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終末世界とセーラー服  作者: 四宮 式
栄光のマエストロ
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第8話 出立

 説明を受けたのち、マエストロはそれぞれの行動に移る。


 依頼を受けることが決定したのちの彼女たちは、実に慌ただしい。


 まずコルトは作業場にかかりきりになる。メンバーそれぞれの武器を整備しなければならないからだ。カノンのサブマシンガン、フィーネのアサルトライフル、ドルチェのスナイパーライフル、そして自身のバックパックと様々な戦闘用アイテムだ。これらを整備するのは全てコルトの役割になる。


「よしっ…。」


 作業場に入るとコルトはそう気合を入れる。ヴァリアントとしてのコルトの能力は物品の構造分析とある程度の透視だ。イントキシンの量に応じて複雑な機械類や構造物の分析を行え、高周波数の光線が視認できるようになる。


「カノンのサブマシンガンは…これはいつもの調整で大丈夫だね。フィーネのライフルもおっけーかな~。問題は…ドルチェのスナイパーライフル、か…。」


 いつもコルトを悩ませているのが、ドルチェのスナイパーライフルだ。少しでも調整にミスが出れば、ドルチェの射撃能力に枷をはめてしまうことになる。


(この前調整ミスった時は1キロで1メートルずれたからな…その場でドルチェが修正してくれたから何とかなったけど、甘えてばかりいるわけにもいかないからね~)


 僅かな乱れは、コルトのプライドを傷つける。今度の調整はしっかりやらないと。とコルトは呟いて作業に取り掛かる。コルトが次に作業場から出てくるのは、晩御飯の時間になってフィーネが迎えに行くまでだ。もちろん、呼ぶまで集中して作業を続けている。


 コルトが武器の準備をしている間、残りの準備は3人で行うことになる。作戦立案や小道具、保存食の準備などだ。


「えっと……ルートはどうしようか。こっちの近道か、この遠回りの道になるかな」


 フィーネが示している二つの道は、川を渡る近道か、山の稜線を伝う迂回路だ。


「どうだろう。この急流の情報がないんだよね。ひょっとしたら、渡れる橋がないかもしれない」


 地図は参考程度にしかならない。イントレアが気まぐれに橋を破壊するからである。結果、あたりにコンクリート製の橋は崩壊した。どの場所にある橋も資源輸送の大部隊か何かが通った後に残された仮設橋の残りである。一応マエストロは最新の地図を仕入れてきてはいるが、それでも過去の情報は過去だ。


「この地図はどれくらい前のなの?」


 フィーネが聞く。


「えっとね、ひと月前に完成したやつだね。だから実際に調査に行ったのは二か月は前だろうな」


 ドルチェが地図の隅に書かれた日付を見ながら言った。地図は専門の業者が作っているらしい。


「じゃあアテにならないな……やっぱり少し遠回りしよう!こっちの道のほうが安全だね」


 カノンが指さしているのは川を渡る近道ではなく、山の稜線沿いにぐるっと大回りをするコースである。こちらのほうは近道より20キロばかり余分な距離を進んでしまうが、川を避けて安全に進むことができる。


「じゃあこれで決まりだね。ここから先は標高がどんどん低くなるね……イントレアとの戦闘は覚悟しておいたほうがいいかな」


 フィーネが続けた。イントレアは、低地であればあるほど活性化する。ましてや川や沼といった水辺ではなおさらだ。そして彼らがそこら中でばらまいている、人体にとって有害な毒……正式にはイントキシンという……が、集積している。海に山に平地に川にとどこにでも生息する彼らの身体から出た分泌物は、雨や川の流れに交じって集まる。


「そうだね。弾薬は多めに持って行ったほうがいいかもね。あとは山中では沢の流れに気を付け

て……それくらいかな」


 そのため、雨や川といった自然の水の流れはすべて人体に悪影響を及ぼす。カノンたちはヴァリアントと呼ばれるイントキシンにある程度の耐性を持った人たちであるため川に浸かる程度はなんともないが、あまり身体にイントキシンを溜めすぎると寿命を縮める結果となる。避けるに越したことはないのだ。


「今回の依頼の荷物はどんな感じなのかな?」


 ドルチェがカノンに聞いた。あまり大きすぎても困る。


「今回のはこれだよ。あんまり大きくはないかな」


 カノンが言われて見せたのが、小さな黒色のケースだった。丁寧に鍵がされており、こちらから開けることはできない。

 目的地点まで指定された荷物を運び、置け。ただし付近には地上型イントレアの出没報告あり。また荷物の中身は決して見ないこと。


 オオガミから受けた依頼の概要がこれである。


「荷運び、ねえ。まともなものが入っていればいいけど」


 フィーネが思わずそう言った。大体、こういった荷運びの仕事で運ばされるものはろくな中身ではないというのがこれまでのマエストロの経験だ。


 一度、荷運びの仕事には辛酸を舐めさせられたことがある。マエストロの活動を憎く思った敵対勢力が、依頼先として指定した古い建物で待ち伏せていたことがある。カノンとドルチェがホイホイと虫取り罠にかかる害虫のように荷物を抱えて近づいていくと、フィーネが突然伏せてと叫んだ。三人が伏せると同時に四方八方から大量の銃弾が浴びせられた。あの時後方で念のため待機してくれていたドルチェの狙撃がなかったら、ハチの巣にされていたに違いない。


 結局あの場にいた敵は文字通り「殲滅した」。もちろん、帰った後に依頼した人間の居場所を特定して殺したことも付け加えておかなければならない。襲撃して殺した後に、建物ごと破壊した。相手がやろうとしたことをそのままお返しする形で殺したのである。


「中身って何なんだろうね」


 フィーネが聞いた。当然の疑問である。


「フィーネちゃん、そういうことはね、考えちゃいけないんだよ」


 疑問に答えたのは以外にもドルチェだった。


「そうそう。お姉さんたちは、あくまでこの荷物を運ぶだけ。中身のことを下手に考えると面倒ごとに巻き込まれるよ~?」


 コルトも続いた。


「まあ、そうだね……」


 確かにそうだなとフィーネは思った。マエストロに来て日が浅いフィーネと違って、ほかの三人は勝手がわかっている。しかし得体のしれない荷物を運ばされるのはどうにも気持ちが悪い。


「いい?フィーネちゃん、荷物のことを知らされていないのは、私たちのためでもあるんだよ?」


 そんな疑問を付け加えたようにドルチェが続けた。


「中身を知ってしまったら、何か大きな物事に巻き込まれちゃうかもしれないでしょ?でも中身を知らなければ、私たちは知りませんって、いうことができるの」


 ドルチェの言うとおりである。それは長い付き合いのある依頼主であるという背景が説得力を増す。世の中知らない方が得をするということもあるのだ。

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