会議。其の一
俺とクラスメイトの女子たちに関わる一件について、生徒会で審議が行われる日が来た。こういう場を前にすると、たいていの人間はそれなりに準備をする。身だしなみを整え、服装を選び、少しでも良い印象を与えようとできる限りのことをするものだ。
だが俺には、書類を揃える以上に、わざわざ見た目を作り込むだけの熱意はなかった。もちろん、外見による印象に価値があることは否定しない。ただ、俺の考えでは、それが最も意味を持つのは初対面の時だ。今回の場合、出席者の大半は、形はどうあれすでに俺と接触している。今さら別人のように振る舞ったところで、大した意味はない。
指定された時刻より数分早く着いた俺は、生徒会室の入口の前で足を止めた。昔から、約束の時間には必ず早めに着く癖がある。誰かはそれを礼儀正しいと言うかもしれないが、実際のところ、俺はただ遅刻しないことを確認しているだけだった。
高森先輩からは、少し前に交換したLINEで、順番が来たら呼ぶと事前に連絡を受けていた。どうやら生徒会は、まず相手側――ハセガワと源先輩から話を聞くことにしたらしい。どうあれ、彼女たちにはまだ、自分たちの非を認め、可能な範囲で自主的に事態を収める余地が残されていた。正式な審議にまで発展させずに済ませる道も、少なくとも形の上では存在している。
いずれにせよ、今の俺にできることは、中へ呼ばれるまで待つことだけだった。
「零!」
横から声をかけられた。顔を向けると、美羽を先頭に、女子たちの一団がこちらへ近づいてくるのが見えた。彼女たちも被害を受けた側である以上、当然ながら、彼女たち抜きで審議を始めることはできない。
「私たち、遅れてないよね?」千花が少し不安そうな声で尋ねてきた。
俺は微笑み、安心させるように頷いた。
「大丈夫です。ちょうどいい時間ですよ」
「ならよかった」
「うまくいくといいけど……」
女子たちは明らかに緊張していた。もっとも、それを表に出しすぎないようにはしている。無理もない。どう見ても、今から行われるのは普通の学校内の話し合いというより、裁判に近いものだった。足りないのは、手錠を持った警察官と囚人服くらいだ。
これまでこんな状況に巻き込まれたことのない彼女たちにとって、それが大きな負担になっているのは明らかだった。できることなら、早くすべてをはっきりさせ、この件を過去のものにしてしまいたいのだろう。
俺のほうも、まったく緊張していないわけではない。ただ、仕事を通して、それなりのストレス耐性は身についていた。もちろん、頭の片隅には時折、「肝心な場面で何も言えなかったらどうする」という考えも浮かんでくる。だが、そういうものはすぐに追い払うことにしている。
大事なのは、自信を保つことだ。あるいは少なくとも、周囲にそう見えるように話すことだった。
そんなことを考えていると、美羽が突然こちらへ手を伸ばし、俺のフードを掴んだ。
何をするつもりだ。殴る気か?
彼女の行動があまりに唐突だったせいで、そんな考えが一瞬頭をよぎった。だが美羽は、ただ布地を少し整えるようにいじっただけで、すぐに一歩下がった。
「何ですか?」思わず尋ねる。
「フード、ひどいことになってたから」
俺は、その遠慮のない気遣いに少し笑った。
「驚きました。仕事以外でも、専属の衣装係ができたみたいですね」
俺の軽口に、美羽はわずかに頬を赤くした。
「そ、そういうのじゃないし。ただ、零って全然緊張してなさそうに見えるからさ。なんか、私たちだけが勝手に不安になってるみたいで……まあ……」
「いいじゃん、美羽。零はいつだって輝いてるんだから」千花が途中で口を挟んだ。「たとえ全裸で来たとしても、普通に綺麗に見えると思うよ」
「ちょ、ちょっと、花房さん。それはさすがにどうなんですか」
「千花、あんた何言ってんの!?」
その一言で、女子たちはすぐさま千花へ詰め寄った。美羽は彼女の両頬を引っ張り、厳罰を与えるような顔をしている。もっとも、当の本人の表情を見る限り、それほど不満があるようには見えなかった。
こういう時、何でもない顔で妙なことを言って、場に溜まった緊張を一気に散らせる人間が一人いるのはありがたい。
そんなやり取りが続いているうちに、ようやく扉が開き、俺たちは中へ入るよう促された。
