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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第12話 鞄と銃

 指定されたのは、その街の中で開けて、広場のようになっている場所だ。四方をビルに囲まれた広場の床はアスファルトで敷き詰められているが、それを砕いて草木が繁茂している。


 その真ん中に二人の武装した兵士とスーツを着た長身の男がいる。その周りの風景とのあまりのミスマッチさがアイリスの人物らしい。


「スーツなんて御大層なことで~……それじゃ、いってきますか」

「うん。気を付けてね」


 フィーネによると、見えているのはその3人だが、周りのビルの上階に数名の兵士が待機しているらしい。このままカノンが行くと、包囲される結果になる。手に持ったサブマシンガンの安全装置を解除したまま、警戒状態で近づいている。


「念のため私も行くよ。コルトとドルチェはいつでも反撃できるようにしておいて」


 とだけ言っておくと、カノンは男の前に荷物を持って進んでいった。長身の男に向かって歩き出す。横にいる兵士が気付いて銃を構えようとしたが、スーツの男は片手を上げてそれを制止した。動作がいちいち上品だ。管理区でこのようなふるまいをする人間は滅多に見れないだろう。


「貴方が荷物を運んでくださった方ですか?」


 カノンとフィーネが銃を構えながら前に進むと、長身で細い男がこちらを見てそういった。隣にいる重装備の男たちと違って、いかにも身分が高そうという印象を受けた。


「まだ動かないで。合言葉は?」


警戒するなら、とことんまで行わなければならない。


「『歌うように、踊るように』……。これで大丈夫ですか?」


 そういわれるとカノンは漸く銃を下した。合言葉は事前にオオガミに伝えていた、旧文明時代に使われていた音楽の言葉だ。無論、これだけで信用したわけではない。合言葉を敵対組織に知られたなんてすぐ思いつく話である。そのためにドルチェがいる。目的地の後方300メートルの高台で、ドルチェが有事に備えて銃口を光らせているのはそのためだ。また傍にいるフィーネは腰のポケットで小型のスモークグレネードに手を添えている。コルトはフィーネの少し前、カノンの後方100メートルの地点でロケットランチャーを構えている。


(胡散臭いなあ)


 とフィーネは思った。アイリスの人間は好きではない。この感情はマエストロのメンバー全員が思っていることだったが、出身であるフィーネはその感情がとりわけ強かった。こぎれいにまとまったスーツからは一片の穢れも見出すことはできない。戦闘や旅の中で土煙や硝煙をかぶり、女子らしからぬ見た目になってしまった自分たちとは対照的だ。


(みっともない)


 そうフィーネは思った。それがどちらに対しての言葉なのかは、わからなかった。


「大丈夫ですね。失礼いたしました。……こちらが依頼された品物になります。中身は私たちには伝えられていません」


 そういいながらカノンは背負ったリュックサックから小包を取り出した。フィーネが身構える。この瞬間が一番緊張する。カノンの視線が逸れ、無防備になる瞬間だからである。


「ありがとうございます」


 カノン自身、そう言いながらも意識は常にその外側に気を配る。男を護衛するかのように部隊が展開しているのに気が付いた。マエストロを信用していないらしい。


「オオガミさんから話を聞いていますよ。なんでも、受けた依頼は必ずこなす何でも屋さんなんだとか」


 男が唐突に話しかけてきた。メンバーの警戒心を理解してでの行動だろうとカノンは推察した。


(腹が立つな)


 と思ったが、相手は依頼主である。そんなものを表に出すべきではない。


「私たちはそんな何でもできるヒーローみたいなものではないですよ」


 少し笑ってカノンが言う。無論、眼は笑っていない。視点の中心は警戒を悟られないように優男を見ているが、奥の物陰や木のふもとを順番に見て人がいないかどうかを確認する。


「ご謙遜を。また何かあった時はお願いします」


 優男はそういった。


「マエストロさん、あなたたちの実績は我々アイリスにも轟いていますよ。私どもの組織からも今度、依頼をさせてください」

「ぜひ。よろしければオオガミを経由してください。彼からなら私たちも依頼を受けやすいので。私たちは普通のものを望みません。多少酔狂なものをのぞむものかもしれませんが、その用意さえ報酬としてご用意いただければ、マエストロは仕事を選びませんから」

「それはそれは……。あなた方のように自由自在に大地を巡れるなど、そうありませんから。甘えさせていただけると嬉しいです」


 ありがとうございます。そう話すカノンの笑顔は作られた見事なものだ。それを見るフィーネが感心する。あの顔で、これまでたくさんの人間と交渉して、仕事を得てきたに違いない。


「では、私は近くに迎えを待たせてありますからこれで失礼します。この度はありがとうございました」

「ええ。こちらこそ。ありがとうございました」


 そう言いながら、重装備の男たちを尻目にカノンたちが踵を返す。足元のコンクリートがところどころ割れて歩きづらい。


 そして往々にして、嫌な予感というものは当たるものだ。視界の隅で何かが動いたフィーネが右に首を向けると、兵士たちが銃をこちらに向けている。


「カノン、走って!」


 考えるより先にカノンが走り出してフィーネの後を追った瞬間、銃弾の雨が轟音とともに降り注いだ。

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