表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
22/38

第19話 殴打

 起こすために殴った時よりも鈍い音がする。


「ちょっとカノン。あんまり強く殴ると死んじゃうよ」


横にいたコルトがそれを見て止めに入った。


「コルトは黙ってて」


 顔も見ずに無視すると、そのまま複数回殴打する。情報を聞き出すための尋問から恨みを晴らすための暴行に変わったことが、男の心理状態にどのような影響を与えたのかは知りたくもないことである。


「見てこれ。こんな傷を負うなんて滅多にないんだよ。跡が残ったらどうしてくれるのかな?聞いてるの?ねえ。わかってる?」


 声を荒げながらカノンが何度も男を素手で殴打する。外光が薄暗いから、カノンの光彩が男にはよく映った。何度も殴打され、赤い光が左右にぐらぐらと揺れる。

 男は、殴られながら苦痛と恐怖に顔をゆがめていた。見た目こそ10代の少女だが、その力が常人のそれではないことは十分に知っている。やめろ、やめてくれと声を上げることすらも許さない。しつこく顔を狙った拳が襲う。演技とは思えないその行動に、コルトが顔をしかめた。


(こうなっちゃうよね……。やっぱり)


 口には出さず、心の中だけでつぶやく。カノンが飲んだ薬の副作用は寿命が縮むことだけではない。イントキシンの大量摂取は脳にも効果を及ぼす。通常であれば生命にかかわる脳機能が止まってしまうことにより死に至るが、ヴァリアントの場合は、感情の制御が聞かなくなるのだ。


「あんたのせいで……あんた達のせいで!みんなが苦しんでる!こんなこと、こんなことをするなんて……!」


 しかし、カノンをある程度までは止めるべきではないとコルトは考えていた。この男は間違いなく、マエストロを追い詰めた張本人である。一発二発、私怨で殴りつけてやりたい気持ちがコルトにないわけではない。しかし、ある程度にしておかなければ情報が引き出せないだろう。カノンに残った最後の理性で力は手加減はされていたが、それでも常人が殴る力をヴァリアントは圧倒する。


「こらカノン、ストップ。気持ちはわかるけど、さ。これくらいにしておこうよ」


 コルトが止めにかかる。本来、カノンは頭に血が上って人を殺そうとするほど感情的なきらいがある人間でないことは、コルトであればよくわかっていることだ。明らかに普通の状態ではない。

 後ろから声をかけられたカノンがしぶしぶ、といった調子で手を止める。男はぐったりとしているものの、まだ意識はあるようだ。


「……仕方ないなぁ」


 しぶしぶ、といった様子でカノンが引き下がった。そのまま手の甲と指についた男の血をぞんざいに服で拭う。もともとの出血とまざってますます痛々しい見た目になった。


「じゃあコルト。あとはお願いね」

「はいよ~。じゃあお見苦しいところを見せたくないし、カノンはあっちに行ってて」

「ん」


 コルトの返事に従って、素直にカノンが部屋を去ってしまった。にぎやかな人間がいなくなった瞬間、やけに部屋全体が静かになった。

 途端にさっきまで表情豊かだったコルトから色が消える。女性にしては長身なその立ち姿が、背後の武骨な打ちっぱなしのコンクリートによく似合う。


「さてと、どうせこの場所もすぐにばれる。だから手短に済ませないとね?」


 そう言いながらコルトが取り出したのは鉄製のハンマーだ。それを見せながら男の右手を板に固定し、台を確保する。


「何って、分かってるでしょ?そんなの。可愛いドルチェちゃんには任せられないし、せっかちなカノンだとすぐに殺しちゃうからね。フィーネはまだ優しすぎて向いていない。こういうのは忍耐力がある私の担当なの」

「お、おい……やめろよ」


 男の声に震えが混じる。必死に右手で握りこぶしをつくって逃げ場を作ろうとするが、コルトが片手で強引に指を一本だけ開かせた。ヴァリアントの腕力は、一般人では絶対に勝てない。


「私たちを殺そうとしたのが何者なのか、知ってることを何でも話しなさい。そうしなければ、これを振るのをやめてあげる」

「知らない!俺は何も知らない!」


 その言葉を聞いているのか聞いていないのか、コルトは容赦なくハンマーを右手の人差し指めがけて振り下ろした。ぐしゃりと鈍い音がするのと同時に、男の悲鳴がコンクリートに反響する。


「うるさいね。ここ音が反響するんだから、耳に響くよ、まったく」


 扁形に潰れた男の右手人差し指を見つめながら、コルトが冷たく吐き捨てる。そして取り出したのはライターだ。ライターでつぶした右手を炙って血を止める。


「知らねえよ!俺は何も知らねえんだ!」


 悲鳴を上げる男に対して、コルトは普通には答えない。代わりにハンマーを振り下ろす。潰れた人差し指の横にある中指に、容赦なく手に握ったそれを振り下ろす。ふたたび悲鳴が上がる。


「ダメじゃない。拷問くらい受ける訓練をしておいたほうがいいって、後で上司に伝えといたほうがいいわよ。あ、今のは爪だけにしといてあげたから。潰れる骨の数は少ないけど、その分感覚が鋭敏だから痛いでしょ。次は先っぽだけと全部、どっちがいい?選ばせてあげる」


 目を見開き、息を荒くして痛みにひたすらこらえる男を尻目に、コルトはまるで他人のことこかのように助言をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