アル先生、初めての机
晴れ渡った朝。街中が、なんだかそわそわしていた。
理由はただ一つ。
──自由学舎フォルティナ、開校初日。
市庁舎の鐘が鳴り響くと、ぼろぼろの靴を履いた子供たちが、わらわらと集まってきた。
「ここで、勉強するんだよね……?」
「うわ、机がある!!」
「すっげぇ!!」
きらきらの目。どきどきの顔。
先生役は、街の神父さんと、元文官の老人たち。それから、手仕事を教える職人たち。
そして──
「えーっと、今日の授業は…… あ、これか?」
一番前の席に、ぺたんと座っているのは、他ならぬアルだった。
生徒たち、びっくり。
「え、アルも……?」
アルは、照れくさそうに笑った。
「だってさ、オレ、 学校行ったことないんだもん!」
「だから、みんなと一緒に、 今日から、勉強するんだ!!」
ざわざわ、わあっと広がる歓声。
──この教室には、偉い人も、弱い人も、関係なかった。
みんな、ただの「学ぶ仲間」。
初めての授業は、「字の書き方」。
神父さんが、チョークで黒板に、大きな字を書いた。
【あ】
「じゃ、これ、みんな書いてみよう!」
わいわい。
きゃっきゃ。
一生懸命、小さな手で、ぶかっこうな「あ」の字をなぞる。
そして。
アルも。
小さな舌をちょっと出して、ぐぐっと手に力を込める。
「う、うーん、むずかしい……!」
紙の上には、びっくりするほど味のある「あ」の字。
子供たち、大爆笑。
「アル、下手くそー!」
「オレのほうがうまいぞー!」
アルは、ぷくっと頬を膨らませた。
「くそぅ、練習してやるー!!」
笑い声と、教える声と、失敗して転んだり、泣いたりして、でもすぐ立ち上がる声。
小さな教室に、命の音が満ちていく。
──それは、たぶん、この街で一番、優しい時間だった。
窓の外、グレゴル──親分が、そっと腕を組みながら見守っていた。
「……小僧。」
「お前が……本当に守りたかったのは、こういう未来だったんだな。」
風が吹いた。花びらが舞った。
ちいさな学校に、ちいさな奇跡が、今日もまた、生まれていた。




