第二十三話
ロブが不在となってから2日が経過した。
そのためアリアに家事を押し付ける存在はおらず、平穏な日々であった。
しかし、アリアは決してサボることなく家事を行っていた。
そして夜は倉庫に戻ってきてグリモアと一緒に遊んでから眠る。
グリモアとは夜だけしか一緒にいれないため、やはり申し訳ないと思いながらも、黒猫はアリアといれるときは全力で甘えてくれたので、アリアもまたグリモアの好意に甘えてしまっていた。
出会って数日ではあったが、最早アリアの生活の中でグリモアは居なくてはいけない存在となっていた。
また夜が来て、朝が来た。
まだ空が白んでいる時間にアリアはグリモアと共に起きる。
眠気を覚ますように背を伸ばすアリアは傍で欠伸をしている黒猫を見て笑う。
黒猫は笑われたことに抗議するように小さく鳴いた。
ごめんね、と黒猫の頭をひと撫でしてアリアは立ち上がる。
手早く着替えを済ませると、行ってくるよ、と再び頭を撫でて倉庫を後にする。
残された黒猫はアリアを見送った後、やることもないため、また寝床に寝転ぶと目を閉した。
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倉庫から出たアリアは井戸から水を汲んで顔を洗う。
冷たい水に眠気は完全に飛んで、ふと視界に森が映った。
数日前までは足が埋もれるほどだった雪も随分と量が減ってきていた。
もう少ししたら暖かくなって過ごしやすくなるが、外の仕事も増えるはずなので、アリアにとっては手放しに喜べる話でもなかった。
森から目を離して、方向転換をして家を向く。
「おい、アリアぁ、そこにいたかぁ!」
今日も頑張ろう、と小さく気合いを入れるアリアの背後から声が届いた。
振り返ると先程まで見ていた木々の間にロブが立ってアリアに手を挙げている。
遠くからでもわかる、男の機嫌は不気味なほどに良さそうであった。
それもそのはずだった、アリアに対して笑顔まで浮かべているのだから。
流石のアリアもその原因にすぐに思い当たる。
“当たり”とやらが上手く売れたのだろう。
(…良かった…ただの実じゃなくて…)
アリアはただそのことに安心していた。
万が一、違った場合にはきっと全てアリアの責任にされてしまったに違いない。
数日間は考えないようにしていたが、本当は心配だったのだ。
でも杞憂に終わったようで本当に良かった。
そんなことを考えているうちに、ロブはアリアの近くまで寄ってきていた。
「ちょっと中に行くぞ。話があんだよ」
男はアリアの肩に手を添えると有無を言わさず、家に向けて歩き始める。
アリアは突然の接触と男の言葉に驚くが、逆らう気はないため、大人しく従った。
男が家の扉を開けて、アリアを見て中に入れ、と手で示した。
アリアが中に入るとナタリアがリビングにいた。
ナタリアはアリアを、そして後ろに立っているロブを見ると驚いた表情になった。
ロブはアリアに続いて家の中に入ってきた。
男はナタリアを見ると帰ったぞぉ、と背負ったリュックをテーブルに下ろした。
「ロブ、おかえり。どうしたんだい?アリアを連れて入ってくるなんて」
ナタリアが不思議そうにロブに尋ねる。
ロブはそれを手で制すると、椅子を引いて座る。
そして、2人にも座るように声を掛ける。
「…ナタリア、これを見てくれよ」
2人が座ったのを確認して、ロブは話し始める。
同時にリュックを開くと、中から革袋を取り出して自分の前にドンと置いた。
「なんだい、この革袋は?」
見慣れない袋にナタリアは再度尋ねた。
ロブは中のもんを出してみろよ、とナタリアの方に袋を寄せる。
ナタリアは怪訝そうな顔で袋を手元に持ってくると紐を解いて、袋をひっくり返した。
中身が音を立てながらテーブルに散らばる。
「なっ…!」
ナタリアがテーブルに散らばったものを認識。
怪訝そうな顔はすでに驚愕の顔に変わっていた。
アリアはナタリアとテーブルのそれを交互に見たがキラキラしてるものくらいにしか思わず、何故そこまで驚いているのかが理解できなかった。
「アリアが採ってきた実がな、どうやら適性強化の果実ってやつだったらみてぇでよ。こんだけの稼ぎになったんだよ」
ナタリアがそれをどこまで聞いているのかわからないが、震える手でテーブルの白金貨に触れて枚数を数える。
「7枚も…凄いじゃないか…」
「……で、だ」
ロブはナタリアの言葉を遮るように口を開いた。
その目は、先ほどまでとは違う光を帯びていた。
「適性強化の果実はあの森にまだあるに違いねぇ…」
男の口から飛び出したのは断言だった。
「一個でこれだぞ?だったらよ……もっと採れりゃ、この冬どころか…」
なぁ、そうだろ?とナタリアに同意を求める。
ロブの言い分は正直、何処まで本当かわからない。
しかし本当にそうなったとすると、今後お金に困らずに生活が出来るだろう。
チラッとアリアの顔を見る。
アリアにはロブの話が半分以上わかっていないようできょとんとしている。
そんなアリアが起こした恐ろしい事件は忘れたわけではないが、やはりアリアも憎み切ることも出来ていなかった。
だからお金に余裕が出来れば、アリアを売り飛ばす理由もなくなるはずだ。
都合が良い、勝手な話というのはわかっているし、前のように暮らすのは難しいとは思っているが、それはナタリアには魅力的な話に思えた。
「そうだね…それならもっと探さなきゃね」
だからこそ、ナタリアは一縷の望みを託した。




