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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第10話 イントレア

 楽しげなピクニックも、平地に近づくにつれて終わりを迎える。昼行性のイントレアが最も活発に動いているころでもある午後に外部を出歩くことは非常に多くの危険が伴う。そしてカノンたちが歩いている道は、平原とは言っても左右はどちらも高草に覆われておりその中に何があるかもわからない。旧文明が成立していた場所で安全だと言えるところは、エステートたちが文字通り命を対価に改修を重ねた管理区内部のみである。藪の中にいきなり天井の抜けた地下室があるとも分からないのである。君子危うきに近寄らずだ。結局、道なりに進むしかない。

 そして危険はすぐに訪れる。


「止まって」


 ドルチェがひと際輝くリングを瞳にまとわせてそう言った。


「見えるよ。前に見えている橋。その向こう側の藪の中にイントレアがいる。水場が近いからあそこをねぐらにしてるんだ。多分、通ったら襲ってくるよ」


 ほかの三人が目を凝らしてみてみても何も確認することはできない。ドルチェだけがまっすぐに前を見つめている。


「了解。さて、まだ気づかれていないみたいだね。どうする?避けれるのなら避けたいけど」


 コルトが続けた。イントレアに勝てないことを心配しているのではなく、派手に音を立てることを心配しているのである。一応、荷物を届けることは極秘という扱いになっている。その中で派手に暴れてしまい、万が一ほかの誰かに気づかれたりしたらただ事では済まない。事後のことが心配なのである。


「うーん、なんとか感づかれずに通ることはできないのかなぁ」


 カノンが言った。手にしたアサルトライフルはコルトが整備した自慢の一品だが、使わないに越したことはない。


「ううん、この道をこのまま通っていると確実に気付かれると思うよ。あいつ、ほかのイントレアを食べる肉食型みたい。食事だと思われて襲われるよ」


 ドルチェが即座に否定した。ドルチェは視野を狭めることによって、より詳細に遠くのものを見つめることができる。本人曰く、「望遠鏡をのぞいている感じ」とのことだが実際どうなっているかは他の三人には想像もつかない。


「フィーネ、迂回路はないの?」


 下調べを担当していたフィーネにカノンが聞く。


「うん。ここしか道はないみたいだね。迂回したいなら3時間は余分にあるかなきゃいけないかも。どうする?カノン」


 答えは明確にわかっていた。


「ここを避けるわけにはいかないからね……ここは一勝負するしかないんじゃないかな?」


 ドルチェが見たところによると、イントレアは地面に穴を掘って身体の半分をそこにうずめているとのことである。こういったタイプはいわゆる罠を張るタイプの捕食者だ。近くを獲物が通りかかると弦を伸ばして、瞬く間に獲物を捕らえてしまう。下半分が見えないので正確には不明だが、おそらく5メートルほどはあるのではないかとドルチェは話していた。


 しかし、イントレアを倒すのに、別にスポーツの試合をするわけではないのである。戦争にフェアな勝負などという概念は一切存在しない。欺けるのであれば欺いた方が自らの生存のために役に立つ。

 敵の位置を把握したカノンたちは、イントレアに感知されないよう風下に退避したのち、近くにたまたまあった4階建ての廃墟に昇ることにした。

 戦闘はマエストロの専売特許の一つである。エステートはその教育環境の劣悪さから、共同で作業を行うことにとことん向いていない。4人が一つの生き物のように行動することが求められる戦闘などは最も苦手とする分野である。実際、エステートのごろつきが銃で勢力争いをする際も、適当に各々が撃ち合っている場合が多い。


 マエストロは違う。圧倒的な場数が彼女たちの最大の魅力であり、強みである。中でもリーダーのカノンはもう一年以上もメンバーに指示を出し続けてきたのである。状況判断能力はマエストロの中でも段違いといって良い。


「フィーネ、あのタイプのイントレアは遠距離の攻撃をしてくる?」

「ううん。多分ないかな。皮もそんなに硬い方じゃないから、結構簡単に貫けると思うよ」


 イントレアの見た目は多種多様だ。それを見分けるための参謀役がメンバーの中で唯一アイリス出身のフィーネだが、これは確認のようなもので実際は経験則としてある程度知っている。


「おっけ!じゃあ遠距離から一気に片付けるよ!コルト、フィーネ、お願いね!」


 二人から元気のいい返事が聞こえる。作戦会議はこれだけである。


 イントレアが敵に襲われたと気づいたのは、その胴体に大穴が空いた後のことだった。ドルチェがフィーネと組み立てた大型の対物ライフルによるものである。イントレアは必死にその弦を動かして自身を守ろうとしたが、その直後に襲ってきたのは大量の爆発物だ。コルトが同じ場所から打ち込んだロケット弾である。植物の弱点はいつだって炎だ。自営能力を失った化け物は、マエストロが遥か彼方から打ち込む火力に遂に耐えることができず、派手に爆発炎上した。

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