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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
38/38

幕間

―以上が報告になります。


そうですか、ありがとうございます。オオガミの件は理解できました。しかし…この報告書の通りですと、彼女たちは本当に窮地を切り抜けましたね。


―ええ…本当に。


 九死に一生を得るどころの騒ぎではありません。限りなく低い可能性のように見えます。しかし彼女たちのことです。きっと計算ずくだったんでしょうね…。本当に申し訳ないことをしました。報酬は既に渡してあるのですよね?


―はい。おっしゃっていたように、量を増やしてマエストロのリーダーに渡してあります。


 それは良かったです。しばらくの間は…あとひと月は彼女たちに依頼を出すのはやめておきましょう。彼女たちにも休みが必要です。今回のことは大分迷惑を掛けました。ちゃんと伝えたのですか?


―それもしっかりと。オオガミのことも謝っておきました。彼につらい立場を背負わせてしまった、と。


 それは良かったです。


―しかし、あのようなことをオオガミにさせる者がいるとは……誰か心当たりはあるのですか?


 ええ。一応は。依頼を出したのは私たちですから。日頃から私たちのことを気に食わないと思っている方々は、アイリスには多いですからね。エステートの人々がこれをやるなんて考えられませんし、第一オオガミを動かすことはできません。彼は妻子をとっくの昔に亡くしています。弱みを握られるような要素をプライベートでは持ち合わせていませんでしたから。……唯一の弱みが、自分が納める管理区のエステートだったんでしょうね。そこだけが弱点でした。彼は彼なりに考えて、マエストロを切り捨てるという選択をした……。結果論ですが、彼は死にました。マエストロを見誤っていたんですね。

 しかし、これから忙しくなりますよ。私たちは小さな勢力です。イントレアは日に日に勢力を伸ばすばかりですし、アイリスの中だってきな臭い。おまけに今回の騒動で、エステートのアイリスに対する嫌悪感は高まるばかり。ただでさえアイリスはエステートにろくな目にあわされていないのに、この始末ではどうにもなりませんよ。


―すると、マエストロも巻き込まれることになるでしょうね。


 ええ。何とかしなければなりません。まあ、こうなることは我々の責任でもあります。彼女たちが求めているとはいえ、報酬を盾に危険な仕事を任せすぎたかもしれません。彼女たちの成功率の高さに我々が甘えていたということもあります。それにしても上層部の連中は何をやっているのですか。彼らには何度もエステートを殲滅しようとする過激派の抑制を進言しているというのに。まあ彼らの一部がアイリスの重要な技術を握っていることを考えていると仕方のない部分もありますが……。

 しかし、私も何も考えていないわけではありません。こちらはもともと駒が少ないのです。なければつぎ足すしかないでしょう。幸い、もうすぐこちらに利害の一致しそうな勢力が来ます。


―ジレイニア……ですか。噂には聞いていましたが、実在するとは……。


 はい。マエストロと同じ、ヴァリアントのみで構成された集団。イントレアが放つ毒気であるイントキシンを物ともせず、同族の救済を目的に活動を続ける組織です。彼らはアイリスとエステートの融和を模索する我々とある程度利害が一致するはずです。アイリスはヴァリアントを強烈に迫害しますからね。正門から入ってもまともに取り合ってはくれないでしょう。


―そこで我々の出番というわけですか。


 そうです。アイリスの内部にも、エステートともコネクションを持つ私たちだからこそできることです。アイリスの中では少数派で動かせるものが少ないというのが私たちの弱みですが……。だからこそできることもあるはずです。ジレイニアのことは当然、他言無用としてください。


―わかりました。しかし、貴方がここまでマエストロに肩入れする理由が分かりません。


 そうですね……。

 まあ、私も彼女たちとは切っても切れない関係にあるんですよ。依頼を出す、受ける以外の感情を私が抱いていることは否定できないですね。あのヴァリアントたち……とにかく、今は楽しく暮らして欲しいものです。

 とにかく、今はジレイニアの到着を待ちましょう。

 これから忙しくなりますよ。やれやれ。本当であれば、こんなことしないでゆっくり紅茶を飲んで、趣味の楽器をやりたいんですけどね……。最近、バイオリンも弾けていませんよ。まったく。



【総評】


 盗聴内容の分析より、「マエストロ」と呼ばれるエステートのチームがアイリスの内部よる支援を受けていることが発覚しました。しかし、今回の盗聴対象はアイリスの一市民であり権利を保障されているため、監禁、殺害等の行為に及ぶことは我々の内部からも反発があると予想されます。

 また、今回「マエストロ」を襲撃させた「HEIMDAL」部隊は、当初優位を取ったもののその後の反撃で全滅しております。戦闘があったと思われている場所からはそのうち20名ほどの遺体が発見されました。また、一名の遺体には拷問を受けたと思われる痕跡が発見されました。部隊メンバーに我々の存在や目的等は今回の作戦で伝達していないため、重要情報が漏れる危険はないと考えます。今回の襲撃に使用した部隊は熟達しているということのできる部隊でしたが、「マエストロ」のたった5人のヴァリアントに対しては有効でないことが判明しました。

 この課題についてはこれまでアイリス執行部で凍結されていた計画である、ヴァリアントのみで構成された秘密特殊部隊「RELIEF」の結成を進めることで「マエストロ」並びにエステートのヴァリアント勢力に対抗することができると考えられます。しかしこれについては組織内部から一定の反対が予想されます。人類の異端たるヴァリアントをアイリスで組織化することはそれ自体がリスクであると考えられますが、「HEMDAL」部隊が通用しないことが判明した現在、「マエストロ」に対して有効打を与えるためには「RELIEF」の結成以外にないように考えられます。

 「マエストロ」は成人もしていない10代の少女の集まりですが、ヴァリアントの能力という非人類的な能力を所有しているため、練度の高い訓練を受けた30名の部隊を上回る戦力を有しております。アイリスに所属するすべての民はこの危険性を理解し、ヴァリアントを即座に排除するべきです。

 現状、アイリス内部にも一つのコロニーに対して数百名のヴァリアントが現存していると思われております。彼らの存在はアイリスの発展と文明の承継にとって害でしかありませんが、「マエストロ」のようなヴァリアント集団と同士討ちをさせることができればその数を減らすことができます。どうか「RELIEF」設立に関しては聡明なる判断をお願いいたします。


 以上で報告を終わります。


 文明の継承者たるアイリスに栄光あれ。



※本報告書は「マエストロ」に関する調査報告の監査メンバーのみの閲覧を許可し、それ以外の者に対する一切の情報の漏洩を許可しないものとする。



―『小組織「マエストロ」に関する調査報告書』pp.102-112より抜粋

※これにて第一部巻分完結です。第二巻分の連載は4月1日を予定しています。

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