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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第9話 夜明け

 出発は常に未明である。イントレアは夜行性の者もいるが基本的に活動が活発化するのは太陽が顔を出す日中だ。そのため、マエストロは夜明け前に出発することにより、基地の周りで戦闘を起こすことを避ける。大規模な戦闘が起こればアイリスの調査が入ることになるため、近くで戦闘が起これば最悪場所が割れてしまうリスクがあるからだ。


「ねっむ~。何度もやってるけどお姉さん、これだけは慣れないわぁ」


 コルトが大あくびをする。時刻はおそらく4時前といったところだろう。まだ周囲は明るくすらもなっていない。


「こういうのってやっぱり人それぞれなのかなぁ、私はいつも大丈夫なんだけど」


 反対にカノンは元気そうである。そしてドルチェは眠そうで、フィーネはいつも通り淡々とし

ている。一応、全日は日が暮れたのちすぐに消灯したはずなのだが。


「いやぁ~、いつもと違う時間に寝るとなんか眠れなくってさ~」

「結局眠くなるまでコルトちゃんとお話ししちゃったんだよね~」


 相部屋の二人は生活リズムや体質も似通っているらしい。

 まだ基地から出てすぐの場所だ。今日の荷物の運び先は基地からは直線距離で40キロほどとなっている。一泊野宿をすれば帰ってこれる距離だろう。

 ネオクロフィリアがばらまくクロトキシンは、生態濃縮を起こす。そのため標高が下がれば下がるほど、毒は生物の中に濃縮されていく傾向にある。だからマエストロはどんどん、危険な場所に行っていると言える。しかし、当の本人たちにとっては長期的にはともかく、短期的にはむしろ利益になる。


「やっぱり降りると、どんどん元気になっていくねぇ」


 そういっているカノンの眼にはリングが帯び始めている。周囲の森の蒸散作用に伴って放出されたイントキシンを体内に取り込んでしまっている結果だ。ヴァリアントであるマエストロたちは、イントキシンをエネルギーに変換することができる。彼女たちの常人ならざる身体能力に結び付くわけだが……。それは決して身体に良いわけではない。人間の身体は本来、そのような運動に耐えうるようにできていない。無理が祟れば寿命を縮める。アイリスたちが暮らしているコロニーの外で生きているエステートの平均寿命は30歳程度とされているが、その中でもヴァリアントは25歳程度と噂されている。ヴァリアントはその稀有な能力を買われて危険な仕事に従事する分、身体を早い段階で壊してしまうリスクにさらされている。


「私も、だんだん周りのことが分かってきたかな~」


 ドルチェが同調した。ドルチェの眼の周りにも明るい黄色の光を帯びているのが分かる。ヴァリアント個人によって瞳に帯びる光の色は異なっている。イントレアが生み出す何かしらの成分と人体の免疫系が影響していると考えられているが、その実際は分かっていない。


「お、そりゃ助かるね!何かあったら頼むよ~!」


 カノンが続けた。ドルチェの能力は動体視力を大幅に強化するというものだ。決して戦闘向きではないが、視界の隅で発生する微細な動きを感知し、いち早くメンバーに危険を知らせることができる。そしてもう一つは自らの気配を遮断するというものだ。意図的に生命活動を遮断することによって吐息、鼓動といった周囲への主張を限界まで狭めることができる。一応、曝露に応じて仮死状態になることもできるが、悪影響が大きいためほとんど使うことはない。

 この二つを利用したドルチェの特技が遠方からの狙撃である。敵に気配を悟られずに任務を遂行することができるドルチェの能力は、カノンとフィーネを前線に送らずに済ませることのできる最も良い手段だ。


 山を下りて盆地に出ると、徐々に周囲が明るくなってきた。平地は分厚い雲が常に広がっているため空を見上げてもどんよりとした灰色が広がるばかりである。

南東に少し不思議な形をした山がある。あの山は全体が資源でできているとかで、ものすごい昔に採掘が行われていたらしい。しかし山が変形するほどの採掘を行うなんて、昔の人たちは一体何をしていたんだろうか。


「この辺からは気を付けてね」


 カノンが注意をする。盆地はイントレアの絶好の生息地である。周囲の山々から流れ込む水を目当てにしているからだ。また開けているという点でも光合成をするには優れている。

 途中、昼食の休憩を取った。ドルチェお手製のサンドイッチである。少なくとも気分くらいはピクニックにしておかなければやってられない。フィーネが遠出の旅に楽しみにしているのがドルチェのお弁当だ。毎度違うものを作ってきてくれ、時間になるまで中身はお楽しみというものになっている。


「ドルチェ、これ美味しいよ」


 サンドイッチは作ってすぐ食べるのではなく、数時間後に食べることを想定してパンにバターが塗られていた。これを行うことにより、野菜の水分がパンに染み込まず、出来立ての状態をある程度保つことができる。


「えへへ……ありがと」


 ドルチェは褒められることにいつまでたっても慣れない。美味しいものを食べることは重要で、この世界ではとても貴重なことだ。特にエステートにとって、食べ物を美味しいと味覚が感じることそれ自体が、極めて稀である。


「ねえドルチェ、今度私にも料理教えてよ~」


 カノンが提案した。


「でもカノンちゃん、すぐ飽きちゃうんだもん。あれじゃあ上手にできないよ」


 カノンはどうも飽き性なところがある。忍耐力が必要な料理は苦手なようだ。



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