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第二十一話

 グリモアの言葉ではない気持ちを受け取ることができた。

 そのことにアリアは嬉しくなって、グリモアの頭をクシャッと撫でていたが、しばらくすると肉球に挟まれて中断されてしまった。


 アリアは手を引っ込めると、調子に乗りすぎてしまったかな、と反省しながらゴロンと横たわる。

 グリモアも少女の傍らに丸まって自分の場所を主張していた。

 それを横目に見つつも、昨日からの疲れがドッと少女にのしかかってきた。


(あと少しだけでも休めるかな…)


 昨日頑張ってお使いをこなしてきたのだから、ロブも少しだけなら許してくれるかもしれないと考えていた。

 だが、そう簡単にはいかないことをすぐに思い知ることとなった。


 突然、グリモアが体を起こしてサッと倉庫の奥に身を隠したのだ。

 アリアが消失した温もりに驚いて起き上がったとき、足音と共に扉が乱暴に開けられた。


「アリア、起きてるよな?」


 そう言ってロブが遠慮することなく入ってくる。

 慌てたアリアは勢いよく立ち上がって男を迎えた。


 男が来たことを察知して隠れたのだと、グリモアがルールを理解していることに安堵するアリア。

 しかし、同時に男にグリモアの姿が見られていないかわからないため、内心は生きた心地がしなかった。


 ロブはアリアが急に立ち上がったことに怪訝な顔をしているが、興味はなかったのか追求はしてこなかった。

 そのことにわずかに安堵していたアリアだったが、次の言葉でまた肝を冷やした。


「アリアよぉ…昨日は遅かったみたいだな」


 良いご身分だなぁ…と舌打ちをするロブ。

 グリモアのことはバレていないみたいだが、帰るのが遅かったことを怒っているようだ。

 その言葉がアリアのことを心配をしていたわけではないと、これまでの経験からわかっている少女。


 アリアはただ体を強張らせ、小さくなりながら次の言葉を待つしかなかった。


「帰ってきたら、どんな罰を与えてやろうと思ったが、今回は特別に許してやるよ」


 罰という単語に思わず体を震わせる。

 しかし、そのあとに続いた言葉はアリアにとって完全に予想外のものだった。

 驚いた少女は隠れている目をパチパチと瞬かせる。


 どうして許されたのだろうと考えを巡らせるが思い当たることはない。

 ただ目の前のロブは上機嫌に見えた。

 一体どう言うことだろうとまた身構えてしまう。

 そんなアリアの反応に気付く様子はなく、饒舌に話を続けていった。


「採ってこさせたリリィの実を見たがよ。一個だけ当たりがあってな」


 でかしたぞ、と笑うロブ。

 当たり、とはよくわからないが、アリアが集めた果実の中に良い物が混じっていたらしく、そのおかげで遅く帰ったことが許されたということらしい。

 嬉しそうにしている男の顔はだらしなく歪んでいた。


「あれを売りゃあ、しばらく働かずに暮らせるに違ぇねぇぞ…」


 独り言のように語るロブはすでにアリアの方を見ていなかった。

 その後、ロブはその当たりと言うものを街まで売りに行く、とアリアを放って倉庫から出て行った。

 去り際に、早く働けよ、とだけ残して。


 静かになった倉庫。

 アリアは嵐が去ったあとのようにふらふらと扉を閉めて、また寝床に座り込む。

 そのアリアの足に柔らかい感触。

 ロブの気配がなくなったことを確認して、グリモアも倉庫の奥から出てきたようだ。


 アリアの足に頭をすり寄せるグリモアの様子を見て、この子がロブに見つからなくて本当に良かったと改めて息を深く吐いた。

 ロブの来訪で更にドッと疲れたアリアはこのまま眠ってしまいたいと考えるが、男に言われた通り、働かないわけにはいかないため、疲れを無視して何とか立ち上がる。

 離れた体温にグリモアが不満そうにしている。


「ごめんね、グリモア」


 続けて、良い子にしていてね、と小さな声で黒猫に告げる。

 そして、黒猫のために自分の寝床を倉庫の扉から出来るだけ見えない位置に移動させた。


 グリモアは寝床に渋々、移動するとそこで丸まって目を閉じた。

 その姿に視線を柔らかくすると、アリアは家事に向かったのだった。


―――――――――――――


 ロブが街に行った日は、いつもよりやることが少なかったこともあって、何とか全ての家事を終わらせることができた。

 途中、何度か眠気に負けて、頭を水桶にダイブさせそうになったり、包丁で怪我をしそうになったりしたが、奇跡的に意識を取り戻していたのだった。


 極限状態であまり記憶がないが、ナタリアも近くにいたように思った。

 彼女はアリアのことを見ていたが、一言もアリアに話しかけてくることはなかった。

 アリアからもまた声を掛けることはなかった。

 いつもと変わらない距離に寂しさを感じるが、いつもより少し平気に思えたのはグリモアのおかげだろうか。

 

 そんな一日を終えて、早めに倉庫に戻るアリア。

 グリモアは飛び込む勢いで少女の足に体当たりしてきた。


「遅くなって、ごめんね」


 アリアは足元の黒猫の頭を撫でると、隠していた食べ物を取り出した。

 グリモアもお腹が空いているのか鼻をひくつかせている。

 早速食べさせてあげようと思ったアリアだが、倉庫には食器がないことに気が付いた。


(ど、どうしよう…)


 悩みながらも、グリモアが早く寄越せと言わんばかりに擦り寄ってくるため、ごめんね、と言いながら仕方なく地面に置くことにした。


「明日は、お皿…もってくるね」


 グリモアに約束する。

 当の黒猫は気にすることはなく、美味しそうに食べていた。

 アリアはその姿を愛らしく思って微笑む。

 そして、寝床に横になってしばらく眺めていたが、連日の酷使で限界が来ており、そのまま意識を失うように眠ってしまった。

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