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トラブル。其の一

アイドルの知名度とは、いったい何を意味するのだろうか。莫大な金。瞬く間に叶う願望。大衆からの全面的な愛。そして、ほとんど完全に近い自由。


ある程度は、そうなのかもしれない。少なくとも、外側から見ている人間の多くは、そんなイメージを抱いている。だが、その都合のいいステレオタイプの裏側には、まったく別の業界の姿が隠れている。小さな罪と大きな罪。目に見えないルール。そして、存在理由であるはずの大衆との、終わりのない戦い。


アイドルは、二つの要求の間で引き裂かれる。ファンを満足させなければならない。同時に、事務所の目的も果たさなければならない。前者は彼に理想の姿を求め、後者は売り出し、販売し、利益を生み続ける限り使い続けられる商品を求める。そんなシステムの中で、一人の人間としての存在は、少しずつ後ろへ押しやられていく。代わりに前へ出るのは、いつか与えられ、演じ続けることを義務づけられた“役割”だ。


では、その代わりに彼は何を得るのか。


ファンからの愛は、心地よいものだ。それを否定するのは難しい。だが、それが良いものでいられるのは、人を傷つけ始める前までに限られる。許される一線を越え、ストーカーと化した狂信的なファンたちは、定期的にアーティストの精神を壊していく。自宅を見張り、スケジュールを追い、移動先を調べ、私生活に踏み込む。そして警察は、必ずしもそれに対処できるわけではない。具体的な犯罪が起きるまでは、相手に突きつけられるものなどほとんどないのだから。


一方で、事務所も必ずしもすぐに動くとは限らない。形式上、事務所はアイドルの利益を守る義務を負っている。だが実際には、多くの問題は黙殺されるか、先送りにされる。なぜなら、何かを変え始めるということは、自分たちのシステムに脆弱性があると認めることだからだ。場合によっては、ファンに売ってきたコンセプトそのものに、最初から危険が内包されていたと認めることにもなる。まして、金の問題もある。よほどの必要がなければ、誰も余計な出費などしたがらない。


だが、害をもたらすのはファンの“愛”だけではない。


多くの人は忘れている。アイドルも、同じ人間なのだということを。彼らもまた、本物の愛を求める。ステージ上のイメージでも、ポスターの顔でも、イヤホン越しに聞こえる声でもなく、ただ一人の普通の人間として自分を愛してくれる相手に出会いたいと思う。当然、誰かを愛したいとも思う。だが多くの会社では、アイドルの恋愛関係は厳しく禁じられている。もしそれが明るみに出れば、キャリアは一夜にして崩れ落ちる可能性がある。


一方からは事務所が圧力をかける。もう一方からは、長年売り込まれてきたイメージに目を眩ませたファンたちが圧力をかける。“相互の愛”、“手の届く存在”、そしてアーティストの感情に対する自分たちの特別な権利。そんな幻想の中で、ただ愛されたいという普通の願いさえ、慎重に隠さなければならないリスクへと変わっていく。


そして、それだけではない。アイドルが秘密裏に見つけ、恋愛関係や肉体関係を維持していた相手もまた、裏切ることがある。金。マスコミの注目。あるいは、ごく普通の人間的な弱さ。たった一つのリーク。一枚の写真。一つのやり取り。それだけで、何年もかけて築いてきたものが、数時間で崩壊することもある。


では、その時アイドルに何が残るのか。


事務所が小さければ、大きな金など、おそらく存在しない。もっと正確に言えば、アイドルの九割は貧しい。外から見た業界は眩く輝いている。けれど、その輝きがアーティスト本人のものになることは少ない。多くの場合、それは会社、スポンサー、プラットフォーム、そして舞台裏にいるすべての者たちのものだ。


アイドルのキャリアは、ルーレットに似ている。運よく跳ねて、大衆の心に引っかかることができれば、あなたは業界にとって替えの利かない存在になる。金も、人々の視線も、そして周囲が利益を生む限り喜んで支え続ける“自分は重要な存在だ”という幻想も手に入る。


だが、誰の心にも引っかからなければ、ただ時間を無駄にするだけだ。よくても、静かに忘れ去られる。そして奇妙なことに、それはまだ、悲劇的なアイドルの末路としては最も穏やかな結末ですらある。大衆の導き星になるためにステージへ立ったはずなのに、最後には失敗の後、舞台裏へ投げ捨てられる不要なゴミとして終わるよりは。


