Hello, mou mou. 7
「スズメさん、手袋は貸して貰えるの?」
『はい。勿論です。
搾乳用手袋、タオル、木桶、牛乳瓶もご用意します。
補足説明ですが。
ジョージ様が仰ったのは、現実で行う場合の注意点です。
Animal Gardenの牛には、必ずしも必要な事ではありません。
この世界に細菌や乳房炎までは再現していませんので』
アニガーの牛さんは、あくまで牛をモデルにしたe-petsだもんね。
この世界に、病気まで再現しないっていうのもわかる。
ジョージさんに聞いた注意点は、みんなに伝えた方がいいと思うけどね。
プレイヤーが現実でも牛さんの乳絞り体験をするかもしれないから。
『一方で。
これらの点を守れば、Animal Gardenの牛達も喜ぶでしょう。
彼らが牛をモデルにしているのは、外見だけではありません。
現実で好まれる行いは、ここの牛達にも嬉しい事だと言えます』
「つまり、僕が気を付けて接すれば、牛さんも嬉しいって事だよね?」
『ええ。その認識でよろしいかと思います。
それでは、道具一式を生成します』
キラキラパッパと木の机が生成されて。
その上に手袋などの道具が並んで生成されていった。
地面の上にポンって置かれないのは、細やかな気遣いを感じるところ。
別に地面の上でも汚れたりはしないんだけど。
気分的には、こうして貰える方が断然いい!
「あっはっは!
すまないね、ウィート君!
ナビゲーターの雀君に補足されてしまったよ!
ゲームの中なんだから、何でも現実と同じに考えてはいけないね!」
「僕もスズメさん、僕のナビゲーターに補足して貰いました。
ジョージさんに教えて貰った事を守れば、牛さんが喜ぶって。
だから、大事なお話を聞かせて貰えて良かったです。
ありがとうございます、ジョージさん」
「そう言ってくれると安心するよ!
いい子だねえ、ウィート君は!
あっはっは!」
ジョージさんも同じタイミングでナビゲーターさんとお話ししていたみたい。
他のプレイヤーのナビゲーターは姿も声も認識できないから。
プレイヤー間で一緒に行動している時は、ナビゲーターさんとの会話のタイミングをシステム側で同期させているのかも。
「まずは、手袋を付けてっと。
良し、これで準備万端だね。
牛さん、お乳をわけてもらうね」
「…モー」
「まずは、前絞りからだね。
…うーん?
スズメさん、牛さんのお乳が4つあるんだけど。
1つだけでいいのかな?」
『いえ。できれば4つとも絞ってあげて下さい。
その方が牛も嬉しいでしょうから。
前絞りの分は、地面に出してしまって大丈夫です。
私が電子分解しますので』
「わかった、ありがとう。
じゃあ、1つずつ綺麗にしていくね。」
「…モゥ」
屈んで見たら、牛さんにはお乳が4つ!
びっくりしたけど、牛さんて複乳なんだっけ?
念のため聞いてみたけど、4つとも綺麗にした方がいいらしい。
それはそうだよね。
自分に例えてみれば、気持ちがわかる。
左足だけ洗って、右手、左手、右足を洗わない感じだもん。
正確な例えじゃ無いだろうけど、やっぱり気持ちが悪いよね。
「親指と人差し指で、根元をぎゅっと締めて。
中指、薬指、小指ー!
…これを3回ずつだね」
結構力を入れているけど、痛くないかな?
逆流させちゃいけないと思って、根元はしっかり絞っているけれど。
「牛さん、大丈夫?
痛くない?」
「…モー」
『大丈夫だそうですよ。
丁度いい力加減の様です』
「そっか、良かった。
じゃあ、残りもやっちゃおう!」
僕の力なら、強めに絞っても痛くならないみたい。
牛さんの右側で6回、左側で6回の前絞りをして。
お乳を綺麗に拭き上げる。
これだけでも割と運動になるけど、本番はここから!
木桶を牛さんの下に置いて、牛乳を頂こう!
「何回くらい絞ればいいのかな?」
「プレイヤーは1日20回までの乳絞りが許可されているよ!
20回やりきると、2Lの牛乳が貰えるね!」
『今回の場合は、1つの分房に付き5回ずつの搾乳がよろしいかと。
現実の乳牛は1日に一定量の乳を搾る必要がありますが。
アニガーの牛は経産牛ではありません。
必要であれば牧場付きのnavigatorが調整しますので、ご心配なさらずに』
5回ずつなら、あっという間に終わっちゃうね。
牛さんに、感謝の気持ちを込めて。
一回一回丁寧に、しっかりと力を込めて。
お乳を搾って、ミルクを出してもらう。
これで、美味しいお料理を作るからね!
