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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第24話 食事を求めて

「さて、すっかりお腹が減ってきちゃったよ。これじゃ、やってられないでしょ」


 コルトが立ち上がった。


「じゃ、この辺りを探してみよっか。ドルチェの料理はさすがに贅沢だけどさ。さすがに、缶詰の一つくらいは食べてもいいじゃん?」


 すぐにカノンが返した。完全食の食べかけを鞄にしまい込み、マエストロが出発する。これまでねぐらにしていた廃墟を出て、道なりに進んだ。

 廃墟の周りはその昔、街であったらしい。少し離れたところに中心街の跡地があったらしく、何層にも分かれた高層ビルの跡が建っている。

来た頃には気付かなかったが、予想以上に街全体が広いことに気が付いた。単純に追手が来れなさそうというだけでほとんど直感的に入ったのだが、これはこれで悪くないのだろう。


「空が狭いねぇ~。これじゃあ管理区にいるときみたいだ」


 コルトが呟いた。まあ管理区は重層構造になっているため空はないのだが。数階建てのコンクリート構造物が道なりに続いているそれは、圧迫感があり気持ちの良いものではない。


「こう灰色だとね~。滅入っちゃうよね~」


 あはは、とカノンが笑いながら続けた。口調に反してとても楽しそうなその口ぶりに、メンバーの全員が安堵する。

 曇り空でも、周りがコンクリートだらけで味気なくても、今は快適だ。そしてこういうところには旧文明が残した保存食糧庫があったりする。末期になると食糧不足が深刻化したため、各々が自分が食べる分の食糧を保存しておいた時期があったらしい。無論イントレアの侵攻によってその備蓄も無意味なものとなってしまったが……。今日のマエストロのような、後世の迷い人にとっては、見つければ良い財産となる。


 適当に目途をつけて入った建物のキッチンの床下なんかが狙いどころだ。しかし、扉は分厚い鉄製であることが多い。よほどの怪力でもなければ扉を開けることはできず、食糧が喰いつくされない原因となっている。


 しかし、彼女たちはヴァリアントである。特にフィーネやカノンの力があれば鉄扉など簡単に開けることができてしまう。ただそれを以てしても、食糧庫の中にものがある確率は低い。既に持ち去られてしまった後だったり、そもそも存在していなかったりするからである。


 4人は廃墟を巡りながら、廃墟のキッチンの床下扉を開け続けた。運が良ければ、1時間程度で食糧がまだ残っている倉庫に出会うことができる。


「まさか私たちがこんなことをやるとはね」

「ね~。でもこういうのも意外と楽しいね!」


 倉庫の扉を持ちあげながらカノンがそう話すと、ドルチェがすぐに同意した。ほとんど、宝探しである。旧文明の倉庫に保管されているものは完全栄養食のような人間の感情を完全に無視した代物ではなく、フルーツや豆の缶詰、渇かしたパンのようなものがほとんどだ。どうやら昔の人々は今よりはましな食生活をしていたらしい。


「ここもなし、と」


 確認を済ませたカノンが蓋を閉じる。

旧文明が滅びた過程で何が起こったのかは今一つはっきりしないが、どうやら備蓄食料を食べつくす前には無くなってしまったらしい。アイリスの歴史学者はこの過程を究明することに熱心らしい。ただし、それ以上にアイリスの注目を集めているのが保存食だ。数層の金属に密閉されただけのフルーツの蜂蜜漬けが、なぜ建物が荒廃するほど時間が経過しているにも関わらず未だに食べることができるのだろうか。


「じゃ、次だね」


 コルトがカノンを待つ三人を代表して返事を返す。そのまま四人は建物を出て、次の建物へと向かった。

 建物から、建物へ。もともとは街だったのだろう。ものすごい量の建物があるが、これを一つ一つ歩きながら探していくことは楽しみでもある。どうせ時間はいくらでも余っているのだ。

 天井の鉄筋がむき出しになって、鉄製の骨からどこからか水滴がぴちょん、ぴちょんと垂れている。曇り空とコンクリートジャングルは決して眺めが良いとはいえないが、その場が四人だけで他に誰もいないのなら話は別だ。


 こうして数時間は時が過ぎていった。諦めるのは自由だが、ここで探すのをやめると帰路の食事が全てあの固形物に変わる。そして帰ってもコンクリートの床の上でゴロゴロして話をするくらいしかやることがない。少し前まで重火器で打ちあっていたはずの彼女たちののんきな風景を見ていると疑問を抱いてしまうようになるが、本人たちはとっくの昔に慣れてしまった。

 そしていつしか食糧探しがただの作業になり、目的がおしゃべりに変わりつつあった頃、その時は訪れた。


「ねえねえ!この倉庫、まだ残ってるみたい!」


 ある廃墟の地下倉庫を漁っていたカノンが声を上げる。近くにいたコルトが寄ってきた。


「え?本当⁉あったの⁉」


 コルトが目を見開く。正直、見つからずにねぐらに戻ることをとっくの昔に覚悟していた。


「ほら見て、これ!まだ食べれるよ!」


 カノンがコルトに倉庫から取り出した缶詰を見せる。つられて見に来たフィーネも目を丸くしている。見たことのない言語で書かれている缶詰で、絵も描かれていないから中に何が入っているのか全く分からない。ひょっとすると、今まで食べたことのないものが入っているかもしれない。


「すごいじゃん!ドルチェも呼んで来ようよ!」


 コルトがそういった。倉庫はコンクリートの巨大ながれきで入り口がふさがれていた。それをカノンが力技で取り除いたのである。これが長い間食糧が誰にも見つからなかった理由だろう。


「ドルチェ~?いる~?」


 コルトが大声でドルチェを呼んだが、なぜか来なかった。代わりにコルトに負けないほどの声で3人を呼ぶ。


「みんな!来て来て!こっち、なんだかすごいことになってるよ!」


 別の部屋を一人で歩いていたドルチェが声を上げる。3人がつられて歩いていくと、そこに路がっているのは大きな浴槽だった。普段秘密基地でマエストロが使っている浴槽の何倍も広い。


「お湯が……誰も沸かしているわけでもないのに、どうして暖かいんだろう?」


 フィーネが浴槽に貼られているお湯に触れながらそう言った。お湯はどこからか浴槽に轢かれており、常時湯を流し続けているようだ。


「昔は、こうやってお風呂に入っていたんだね……」


 誰が沸かすでもなく勝手にお湯が出てくるなんて、どうなっているのかよく分からないというのが本音だった。しかも、それがかなりの時を経て機能していることも驚くばかりだ。とはいえ、恐怖感がないわけではない。カノンがおっかなびっくり指の先端を湯船に触れてみると、ちょうどよい水温がした。


 どうやら、当たりを引いたらしい。


 その後数時間歩いてメンバーは寝床にしている拠点に戻り、すぐに風呂場がある廃墟に移動するこ

とにした。もちろん、風呂に入るためだ。


 その後のやり取りについては、わざわざ記すまでもないだろう。

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