伊弉波零は、その業界の裏側をよく知っていた。アイドルと事務所の関係がどれほど脆いものか、彼自身も何度も思い知らされてきた。形式上、彼がアイドルでいる期間はまだ四年にも満たない。それは長いとも短いとも簡単には言い切れない時間だ。小規模なグループの多くは、それほど長く続かない。一方で、業界の本当の巨人たちは十年、時には二十年と存在し続けることができる。もっとも、そうした例は当然、ごく一部に過ぎない。


現在の零の立場を考えれば、彼にはその“巨人”に近い比喩のほうが似合っていた。だが名目上は、彼はいまだ新人の範疇にいる。そしてそれでもなお、彼はすでに業界の残酷な現実と向き合っていた。人気は人を守ってはくれない。ただ、一挙手一投足をより目立たせるだけなのだと。


だから、朝目を覚ました彼が、学院のアプリで話題になっているニュースを見つけた時も、驚きはなかった。


むしろ、逆だった。


彼はほとんど、こうなることを予想していた。


Seirin Scope|観測


伊弉波零――学院の新たな憧れか、それとも女子生徒にとっての新たなリスクか?


生徒からの情報によれば、有名な一年生が複数の女子生徒と親しくしている姿が確認されたという。偶然か、開放的な性格なのか、それとも知名度を利用した急速な距離詰めなのか。


投稿には、カラオケ店で撮られた写真が添えられていた。ある写真では零が花房や林の隣に座り、別の写真では黒瀬の隣にいた。そして当然、その中には彼が黒瀬の髪を直している、あの瞬間も含まれていた。


投稿の下には、すでにそれなりの数のコメントが集まっている。


『またこいつか』


『アイドルなら何しても許されるの?』


『普通の交流なら、なんでこんなに距離近いわけ?』


『そろそろ追い出したほうがいいだろ』


『生徒会の対応待ち』


文章そのものには、直接的な告発は含まれていなかった。


だからこそ、厄介だった。


筆者は、零が何か悪いことをしたとは断言していない。ただ疑問を投げかけ、読者自身に“望ましい結論”へ辿り着く余地を残しているだけだ。


こういう手法は、いつだって便利だった。


告発が成功すれば、群衆が勝手に汚れ仕事をしてくれる。逆に状況が筆者にとって不利になれば、「ただ疑問を呈しただけです」という言葉の陰に隠れればいい。


業界では、そうしたものを何度も見てきた。


違うのは、規模だけだ。


向こうでは、注目を求める記者や匿名アカウントがそうした記事を書く。ここでは、ランキングとバッジと世論の圧力という仕組みを手に入れた学生たちが同じことをしている。


だが、原理は変わらない。


小さな石を一つ水面に落とせば、波紋は勝手に広がっていく。


もっとも、零はすぐに一つの違和感に気づいた。


投稿者として表示されていたのは新聞部であり、そのニックネームの横には小さな認証バッジが付いていた。


つまり、これは学校アプリに不満をぶちまけた、どこかの生徒による偶発的な投稿ではない。学院に正式に認められている部活による、公式の投稿だった。であれば、その重みはまったく違ってくる。


もし同じ内容を普通の生徒が書いていたのなら、個人的な嫌悪、嫉妬、あるいは注目を集めたいだけの行為として処理できただろう。だが新聞部が同じことを口にすれば、それは自動的に“公共の関心事”のような顔を持つ。


しかし、それは両刃の剣でもある。


そして伊弉波は、その刃を見逃すつもりはなかった。


朝食を終えた零は荷物をまとめ、学院へ向かった。


✧ ₊ ✦ ₊ ✧


零が教室に入って最初に迎えたのは、静けさと、クラスメイトたちの不安げな視線だった。


もちろん、全員が同じように彼を見ていたわけではない。だが、金曜日のカラオケに一緒にいた者たちの多くは、明らかに落ち着かない表情を浮かべていた。


彼らは、あの写真がどんな状況で撮られたものかをよく知っていた。なぜ零が女子たちの隣に座っていたのかも、黒瀬との一件が文脈を切り取られたものだということも理解している。


