? 大丈夫ですよぉ、うちはぜーんぜん怖ないですからぁ。安心してな?」
私ではなく「うち」なのか、タメ口なのか敬語なのか、疑問が生まれては俺の全身を駆け巡っている。
だが、これだけは理解した。
――京都メスガキ、アリです!!!!!
アリじゃない。大アリだ。
地球を守る軍が出動するぐらいデカいアリだ。
新時代の幕開け。俺はあたらしい世界に行くよ、母さん。
「ごめんね。友達がレジに並んである間にシールを見てみたくて」
「ははーん、シール帳の話を聞きはったんですね? ラフトは品揃えええけど、そのぶん倍率も高いからなぁ」
耳元で囁かれたら脳が溶けるであろうアニメ声。
メスガキ純度が高すぎる。
「そうなんだ……そろそろ友達が戻ってくるだろうし、今日は諦めるよ」
そう言うと彼女はくすっと、こちらを小馬鹿にしたかのように笑う。
「そんなおにーさんに、これプレゼントしたげます」
身長は百四十程しかないであろう、彼女の手もまた小さかった。
そして、その手が差し出してくれたのは一枚のシート。
「これが、もしかして……」
「シールですよぉ。ここで買うたんやないけど、けっこうレアなやつやから、大事にしてくださいねー」
「そんな貴重なもの、ただで貰えないよ。何かお返しできないかな?」
「お返しなんてええですよぉ。今日がうちとおにーさんの出会いやってことで、忘れんといてくれはったら、それで」
彼女は名前すら告げずに片手をヒラヒラさせ、「ほな、またねぇ」と去っていった。
「――あ! いっくんいた!」
メスガキが見えなくなった頃、いれ違うようにして九重が戻って来た。
腕にはノートの入っているであろう袋をかけている。
「ごめん、今戻ろうと思ってたんだ」
「もう……アタシ心配したんだからね? なに、シール気になっちゃったってこと?」
頷くと、彼女は「可愛いんだから」と何故か上機嫌になる。
「でも、この様子じゃ別のところにしたほうがいいよね……っていっくん、何持ってるの?」
「これは……さっき女の子がくれたんだ。お返しをしたかったんだけど、そのままどっか行っちゃった」
「ふぅん……って、これイカブーのシールじゃん!」
九重に言われて俺もシールを見てみると、そこには可愛らしくデフォルメされたイカのキャラクターがいた。
なかなか憎めない顔をしていて、人気があるのも納得できる。
「でも……今度からはアタシに一言言ってよね?」
「そうするよ。まだMINEを見る習慣がつかなくて……」
夢の世界とはいえ長い時間を過ごしてきた。
仕事の連絡を確認するという癖はもちろんあったが、抜けてしまったようだ。
……これ、起きたとき大丈夫だよな?
それは起きた時に気にすれば良いか。
「なら、アタシがこれから、たーっくさんメッセージ送るから! ちゃんと返してね?」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「もちろん! 次はさ、上の階に行ってみない? パーティゲームとか面白いのあるんだよね」
彼女に従って、一番上の階から順に降りていくことにした。
九重は可愛いし、新しい癖の扉を開いたことだし、デートは極めて順調である。
ただ、メスガキの話をした時に一瞬だけ、九重の目から光が消えたように見えたんだが、あれは勘違いだろうか。
アリです。異論は認めません。
果たして再登場するまで続くのか。
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