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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第13話 撤退、迎撃

 人間は頭がついている分、イントレアよりも厄介だ。とくに組織的な行動を行っている場合はなおさらだとカノンは思っている。


 相手は逃げる4人を徹底的に追い詰めるために無線で連携を取る。包囲戦術を使う。狙撃を行う。これらを回避するだけではなくうまいこと撒かなければならない。全員を殲滅するには広範囲に別れた敵を各個撃破して回らなければならないから不可能だ。それをしている間に誰かが撃たれて死ぬ。いくら百戦錬磨のヴァリアントとはいえ、心臓を撃ち抜かれたら即死する。危険な任務ばかり引き受けているからいつかは限界が来るだろうが、少なくともこんな場所で死ぬわけにはいかない。


 カノンが銃を向けられた直後、後方で待機していたドルチェは躊躇なく引き金を引き絞った。大口径ライフルは着弾する際もかなりの音がするから、一瞬、敵の動きが止まる。それを狙ってコルトがランチャーを打ち込む。土煙が巻き起こり、敵の位置も味方の位置も分からなくなる。その混乱を利用してカノンとフィーネはドルチェとコルトと合流し、全速力で駆け出した。


 大体の場合はこれで逃げ切れる。しかし今回は勝手が違った。逃げ出す様子をどこかで監視しているものがいたらしい。逃げ出して5分後に鋭敏になったフィーネの身体感覚が追っ手が迫る足音を聞き取った。300メートルほど離れた場所から数個の足音が淡々と追ってくる。


「まだ敵、追いかけてきてる!」

「差は?」

「縮まらない!あいつら、着てるもので速度を上げてるんだ。もっと早く移動しないと!」

「これ以上走るとコルトとドルチェが置いてかれるよ。どこかで迎え撃たないと向こうのほうが装備が整っているし、どんどんジリ貧になるかも」

「どこかで迎撃しないと……!」


 とはいえ、あのパワードスーツを着た集団がなぜこちらを追ってくるのかもわからないし、どれだけの戦力なのかもよく分からない。敵戦力の情報が分からない状態で作戦を立てるのは無謀に近い。


「ドルチェ、弾丸はあとどれくらいある?」

「えっとね、7発かな」


 マエストロの課題の一つに補給がある。秘密基地からリュックサックを背負って移動している以上、どうにもならない。自動車などという便利な移動方法は、それを整備する道がまともであるという前提が必要だ。


「じゃああんまり無駄使いできないね。コルトのほうはどう?」

「こっちもあんまりかな。あと3発ってところかしら。それ使っちゃったらアタシはもう手元のピストルしかないよ」


 コルトのほうはより深刻だった。イントレアとの戦いと先ほどカノンとフィーネを引かせるために撃った何度もの飽和攻撃ですっかり弾薬を使ってしまったのだ。最初のイントレアはともかく、カノンとフィーネを襲った攻撃の緻密さははっきり言って想定外だった。


「連中、こっちの動きを読んでるよ。多分どこかから見張ってるか、小型ドローンを飛ばしてるかのどちらかかな」


 フィーネがそういった。理路整然とした動きは極めて高い練度を誇っている。少なくとも組織だった一定の戦略性は担保されているといってよさそうだ。


「よっぽど私たちの命が欲しいみたいだね……」

「どうする?カノンちゃん。このまま基地の方向に逃げる?」


 ドルチェが話した。現状、カノンたちと敵の距離が縮まることはない。しかし相手は何か知らの方法で確実にマエストロたちの行動を読み、確実に後を追っている。


「いや、どこかで迎撃したほうがいいかもね」


 そういった瞬間、カノンの足元で朽ちたコンクリートが弾けた。衝撃でカノンとそのすぐ隣を走っていたフィーネがよろける。


「狙撃……!」


 ドルチェが思わずつぶやいた。今彼女たちが走っている場所は廃墟がところどころに見当たる草原の中である。背後には数百メートル後方に高い廃ビルが数棟。そのどれかに狙撃兵が配置されていても全く不思議はない。最初の戦闘があった荷物の受け取り場所からはもうたっぷり数キロは離れているはずだが、そこにいた兵が再配置されることは想像に難くない。