中に入ると、そこには少し見慣れない光景が広がっていた。生徒会室がここまで空いているのを見たのは初めてだった。もちろん、あくまで比較の話だ。室内には今もそれなりの人数がいる。だが普段の慌ただしい作業風景と比べれば、今の部屋はほとんど生命感を失っているように見えた。机の上に書類の山はなく、誰かが場所を移動しながら仕事をしているわけでもない。声の調子も、普段よりずっと抑えられている。ここに集まった理由が、いつもの学校業務ではないことを、空気そのものがあらかじめ告げているようだった。
上座には、いつも通り高森先輩が座っていた。その隣に副会長の橘修吾。さらに反対側には、もう一人の生徒がいる。例の学院アプリのおかげで、俺は事前に彼の名前を知っていた。高瀬学。風紀委員会の委員長だ。
その右側には、相手側の代表が座っていた。新聞部部長のハセガワ先輩。そして弓道部を率いる源先輩。生徒会長の正面には、教師が一人、別に席を取っている。おそらく、この審議の進行と秩序を管理する役目なのだろう。
ハセガワ先輩は、まるで緊張している様子がなかった。俺たちに気づくと、彼女はわずかに笑みを浮かべただけで、何も言わない。源先輩も似たような態度だったが、自分の感情を隠すのは彼女のほうがずっと上手かった。生徒側の運営に関わる三人については、全員が完全な平静を保っている。おそらく、それくらいの自制心がなければ、今の立場に就くことなどできなかったのだろう。
「座ってください」
橘がそう促した。
指示に従い、俺たちはハセガワ先輩と源先輩の向かい側に腰を下ろした。隣の女子たちは目に見えて静かになり、ついさっき廊下で気楽に冗談を言っていた千花でさえ、今は見慣れないほど真剣な表情を浮かべていた。
高森先輩はその場にいる全員へ視線を巡らせると、口を開いた。
「それでは、校内組織による不適切な投稿、権限の濫用、ならびに評価点減点の妥当性に関する審議を開始します」
俺の知る限り、こうした場では、まず申立人側が主張を述べるのが本来の流れだ。とはいえ、ここは学院であって、本物の裁判所ではない。そのためか、高森先輩は進行の順番を少し変えることにしたらしい。
「事前に全員が確認済みの申立内容を、ここで改めて読み上げる必要はないと判断します。まずは相手側の反論から入りましょう。異議はありますか」
「ありません」
「お任せします」
会長の判断に、異を唱える者はいなかった。
「こほん……では、ハセガワさん、お願いします」
彼女は席から立ち上がると、満足げな表情を崩さないまま話し始めた。
「ありがとうございます、高森さん。さて、皆さんもご存じの通り、伊弉波さんは新聞部による権限の濫用、ならびに私たちに対する名誉毀損の申し立てを生徒会へ提出しました。その他の項目も、突き詰めればその主張から派生しているものです」
端的に言えば、彼女の言う通りだった。もし俺が、あの記事に名誉毀損にあたる性質があったことを証明できなければ、評価点の再計算や職権濫用に関する主張も、ほとんど根拠を失うことになる。
「ですので、まず伊弉波さんに一つ、単純な質問をさせてください。私たちは具体的に、何について嘘をついたのでしょうか。あなた方がカラオケにいなかった、と言いたいのですか。それとも、掲載された写真が画像編集ソフトやAIによって捏造されたものだと? ここにいる誰かが、あの写真の真正性を疑っているとは思えません。何より、あなた自身が何度も、写真に写っているのは自分とクラスメイトの女子たちであると認めています。では、いったい何が名誉毀損だと言うのですか」
その言い方は、俺に沈黙を許さなかった。
「ハセガワさん。俺は、写真に写っているのが俺たちであることも、その日に俺たちがカラオケにいたことも否定していません。ただ、あなた自身も分かっているはずです。問題になるのは、事実そのものだけではありません。その事実を、どう解釈し、どう見せたかです。俺が問題にしているのは、まさにその部分です」
「あなたの言いたいことは分かります。ですが、その解釈は何もないところから生まれたものではありません。入学してから最初の一週間で、あなた自身が築いた評判の結果です。喧嘩、他の生徒との衝突、そしてその後に起きたいくつかの出来事が残した悪い印象。軽率な行動を重ねたことで、あなたは自分の評判を極めて不安定なものにした。記事の表現は、そうした背景を踏まえたものです」
ハセガワは自分の席を離れると、ゆっくりとテーブルに沿って歩き始めた。言葉に合わせて、滑らかで計算された身振りを添える。まさに、公開演説の見本のような振る舞いだった。一瞬、演劇部の何人かにも引けを取らないのではないかと思ったほどだ。
