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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第33話 腕の中で

 広場に出ると、フィーネを満天の星空が出迎えてくれた。風が強いからか、星々がよく瞬いている。一番よく見える位置に行って、直接地面に腰かけた。ひんやりと地面が冷たい。

フィーネたちが倒したイントレアはあの無数にある星屑の一つに過ぎない。それなのにど被害を加える力を持っているということは、いかに人類が無力であるかを示している。そして、マエストロを襲った人間。彼らが何者なのか、結局オオガミが話すことはなかった。今後もマエストロは依頼をこなし続けるだろうが、似たような目に合わないとも限らない。


「……。」


 ただ、やり切った。私たちは生き延びて、今日、ご飯を食べて、お酒を飲んでいる。フィーネはそう思った。


「あ、やっぱりここにいると思った~」


 遠くから聞きなれた声がして振り向くと、カノンがいる。


「うん、少し顔が熱くなっちゃって」

「飲み過ぎたんじゃないの?」


 そうかもしれないと素直に思った。


「カノンこそ」


 そういうとカノンは赤い髪を風に揺らしながらそうかも、と笑いながら答えた。カノンはどんなときにでも笑う。それが苦しいときであっても、嬉しいときであっても。今はとても楽しそうだなとフィーネは思った。


「でもよかったよ。今回もまた全員で帰ってこれてさ」

「そうだね……。私正直、一人ぐらい欠けちゃうかもって思ってた」


 フィーネがこれを思っていたというのは本当だ。イントレアに追い詰められた時ではない。オオガミがけしかけてきた奴らのことだ。完全に敵の術中にはまり包囲された時、フィーネは誰かの死を覚悟した。現実、カノンは自身を盾にしてほかの三人を助けようとした。


「もうあんなことしちゃだめだから」


 少し怒った風に言う。普段こんなことは思ってても言わない。


「ごめんごめん。気を付けるよ」


 ドルチェの頭の上のほうからそう声がして、直後、右耳のあたりに吐息がかかった。カノンが地面に座っているドルチェの後ろから抱き着いたのだ。カノンの心臓の音が背中を通じて伝わる。暖かいなと思った。


「えへへ。わ~い」

「酔っぱらってるでしょ」

「うん~。でも仕方ないよ~。たくさん飲みたかったんだも~ん」


 まあ、そうだな。今日は飲みたいよなと思った。帰ってきて、依頼主までを殺して。カノンはオオガミを撃ってからしばらくの間、無言だった。フィーネは依頼の交渉のことを一切しらないからオオガミとは面識がなかったからまだしも、そこそこに付き合いがあるカノンは何かしら思うところがあったのかもしれない。

 それを横に置いたとしても、この間のマエストロにはいろいろなことが起こり過ぎた。ただ一つ言えることは、今日ああやって酒を酌み交わせたのが奇跡のようなものだということだ。


「……私も飲みすぎちゃったかも」


 似たようなことはドルチェも、コルトも、そしてフィーネも考えていただろう。だからこそあれだけ飲んだし、酔いつぶれたのだ。


「えへへ~」


 カノンがあまり言葉になっていない声を発しながらフィーネに甘えてくる。ショートカットの髪先が首筋にあたってくすぐったい。少し自分も甘えたいと思ったのはおそらく酒が悪いだろうとフィーネは思った。

 でも今日くらいは許されるのではないか。そう思って、フィーネはカノンのほうを向いて抱きなおした。少しだけカノンが驚いたような表情をし、その後すぐに抱き着き返してくる。

 風が強く吹いた。少し寒いなと思ったけど、カノンと触れているところは寒くなかった。


「ありがとう、フィーネ」


 ふとカノンが呟いた。


「どうしたのよ、急に」

「あの時、私の名前を呼んでくれて。私、フィーネが名前を呼んでくれなかったら、あのまま突っ込んで死んでたと思う」


 フィーネが叫んだのは、ほとんど直感だった。あれをしなければいけないと咄嗟に思っただけだが……結果としてそれは、カノンが正気を取り戻すきっかけになったらしい。


「そうなの?」

「えへへ。こんなこと、酔っぱらってでもいないと恥ずかしくていえないからね」


 カノンの顔をフィーネが見ると少しだけ赤らんでいた。多分酒のみが原因ではない。


「……そうかもね。私もカノンが居なかったら今頃死んでたよ。ふふ」


 フィーネそういいつつ、まだお酒が足りないなと感じた。やはり自分はカノンのようにはなれない。素直にはなれないなと考えた。なんとなくこの程度を言うにとどめることしかできない。


「そう?えへへ~ありがと」


 照れたように笑ったカノンが抱きしめる腕を強めてくる。こんなこと、コルトやドルチェに見られたらどんな顔をされるか分からない。何しろカノンとフィーネは正面を向き合って抱き着いているのである。幸い二人は酔いつぶれて寝ているし、万が一起きていたとしてもこの場所に来たことはない。要するに人目を気にする必要がないのである。


「ねえ~」


 フィーネはあまり、物事を言葉にすることが苦手だ。

 なら、行動にして表すよりほかはない。


「……。」


 フィーネが抱き着いた。カノンの髪の匂いがした。甘くていい匂いだなと思った。


「どうせ死ぬなら、楽しくやろうよ!」


 カノンと初めて出会ったとき、彼女がそう言っていたことをフィーネは思い出した。

あの時は何を言っているのかよく分からなかったけど、今なら少しだけわかる気がした。

 今、私はカノンと一緒にいたい、触れ合っていたい。

 フィーネはぐいとカノンを草むらの上に押し倒した。少しカノンは目を見開いた後、笑顔になってこういった。


「いいよ。はやくおいで?」


 無数のイントレアが瞬く夜空の下、カノンとフィーネはこうして生を実感する。

マエストロたちが今後どのような道を歩むかは、彼女たちも知るところではない。

考える理由もない。

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