第16話 鉛弾と血
かなり短いですが区切りが良いので。
「うわ~。こりゃひどいね~」
この有様を作り出した張本人が、のんきな口調でそう言っている。マエストロを追い詰めてていたときは冷静だった彼らの話し声が、無秩序な悲鳴に変わっている。その悲鳴の中を駆け抜けるカノンとフィーネが、地獄に彩りを与えている。
「こりゃ一思いに死んだほうが幸せだねえ。久しぶりに人がやることじゃないことをしちゃったか」
あくまでコルトはのんきだが、少しだけ顔が引きつっていた。追い詰められた小動物はしばしば猛獣より恐ろしい存在になる。珍しくギリギリの戦いを強いられたマエストロに、相手のことを思いやる余裕はなかった。
「……楽にしてあげよっか」
ドルチェがそういった。死にたくても死ねない状況があるということを、彼女はよく理解している。狙撃を失敗して足や腕を吹き飛ばして即死させられなかった際、標的は致命傷を負うものの、長時間苦しむという事がある。相手の死を確認しなければならないドルチェはそれをみることが苦痛だった。だからドルチェは、どうせ殺されるのであれば、せめて楽にと考えている。
「ごめんね」
ドルチェは必ず、介錯を入れるときには必ずそう話しかけることにしている。それで相手が何を感じるのか、彼女は絶対に知ることはできない。言葉を返す余裕など相手にはそもそも与えられていないのだ。
「これで7人。そっちは?」
コルトがドルチェが向かったのとは反対方向から来てそういった。
「こっちは8人だよ、コルトちゃん。大体相手は30人くらいだったから……」
「ちょうど半分くらいが中で倒れてるって感じだね。じゃああとの半分がフィーネとカノンの相手かな」
相変わらず廃ビルの外からは銃声と悲鳴が聞こえてくる。
「じゃあ、すぐに終わるね」
ドルチェが顔色を変えずにそう言った。統制が取れていればまだしも、そうでない相手は数が多いばかりの存在だ。最悪に場合、お互いの銃で同士討ちが始まる。高速で駆け抜けるカノンとフィーネを撃っていればなおさらそのリスクが高まる。
「フィーネ、右お願い!私は左行くから!」
それに対してカノンとフィーネはたったの二人だけだ。しかも、言葉を交わさずとも連携ができる程度には熟達している。
虐殺は、以後数分続いた。銃声と悲鳴は次第に小さく、感覚も長くなっていった。一度だけ武器を持っていないように見えたのだろう、二人を見守っているコルトとドルチェを狙って体中に傷をつけた兵が雄たけびを上げながら向かってきたが、コルトが拳銃一発で仕留めた。戦場でパニック状態になった相手ほど楽なものはない。
「……終わったかな?お疲れ。みんな」
サブマシンガンを持ったまま、腕で額の汗をぬぐったカノンが口で笑顔をつくってそう言った。
「……うん」
フィーネが少しうつむいたまま返事を返した。さすがに疲れが出たのだろう。打って変わって、静寂が場を支配している。本来であればこれが通常なのだが、もうずっと銃声と騒ぎ声ばかりだったからやけに静かだ。
「ようやく全員片付いたよ」
次の言葉を出そうとしたカノンの顔がゆがむ。思わず膝をついた彼女に、三人の視線が自然と向く。
「カノン、おなか撃たれてるじゃない!」
コルトが叫んだ。流れ弾に当たったのだ。




