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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第17話 戦禍のあとに

「うるさいよコルト。耳に響くな……。もう戦いは終わったんだよ?」


 軽口をたたいているように見えるカノンの右の脇腹のあたりに血がにじんでいる。服に広がる赤い染みは、カノンの光彩の色と少し似ているが、どす黒い。


「……とりあえず、そこに横になって。深呼吸をして、丁寧に。そう。よくできてるね」


 冷静さを取り戻したコルトがカノンに指示を出す。


「銃弾は?」

「抜けてるみたい。急所は多分外れてるかな」


 コルトが光彩を光らせながら言った。日頃銃火器のメンテナンスを行っている際に使う、構造分析である。有機物に対しては無機物ほど正確にはわからないが、太い血管が切れたか切れていないか程度はわかる。


「とりあえず、止血しないと」


 ドルチェがバッグの中から止血剤と粘着テープを取り出した。看護に関して知識の乏しい3人にこの状況はどうしようもない。ただし、何をすればよいのかはわかっている。

 カノンはヴァリアントだ。その超人的な能力でもってすれば、この程度の傷なら修復できる。


「はい。これ飲んで」


 フィーネがカプセルを手渡した。ドルチェが飲んだ錠剤と中身は全く同じものだ。これを使えば、寿命を削る代わりにヴァリアントとしての能力を強制的に引き出すことができる。いつも笑顔と大声を絶やさないカノンが蒼い顔をして受け取っているその姿は実に痛々しい。


「ありがと」


 そういうとカノンはカプセルを一気に飲み込んだ。瞬間的に脈拍数が上がり、必然的に出血もひどいものになるがそれは一過性のものである。すぐにカノンの眼に深紅のリングが伴い始める。

 飲んだ薬の量は、ドルチェが戦闘時に服用した倍以上である。戦闘時に使うのには一錠、緊急性がある際には二錠、そして、そのままでは致命的な結果を及ぼす怪我を負った場合は四畳だ。銃創を負った彼女はもちろん、四錠である。


「……。」


 ドルチェは、風に吹かれて周囲の草木が揺れ動いているのに気が付いた。曇り空と廃墟、そして死体の中を吹き抜ける風は決して趣のようなものは感じられないが、ないよりはあったほうが良い。少しはカノンに風があたるようにと距離を取った。


「中で倒れている奴らは確認した?」


 カノンがコルトに聞いた。


「うん。もうみんな死んでる。外側も念のため確認しようか」

「ん。お願い」


 リーダーの指示に聞いたフィーネがすぐに動いた。こういうタイミングでもすきを逃してはならないのが辛いところだ。ドルチェが、小走りにかけていくフィーネを見ながらしゃがみ込み、カノンの首を自分の膝の上に置いた。


「いやあ、ごめんねえ」


 カノンが謝罪の言葉を口にした。理由もないのに、という言葉はおそらく彼女には通用しない。そんなこと言わなくていい、という言葉がのどまで出かかったコルトとドルチェの二人がぐっと飲み込んだ。


「ま、休めば元気になるから、さ」


 その通りではある。しかし、肉体には確実に、癒えることのない見えない傷がたまってゆく。脈拍に合わせて光る強さを変える、カノンの光彩がそれを物語っている。この光は本来、もっと後に使われるはずのカノンの生命力そのものだろう。


「……暗い顔しないでって。普通だったら死んじゃうかもしれないけど、私たちは死なないんだからさ」


 カノンが続けた。同じヴァリアントであるコルトとドルチェもそれは理解している。しかし、それを得るために未来を犠牲にしていることも嫌というほど理解している。

最近、ドルチェはカプセルを飲むことに抵抗がなくなってきた。切羽詰まった戦闘時に飲む際はまだよい。こういった余計なことを考えなくても時間が過ぎていくからだ。こうして事が済んだ後に飲まざるを得ない状況に追い込まれると、ゆっくりとした時間が生まれる。

こうなるともう、終わりの日は案外近いのかもしれないと、各々が考えざるを得ない。


「ほら、ドルチェ、泣かないで。元気になってきたから」


 カノンの声色が徐々に戻りつつある。そのまま患部に当てていた手を外して、血がついたままの右手をドルチェの頭にのせた。そのままわしゃわしゃと撫でる。ドルチェはいつもより撫で方が弱弱しいことを感じざるを得ない。


「手を放しても血が出てこない。元気になってきたかな」

「カノンちゃん、そんな、こんな時にまで私たちに気を使わなくていいから」


 いつも、頼りになるカノンだからこそ、弱っている姿を見ることに抵抗が生まれる。いつも元気だからこそ、苦しんでいる姿がなおさら痛々しい。

 そのまま数分横になった。そして案外すぐに元気になったことをアピールする。


「よし、そろそろ立ち上がれるよ」


 カノンの声色が戻る。そのまま、少しよろよろとしながらも立ち上がってしまった。空元気を混じらせつつも立ち上がったことに、とりあえず二人は安堵した。さて、このまま今日のねぐらでも探そう。そういう空気になった。しかし、その流れは小走りで戻ってきたフィーネによって変わることになる。


「ねえ、一人だけ、死んでるんじゃなくて気絶してるみたいなんだけど」


 フィーネの言葉に、全員が顔を向けた。ほとんどの相手はカノンかフィーネからの至近距離の銃弾を受けて絶命している。それか以前にコルトの爆風を受けて倒れてからだ。

 しかし、例外もいるらしい。意識だけを刈り取られ、まだ息をしている人間が一人だけいた。


「何か聞き出せるかもよ?」


 本来、こうした敵は捨て置くかあるいは、指揮系統への報告を恐れて止めを刺しておくのが普通だが、今回は少しばかり勝手が違う。

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