つまり、今起きているのは、クラスメイトを貶めようとする試みに他ならなかった。


もっとも、全員がそんな高潔な感情を抱いていたわけではない。


教室の隅では、零のことを露骨に嫌っている三人の“ゴリラ”たちが、すでにひそひそと何かを囁き合っていた。その満足げな表情を見る限り、今回の騒ぎをむしろ喜んでいるのだろう。中には中立の立場を取る者もいた。関わりたくない者、ただ様子を見ながら事態の行方を待っている者。反応はさまざまだった。


零自身は、それらを特に気に留める様子もなかった。


彼は静かに自分の席まで歩き、腰を下ろした。だが鞄を置いた直後、黒瀬、花房、林、そして何人かのクラスメイトが、すぐに彼のもとへ駆け寄ってきた。


「零、私、生徒会に行って、カラオケの時の状況を全部説明してくる!」美羽が真っ先に口を開いた。「ただの誤解で、零の評価を下げるなんておかしいよ!」


「うん、私も行く」と千花が続いた。


「わ、私も……私も行く!」林も二人に続くように言った。


女子たちは、零を庇うつもりでいた。


金曜日以前であれば、おそらくそんなことはあり得なかっただろう。だが、カラオケで同じ時間を過ごしたことで、彼女たちの距離は、今ここで黙っていられない程度には縮まっていた。


それに、彼女たちには理由もあった。


零の予想通り、世論は個人ランキングに影響していた。彼の数値は八十九から八十五まで下がっている。黒瀬たち女子のランキングも、それぞれ二点ほど下がっていた。


全体として見れば、それは致命的な損失でも、取り返しのつかない出来事でもない。零にとってより問題だったのは、点数を失ったことそのものではなく、このランキングがあまりにも簡単に動いてしまうという事実だった。もし会社の社長との賭けがなければ、彼はおそらく今回の件を放置していただろう。四点という数字は、それ単体で見れば大した損失ではない。だが今は状況が違う。これを見逃せば、こうした圧力のかけ方が実際に通用するのだと示すことになる。


今のところ彼が失ったのは四点だけだ。だが、それは始まりにすぎない。ランキングがこれほど簡単に動くのなら、噂をあと二、三個流すだけで、彼の評価は修復を試みるより退学したほうが早い水準まで落とされる可能性がある。加えて、零には黙っていられない理由がもう二つあった。


彼は顔を上げ、美羽たちに向かって微笑んだ。


「心配しないでください。これは、俺たちで一緒に解決しましょう♪」


その顔に浮かんでいたのは、いつものアイドルとしての笑みだった。ステージの上で、カメラの前で、ファンの前で見せるあの表情。柔らかく、隙がなく、あまりに完成されていて、欠点を探すことすら難しいほどの笑顔。


けれど、黒瀬はその瞬間、背筋に小さな震えを覚えた。


目の前に座っているのは、金曜日に一緒に笑っていた、優しくて少し手の届かない零ではないように見えた。天使のように眩しく、心臓が思わず止まりそうになるほど美しい。それなのに、その瞳の奥にある空白が、ひどく恐ろしかった。


「だ、だめ……」ようやく我に返った美羽の口から、思わずそんな言葉がこぼれた。「零が行くべきじゃないよ。だって、あれは私たちのせいでそうなったんだから。私たちが勝手に隣に座って、ちょっと近づきすぎて……」


「違います」


零はすぐに彼女の言葉を遮った。


その声は穏やかだった。穏やかすぎるほどに。


「一つ目。俺は、話題性のために無関係の人間を巻き込み、自分たちでニュースを作るような記者が嫌いです」


彼は一瞬だけ言葉を切り、教室の空気は自然と静まり返った。


「そして二つ目は……」


零はわずかに視線を伏せた。まるで、目の前にいる誰かではなく、もっと遠くのものを見ているようだった。


「俺は、自分の友達が商品みたいに扱われるのが嫌いです」


その言葉の後、教室にはしばらく沈黙が落ちた。誰もすぐには何かを付け加えようとしなかった。おそらく、彼の口からそこまで真剣な言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう。零は感情を荒らげることなく、落ち着いた声で話していた。けれど、だからこそ、その言葉は妙に強く胸に残った。


黒瀬は、すぐには彼から目を逸らすことができなかった。心臓が速く打ち、思考は一瞬、ぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまう。それでも、その中で最初に浮かび上がってきたのは、とても単純で、子供みたいな感想だった。


――やっぱり零って、めちゃくちゃ格好いい。


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