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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第28話 襲撃

 帰ってきたドルチェが三人に話した報告は、至極シンプルなものだった。


「オオガミさんの部屋に入ってきたよ。みつけたのは、紙が一枚だけ。マエストロを殺す命令書が、金庫の中に入った書類から出てきた。カノンちゃんが男の人に吐かせた内容と特に矛盾してなかったよ。私たちを殺そうとしたのは、オオガミさんみたい」


 証拠は置いてきたけどね。盗んできたらバレちゃうから。そうドルチェが付け加えた。日頃から信頼してきた得意先だけに念のためにと

 しばしの沈黙の後、カノンが口を開いた。


「わかった。みんな聞いた?マエストロはこれから、独自の作戦を立てる。作戦内容は、マエストロの殺害を目論んだ標的の速やかな暗殺。これに反対の人は?」


 カノンが意見を求めた。といっても、これがあくまで儀式的なものであることはメンバーの全員が分かっている。自分たちを殺そうとした敵をなにもせずに放っておくことほどロクなことはない。


「……!」


 カノン、コルト、フィーネ、ドルチェ、全員がそれぞれの顔を見た。こういう時は、下手に言葉にするよりも目配せをしたほうが良い。リードを取るために普段のおちゃらけた態度を消したカノン、いつも通り真面目だが目に力が伴っているフィーネ、不敵に笑うコルト、そして、おどおどしながらも目はしっかりとまっすぐ前を見つめているドルチェ。それぞれが、それぞれの決意をすでに固めていた。


 フィーネは流れ弾に当たったカノンの脇腹を少しだけ見た。Tシャツ越しでわからないが、この前着替えを見かけたときに脇腹に茶色い跡が少しだけ残っているのを見た。これはオオガミがカノンに当てたようなものだ。チームメイトを殺そうとする人間に、何もしないわけにはいかない。


「おっけ~。全員、問題ないね。よし、じゃあ作戦の準備と実行に移るよ。これから忙しくなるし報酬はもらえないけど、みんな頑張ってね!」


 カノンがそう締め、各々が食事の片づけに入った。その後の準備は一週間ほどで済んだ。

こうした作戦の決行は相手にとっては常に突然で、こちらにとっては常に予定された行動ということになる。つまり特別な事情がなければ、攻める側が好きなタイミングで攻めてよいということだ。今回の場合は、守りが薄いと思われ、なおかつオオガミが建物に来る朝か夕方が望ましいという話になった。話し合いの結果、夕方よりも起床してから時間が経っていない朝のほうが、相手のパフォーマンスが落ちるだろうという結論に至り、決行は早朝、オオガミが建物に入った直後を狙うということになった。


 管理区との往復であれば大した時間はかからない。そして相手は化け物ではなく、人間である。知恵がある分だけ面倒だが、装備は軽いもので済む。


「ドルチェ、どう?」

「えっと……ちょっと待ってね」


 民間人を巻き込むわけにはいかない。もちろん、巻き込んでしまうと気まずいという思いもあるが、それ以上に遺族に感情的に恨まれるというデメリットを抱えることになる。関係のない人間を巻き込むリスクを抱えてまで、派手に戦闘はできない。


「うん。大丈夫。周りに関係ない人はいないみたいだね。いけそうだよ、カノンちゃん」


 コルトが光彩にリングをまといながら言った。今マエストロたちがいるのは、オオガミの執務室がある建物の前方150メートルの地点である。

 本来はここまで近づかなくてもドルチェの遠視能力があれば偵察はできるのだが、あいにく襲撃に適しており、なおかつ建物に視線が通る場所はここしかなかった。


「じゃあ、相手の兵は?」

「ううん……それもいないみたい。中の建物にも多くて数人しかいないんじゃないかな。それも全く無警戒だね」


 襲撃に対してオオガミが守りを固めているというカノンたちの予測は、当てが外れたようだった。

ドルチェが偵察に行った日、帰りがけにドルチェはオオガミの執務室のドアのカギをピッキングで締め戻そうとしたのだが、結局上手くいかなかったのである。机と金庫のカギまでは何とか戻せたのだがすべてを完璧にすることはできず、何者かが侵入したことがオオガミに割れている可能性が十分すぎるほどあった。

 しかし、最大限の警戒をしてオオガミに対して挑んだ彼女たちを出迎えたのは、予想以上に見慣れた風景の管理区だった。ヴァリアントがライフルを持って、しかも光彩を輝かせて歩いているとさすがに注目されるからフードを被って目立たないようにしてきたが、それも全く意味がなかったらしい。


「……周囲の気配は?」


 カノンがドルチェに聞いた。キングが丸裸でも、少し離れてたくさんの駒が守っていると考えることもできる。


「ううん。何もない。こっちを見ている人も誰もいないよ。いつも通り」

「ここまで何もないとかえって不安になるね」


 襲撃部隊がマエストロの掃討に失敗したという話は、オオガミには届いているはずだ。


「まさか自分が依頼したってことがバレたって、知らないんじゃないの?」


 ドルチェが楽観的な感想を言う。


「それはさすがに伝わってるんじゃないかな……。人一人尋問した挙句殺したんだから。死体を隠す時間もなかったし、どうせ体内に発信機とか入ってるからすぐに見つかるでしょ」


 正論である。襲撃部隊はアイリスが関わっているということは尋問した結果、分かったことである。あの極限状態にあった一兵卒が土壇場で嘘を吐く知恵が回るとはとても思えない。


「確かに……。でも、私たちだったら殺しに来るって分かってるでしょ?」


 ドルチェの考えは至極最もである。オオガミはマエストロの誕生時から関わっている、顧客の中でも最古参だ。信頼に基づいてカノンがある程度、マエストロの振る舞いを話していることもある。大体カノンに自分を殺そうとする者は容赦なく殺せと指導したのはオオガミ自身だ。


「何を考えてるんだろうほんとに……。オオガミの部屋につくまで警戒は怠らずにね。みんなも銃の安全装置は解除しておいて」


 カノンの支持に三人が了解、とつぶやいた。いずれにせよ、不可解なことが多すぎる。オオガミに無事に合えれば聞けることを期待するしかない。

 通路の真ん中で子供たちがボール遊びをしている。いつ飛んでくるかもしれない銃弾に警戒し続けている自分たちとはやたら違っていて滑稽だなとカノンは思った。

 不思議なことに、オオガミの部屋がある建物に入ったあとも襲撃は愚か、鉄パイプを持った暴漢一人すら出てこなかった。びっくりするくらい今日の管理区は平和なのである。おそらく一番の不穏分子はアサルトライフルなんかを白昼堂々と持ち歩いて、しかも安全装置を解除してすぐに撃てる状態にしてあるマエストロたち自身だろう。


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