「審議に参加されている皆さん。私たちは、伊弉波さんの人気や、アイドルという職業、あるいは学院外での知名度を非難したわけではありません。ただ、新聞部の最も重要な役割は、深刻な事態へ発展する前に、生徒たちへ潜在的なリスクを知らせることです。ここまで知名度の高い人物が学院に現れれば、彼のクラスだけでなく、学校全体の空気にも少なからず影響が出ます。私たちの記事は、伊弉波さんの周囲に少しずつ形成されつつある状況を示したにすぎません」
彼女の言葉は、一見すればずいぶんと立派に聞こえた。
だが、その本質はもっと単純だ。
――面倒に巻き込まれたくなければ、彼に関わるな。
彼女たちが他の生徒に植え付けようとしたのは、結局そういうことだった。それを、都合のいい、もっともらしい言葉で包み直しているだけだ。
次に俺へ声をかけたのは、高森先輩だった。
「伊弉波さん。あなたの主張から、あなたの知名度がもたらすリスクに関する部分を取り除いた場合、何が残りますか。少し機嫌を損ねられた少年の不満、というだけではありませんか」
はぁ……。
こういう空気の中で何かを証明するのは、たしかに簡単ではなかった。現時点では、流れは完全に新聞部へ傾いている。主な理由は、ハセガワ先輩が都合のいい表現を選び、議論の向きを自分に有利な方向へ誘導するのがうまいからだ。
ある意味では、俺も彼女に感心していた。これで、彼女が新聞部の部長になったのが偶然ではないと、はっきり分かった。ハセガワは、周囲の認識に働きかけ、自分の解釈をあたかも唯一合理的な見方であるかのように見せることに長けている。
残念ながら、だからといって俺が引く理由にはならない。
俺は席から立ち上がり、事前に用意しておいたファイルを手に取った。
「あなたの言う通りです。外から見れば、たしかにそう見えるかもしれません。ですが、ハセガワさん。最近のスマートフォンにおける写真編集の仕組みを知っていますか」
「……え? 何の話ですか?」彼女は怪訝そうに尋ねた。
「どうやら、ご存じないようですね。写真をトリミングしたり編集したりしても、端末本体やクラウドストレージには、元のデータが残っていることが珍しくありません。だから、加えた変更を取り消し、オリジナルの状態に戻すことができるんです」
その機能がすべてのスマートフォンに搭載されているとまでは断言できない。だが、大手メーカーの端末では、かなり前から標準的な機能になっている。少なくとも、俺のスマホでは、編集済みの写真をいつでも元の状態へ戻すことができた。
ファイルを開き、俺は新聞部の記事で使われた写真をテーブルの上に並べた。
一見すると、それは同じ写真に見えた。
だが、掲載された写真と元の写真との間には、決定的な差があった。俺と女子たち以外にも、そこには他の生徒たちが写っていた。男子も含まれている。俺たちは人目を避けていたわけでも、怪しげな組み合わせで過ごしていたわけでもない。ただのクラスメイト同士のカラオケだった。
新聞部は、自分たちの作りたい話に邪魔なものを、ただ画面の外へ切り落としただけだった。
オリジナルの写真を目にした瞬間、ハセガワの顔に、初めて本物の驚きがよぎった。源先輩の表情も、ほんのわずかに変わる。
「あなたたちは、そこにあった空気を描写したんじゃありません」
俺は並べた写真へ視線を落としながら、そう言った。
「現実を編集した。そして、その編集後のものを、まるで自然に存在していた状況であるかのように提示したんです」
生徒会室に沈黙が落ちた。
つい先ほどまで、ハセガワは本物の事実を解釈しただけだと主張できた。だが今、全員の目の前には、その事実のうち不都合な部分が意図的に隠されていた証拠が置かれている。
俺は向かいに座る少女へ視線を移した。
「では次に、源先輩の関与についてです」
自分の名前を聞いた瞬間、彼女の肩がごくわずかに揺れた。そして、上目遣いにこちらを睨む。
「高森先輩」
俺は会長へ向き直った。
「俺の把握している限り、写真は学院アプリのプラットフォームを通して新聞部へ送られています。匿名性は便利なものですが、デジタル上のシステムにおいて、それが完全であることはほとんどありません。どのアカウントから、そして何時にその資料が送信されたのか、確認をお願いします」