「ドルチェ、見ることはできる?」

「ううん。この状況だとみる余裕はさすがにないかも……でもかなり遠くから撃ってるみたいだね。あと数発はまず当たらないと考えて大丈夫だよ」


 ドルチェが答えた瞬間、二発目がコルトのすぐ隣の草むらに着弾した。パシッと勢いのある音を立てて一本の葦が二つに裂ける。

 このままだといよいよ誰かに当たってしまってもおかしくない。このまま逃げながら考えることはできなさそうだ。幸い、廃墟ならいくらでもある。


「この先にあるビルの中に行こう。フィーネ、待ち伏せとかはないよね?」

「うん。今のところはないよ」


 フィーネの感覚が索敵の手間を省く。

 そのビルは乱立する中でも少しだけ孤立している場所にあった。これなら敵の様子をよく見ることができる。


「じゃ、あそこで迎え撃つよ。ドルチェとコルトはビルに登って、狙撃に気を付けながら来る敵の数を少しでも外して。弾は全部使ってもいいよ。私とコルトは一階で待ち伏せて、二人をできる限りフリーの状態にしよう」

「わかった」

「了解」


 ドルチェとコルトが返事をして、合図とともに走り出す。再び弾丸が足元で爆ぜた。それに四人は少しだけ肝を冷やしながら、駆け出していく。コルトとドルチェは早く高い場所に。そしてカノンとフィーネはビルの柱の物陰へ。



「フィーネ、何人いるかわかる?」

「ざっと30人ね。10人も倒せば引いていくと思う」


 カノンがコンクリートの陰から見渡すと、戦闘服を着た兵士が数人、展開していくのが見える。

「まったく……次から次へと」


 フィーネが悪態をついた。マエストロはここまで、反撃を許されていない。コルトとフィーネが行った一度の同時攻撃は、おそらく不発に終わっている。あれはどちらかというと攻撃というよりは、フィーネとカノンを逃がすために行ったものだから仕方がない。相手は万全の状態でこちらを確実に追い詰めているだろう。訓練された結果の緻密な動きだ。そして、マエストロはこれまで相手を動揺させるような手を打てていない。今頃相手の司令官は袋小路に追い詰めたと思っているだろう。


「下手に顔出したら頭ぶち抜かれるから気を付けてよ」


 カノンがフィーネに言った。おそらく、敵スナイパーにロックオンされている。周囲にぽつぽつと立っている廃墟のどこにいるか、フィーネは確認できないが仕方あるまい。


「試してみようか」


 そういったフィーネが上着を脱ぎ、手持ちのアサルトライフルの先に引っかけて人影に見えるようにして突き出した。数秒が経ち、上着がパシッと二回、弾ける。遅れて発砲音が聞こえてきた。


「やっぱり、狙われてる。それも連携取ってるみたいだね。さっき逃げているときに撃ってきたことも考えると、スナイパーは二枚かな」


 フィーネが上着を着なおしながらそう言った。右肩にあるべき布がほとんど消し飛び、袖が宙ぶらりになってしまっている。少し考えてフィーネは袖をちぎって、リュックサックにしまった。


「どうしようか……」


 フィーネが答えを出すことを焦る。無理もない、こうなること自体、マエストロはめったにないことなのだ。


「もう一回、確かめてみよう。できれば銃痕で判断したい」


 音速を超える速度で飛んでくる弾がどの方向なのかを見極めるほど、二人の動体視力は高くない。しかし着弾した跡で、角度を見極めることはできるかもしれない。


「よし、じゃあフィーネ、後ろ見てて。今度はリュックを出してみる」


 カノンが差し出したリュックサックを、スナイパーは再び打ち抜いた。おそらく距離があるせいだろう。相手は人影程度しか判別できない。

 数秒経過して、再びリュックサックが大きく揺らいだ。中に入っていた栄養食の紙箱が爆ぜて、粉が飛び散る。


「フィーネ、見えた⁉」

「見えたよ!」


 そのままフィーネが指で弾丸の方向を指し示す。その先は数棟のビルがあるが、フィーネが指さしたのは明快だった。


「ドルチェ、聞こえる⁉相手のスナイパーを二枚撃ちぬいて。一枚が10時の方向、もう一枚が2時の方向!」



 了解、任せて、カノンちゃん。高く幼い、しかしとても頼もしい声が聞こえた。

数十秒後、勝負は決した。上階から聞こえる巨大な発砲音は、二発だけ。

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