前絞り同様、牛さんの右側で10回、左側で10回。
しっかりと搾った後は、忘れずにお乳をタオルで拭う。
「ふう、これで終わりっと」
「あっはっは!
お疲れ様、良く頑張ったね!
そこから先の作業はナビゲーターに任せるといいよ!
零す可能性があるし、牛乳瓶の保管もしてくれるからね!
丸っとお任せしてしまうと良い!」
「ああ、なるほど。
せっかく貰った牛乳、台無しにしたら悲しいもんね。
スズメさん、お願いしていいかな?」
『こちらはお任せ下さい。
完璧に移し替えますので、ご安心を。
手袋も電子分解しておきます』
もう使わない手袋は、分解してくれるらしい。
牛乳の瓶詰めと一緒にスズメさんにお任せして。
僕は、牛さんに感謝を伝えないと!
「牛さん、ありがとう。
貰った牛乳、家族でみんなで飲ませてもらうね。
美味しいお料理も作れると思う。
本当に、助かるよ」
手袋を外した手で、牛さんの背中を撫でると。
短くてサラッとした黒い毛が、手の平をくすぐって来る。
顔を寄せると、暖かくて、力強い鼓動を感じるよ。
うーん。
この子とふれあってると、どんどん牛さんが好きになってくる。
それだけに、ペットにできないのが残念で仕方ない!
アダプト可能な30タイプには牛さんが居ないんだよね。
あわー、ホームに連れて行きたいよー!
「…モゥ」
「あわわっ!」
名残惜しくて、ぎゅうぎゅう抱き着いていると。
牛さんが僕の頬っぺたをペロッて舐めてくれた。
ペロッて言うか、ベロッて感じかも。
舌が長い分、ひと舐めが長ーいっ!
『…ウィートさま、この牛から要請が入りました。
クエスト発生です』
「…クエストッ!?」
あわわっ!?
そんな急に?
牛さんの顔を見てみるけど、じっと僕を見つめて来ている。
どうしたの?
何かして欲しい事があるのかな?
『クエスト・名前付けです。
この牛に名前を付けてあげて下さい』
「名前?
僕のペットじゃないのに、いいの?
ホームには連れて帰れないんでしょ?」
『world's fieldsに居る野生種のe-petsを、ホームに連れ帰る事はできません。
しかし、仲良くなった個体に名付けを願われる事があります。
付けられた名前は正式にその個体名として登録され、以降の変更は不可です。
…ちなみに、ですが。
名付けをしないまでも、ある程度仲良くなった野生種のe-petsは、該当するプレイヤーのホームに遊びに行くことができます。
幾つかの条件はありますが、プレイヤーがログイン中か否かは限定されません』
ホームに連れて帰れなくても、遊びに来てくれる様になるんだ!
これは、凄く嬉しい!
牧場には定期的に来るつもりだし、次からはスズメさんにこの子を探して貰おうと思っているけれど。
ホームでも会えるようになるのは…控えめに言って、最高だね!
それに、牛さんの名前。
実はもう思いついてるんだ。
僕のペットじゃないからさ。
勝手に名前を付けたり、呼んだりできないと思ってたけど…
牛さんが望んでくれるなら、この名前がいいと思う!
「春姫。
ハルヒが、君の名前だよ」
仔牛たちを見守る優しい眼差しと、抱きしめた体の暖かさ。
お姫様みたいな綺麗な顔立ち、艶やかな黒い毛並み。
僕の中ではストンと嵌る、ぴったりな名前だって確信がある。
「…モゥ♪」
あわわっ。
体をすり寄せて、嬉しい気持ちを伝えてくれる!
…この子が喜んでくれて、良かった!
ホームには連れて行けないけれど。
ちょくちょく会いに来るからね。
君も、いつでも遊びに来ていいんだよ?
これからよろしくね、春姫!
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「あっはっは!
若さってのは良い物だねえ!」
「ウキー」
「大丈夫!
邪魔なんてしないさ!
あとはお若いお二人でってヤツだ!
あっはっは!」
「ウキッ!」
「スマンスマン!
1度言ってみたかったセリフなんだ!」
「ウキー…」
「あっはっは!
しかし、あっちの子たちも楽しそうだねえ!」
「ウキ」
「子グマに、仔牛!
雀に、子リス!
可愛い物好きにはたまらないね!」
「ウキ」
「天君も混ざってくるかい!?」
「ウーキ」
「私と一緒に居てくれるのか!
天君は優しいねえ!」
「…ウキャーッ!」
「照れるな照れるな!
あっはっは!」
「ウーキー…」
「あっはっは!
しかし何だね!
あの子たちは、ウインクばかりして目が疲れないかね!?」
「ウキー…」
「しばらくの間、ウチでも流行りそうだねえ!
天君もやってみるかい?
あっはっは!」
「…ウキッ☆」
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