観戦・アニマル大相撲! 2
『コアラ富士~。コアラ富~士~』
「しもた!
推しの取組に間に合わんかった!」
「あわー、コアラさんのお相撲さんだー!」
座る位置を正面の升席最奥に決めて。
転移した時は、勝負が決まった直後だったみたい。
土俵の上では、綺麗な衣装を着た、タヌキの行司さんがいる!
勝ち名乗りを受けているのは、大きなコアラさん!
腰を落としているのに、背筋がまっすぐに伸びてる。
とても収まりがよくて、綺麗な姿勢に見えるよ。
「あちゃー、見れんかったかー。
…でもまあ、勝ったんなら良しや!」
「おしゃべりしてないで、すぐに入れば良かったね。
ごめんね、ナナミさん」
「ええねんええねん。
説明するのに夢中になってたん、ウチやし。
結果勝ち星が付いとるんやから、これでええねん!」
「…うん、推しの力士が勝てて良かったね。
決まり手は何だったんだろう?」
「寄り切りか、左下手、右上手辺りちゃうかな?
左の差し手で勝負する力士やねん」
「テレビだったら、解説してくれるんだけどねー」
「獣大相撲にもあるで、解説。
ちょっと見てみよか。
ナビ子ー、頼むわー」
ナビゲーターさんにお願いすると、土俵を正面に見て斜め側に、お買い物の時に使うような電子板が生成された。
そこには、着物を着た狐さんと、スーツ姿のタヌキさんが映ってる。
『キタキツネさん、今の取組は如何でしたか?』
『コアラ富士に左を差されたらねぇ。
そこで勝負有りですよ。
左四つにがっぷりの時点で、コアラ富士の有利だったねぇ』
『左四つの強さは文句無しですか?』
『そりゃあねぇ。
形が組めれば、横綱とも張り合えるんだから。
天下一品ですよ。
コアラ富士の対戦相手は、あの形にさせないように組まなきゃならん』
『それが難しい、と』
『土俵際で粘り強いからねぇ。
焦れてる内に、いつの間にか脇を差されるんだねぇ』
『なるほど。
今の取り組みは、左四つからの寄り切りで、コアラ富士の勝ちとなりました』
落ち着いた雰囲気の、説得力のあるトーンで話す、2人の解説実況。
なんだか、聞いている内にのんびりしちゃう様なトークかも。
だって、キツネさんとタヌキさんがお話してるんだもん。
可愛くて、のほほんしちゃうよー。
「あー、いつもの勝ちパターンやわ。
左手を差した瞬間、一気に盛り上がるんよなー!」
「ほえー。あのコアラさん、強いんだねえ」
「そらそうや!
3役常連!
東側の前頭筆頭や!
…今場所は負け越してもうたけど」
「あわわ、残念」
「…ええねん!
負け越したって、来場所がある!
相撲は粘り腰なんやー!」
ナナミさん、すんごくテンションが上がってる。
もう1時間、早くに集合すれば良かったかな?
あれ?
時間も場所も、ナナミさんが決めたんだっけ?
お相撲って、6時には終わるはずだけど。
他の場所にも遊びに行くのかな?
それか、獣大相撲だと終わりの時間も変わるとか?
『東~、クマ安~。西~、サイノ心~』
「あわー!クマさんだ!
ツキノ、クマのお相撲さんだよ!」
「きゅまー…!」
コアラさんが下がった後、土俵にはクマとサイのお相撲さんが上がって来た!
どっちの力士も、さっきのコアラさんより背が大きい!
それに、片方はクマのお相撲さん!
これは、俄然応援したくなっちゃうよ!
僕の膝に座ってるツキノも、お目々がキラキラし出してる!
一緒に座ってる愛ちゃんも…あんまり興味無さそう?
ふにゃあって欠伸をして、ぼんやりと見てる感じ。
まぁ、ペットそれぞれに個性があるのは良い事だよね。
プレイヤーと趣味が同じじゃなくても、それはそれで良いと思う。
背中を撫でると、気持ちよさげに鳴いてくれるから。
退屈してるってワケじゃなさそうだしね。
「やっぱり、ツキノちゃんは気になるよなあ!
クマ安関はな、マレーグマがモデルの力士なんやって。
東南アジアは勿論、インドと中国の端っこにまで生息しとる熊なんや。
本来は小さ目の熊なんやけど、クマ安関を見とるとなー」
「明らかに大きいよね、あのクマさん。
サイさんも大きいから、行司のタヌキさんが心配になるよ…」
立ってるだけで土俵が小さく感じてしまうような2人の力士に挟まれて。
元々背の低そうなタヌキさんが、より小さく見えちゃう!
慣れているのか、当人は意に介さずって感じだけど…
巻き込まれて潰されたりしないか、心配…!
「それなら心配いらんで。
獣大相撲の行司には、『当たり判定』が無いねん。
ぶつからんように動き回るし、力士と重なっても透過するのよ」
「…そういえば、ゲームの中のお相撲なんだもんね。
現実感があるんだか無いんだか、よくわからなくなってきた…」
見ているのは、クマさんとサイさんの大きな関取で。
話しているのは、見慣れた様なお相撲の事で。
心配してる先は、小さなタヌキの行司さん。
…ゲシュタルト崩壊しそうになってきた…っ!
「電子空間について、一々考え過ぎたらアカンよ。
怪我せんで良かったーって、笑うてればええねん」
「…頭が痛くなる前に、そうするよ。
試合も始まりそうだしね」
「せや、もう始まるで!
行司の軍配が返って、お相撲さんがタオルで体を拭いたら…待ったなしや!」
タヌキの行司さん、2人の力士が土俵に上がってから微動だにしていないけど。
よく見ると、手に持ってる軍配が上げられている。
待ったなしの掛け声が無かったから、いつ上がったのか気が付かなかった。
…そういえば。
実況解説の2人は普通に話してたけど。
行司さんは、しゃべれないのかな?
「この取組は、立ち合いが見どころやで。
クマ安の右のかち上げに、サイノ心が押し負けせんで掴めるかが勝負の境目や」
「かち上げ?」
「前腕を相手の胸元に叩きこむ技や。
色々と賛否の別れる当たり方やねんけど。
クマ安のかち上げは肘を出さんし、顎も狙わん。
れっきとした、相撲の技やで」
ナナミさんの解説を聞いてる内に、両力士が仕切り線の後ろに立って、屈む。
お相撲では、審判が始めの合図を出さないから。
対戦する両力士がタイミングを合わせないといけない。
片手を付いて、お互いの呼吸を合わせて。
両者が残る手を付けた瞬間に立ち合いが成立する。
僕たちは今、その瞬間をじっと待っているんだ。
…膝の上で固唾を吞んで見守っているツキノと、半分寝そうになってる愛ちゃんを撫でながら、だけどね。
この物語は、フィクションとしてお楽しみください。
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